レポート2
県下全域の高校と大学で進む
連携の取り組み |
| 広島県高等教育機関協議会 |
| 広島県では、大学の授業を高校生に提供する高大連携事業が全県レベルで行われている。その牽引役を担っているのが広島県高等教育機関協議会である。同協議会代表幹事を務める広島修道大学の市川太一教授は、今後は広島県という枠にとらわれず、県外の大学にも参加を募って、高大連携を図っていきたいと抱負を語る。 |
| 単位互換から生涯学習そして高大連携へ |
広島県高等教育機関協議会は1998年に設立された。そのきっかけは当時、広島修道大学学長であった市川太一教授が、広島工業大学、広島経済大学、安田女子大学の3大学の学長に「学生の多様なニーズに応えるとともに、社会人にもより幅広い学習機会を提供するために、一緒に連携して県全体の高等教育機関を魅力あるものにしていこう」と呼びかけたことだった。
同年4月には県内33大学・短大のうち30の大学・短大による協議会が発足し、その後単位互換協定を結ぶとともに、協議会の事務局を県の教育事業団（現在は生涯学習センター）に置いて、社会人を対象にした生涯学習講座も随時開講した。
「単位互換」と「生涯学習」の2大事業に「高大連携」が加わったのは、99年12月、中央教育審議会から「初等中等教育と高等教育との接続の改善について」という答申が出たことがきっかけだったという。
「この答申を受けて委員会で検討しましたが、役員に消極的な意見もあったので様子を見ていました。広島大学が広島県教育委員会と独自に検討し、高大連携を始めるというニュースが入り、それをきっかけとして協議会加盟校全体でやろうという話になりました」と市川教授。
また、市川教授は広島県独自の進学事情もきっかけの一つだったという。新幹線等の交通の便が良く、博多や神戸等の大都市にも出やすいため、県外に流出する受験生も多い。そのような受験生を県内に引き留めるためにも、高大連携の取り組みは必要だった。
しかし、この高大連携については当初、協議会加盟校の中でも取り組む姿勢に温度差が見られた。そこで、まず賛同する大学だけでも、高校生に大学の授業を提供することから始めようということになり、そのためのシステム作りが急ピッチで行われた。
協議会の仲井正美事務局長は当時を振り返り、「このようなシステム作りが短い期間にスムーズに行えたのは、すでに単位互換制度などで大学からの科目の提供、履修希望者の募集、受け付けなど、事務的手続きのノウハウがあったからです」と語った。 |
| 公開講座と公開授業をダブル提供 |
02年度からスタートした高大連携プログラムによる高校生対象の授業提供には、二つのコースが用意された。一つは大学の正規の授業をそのまま高校生にも開放する「公開授業」、そしてもう一つは高校生向けにアレンジされた「公開講座」である。初年度は18大学・短大が92科目の公開授業と24科目の公開講座を提供した。
それに対し、高校側からは、広島県下の全高校152校（国立大学付属高校を除く）の参加があり、公開授業に157人、公開講座に153人が集まった。しかし、総計116科目用意された授業のうち高校生が実際に受講したのは52科目にとどまった。
「初年度は2回にわたって募集をするなど認知を広める活動を行いましたが、こういった取り組みを積極的に生徒に紹介している高校とそうでない高校の間では、参加人数の差が大きかったようです。もっと公開授業や公開講座についての情報がほしいという要望は高校生からも聞こえてきますので、今年度からはホームページで授業内容を検索できるようにしました。また、未参加高校のために単位認定の規定についての説明会を開いたり、募集手続きの簡素化などの施策も図りました」と仲井事務局長。
そのせいもあってか、03年度は参加大学も22大学に増え、121科目の公開授業に対し、173人の受講生、24科目の公開講座に対し、190人の受講生が集まった。
「初年度は圧倒的に広島大学の受講希望者が多かったのですが、今年度はかなり各大学に分散し、広島県東部の県立保健福祉大学への希望者が増えました。通いやすさや授業内容で選択するという傾向が強まったからだと思います。また、夏休みや土日に開講されることもあってか、公開講座の人気が高いようです」と仲井事務局長は言う。
ちなみに、03年度の公開授業から人気の高かった科目をあげると「海と大地の恵みのサイエンス」（広島大学生物生産学部）「国際協力（ボランティア活動）」（広島国際学院大学工学部）「作品研究（管弦楽）」（エリザベト音楽大学音楽学部）「生物工学概論」（広島県立大学）「機械システム工学入門」（広島工業大学）となる。
一方、公開講座では「リハビリテーション科学入門」「人々の健康生活を支える看護の技術」（広島県立保健福祉大学保健福祉学部）「地域づくりのための資源の有効活用」（広島県立大学生物資源学部）「工学入門」（広島大学工学部）などがあげられる。また、体験学習として、海上保安大学校が提供した「海の入門講座と体験学習」なども人気を呼んだという。 |
| 大学生にとっても緊張感が生まれ相乗効果に |
02年度の公開授業に参加した高校生のアンケート結果は以下のようなものだった。
・高校生の時から大学の授業を受けることはやる気にもつながり、様々なことに興味がわいてよいことだと思う。（県立高校2年生）
・日頃の授業と違い、一つ一つのことを細かく扱っていて、とても興味のわく授業だった。（私立高校3年生）
・実際に大学生と同じ講義を受講し、レポート提出も経験したのは大学の雰囲気を知る上でとても得るものがあった。大学で勉強したいという意欲が高まった。（県立高校3年生）
一方、大学生側の意見としては、
・高校生と一緒に授業を受けたということで、よい意味で緊張感があったように思う。高校生の真剣な聞き方（態度）には感心した。（大学4年生）
・大学生並みの能力があるのなら、高校生でも大学の授業を受けることはすごくいいことだと思う。自分の学力に合った勉強ができるのなら、それにこしたことはない。（大学2年生）
これらの意見から、大学の授業を高校生が受けるということは、高校生だけでなく、大学生にとっても良い意味で緊張感が生まれることがわかる。
「最初は制服姿の高校生が自分たちの授業に参加していることに、学生たちは違和感を持っていたようです。しかし、高校生たちは非常にまじめに授業に出席しますし、活発に意見や質問もします。そんな彼らの姿に自分たちも負けていられないと学生も奮起して、いい雰囲気で授業ができました。これは大学にとっても、大きなメリットだと思います」と市川教授。 |
| 高大連携も多様な入学機会の一つに |
このような高大連携の取り組みについて高校側からは、「受験生の青田買いに繋がるのではないか」という危惧も聞かれたという。現在、自大学の公開授業や公開講座に参加した高校生に対して、AO入試等で優遇しているような大学はない。
だが、市川教授は、個人的考えとして、今後は優秀な高校生であれば優遇していく入試方法があってもいいと言う。「ただし、どういう基準で選考するのかがはっきりと分かるような入試にすべきです。その上で、大学と高校双方にとってメリットがあるならば、高大連携も多様な入学機会の一つとして考えてもいいのではないでしょうか」。 |
| 高校生の生活圏に合わせ県境を超えた連携へ |
「今後は、高大連携事業への参加大学、高校の広域化を図りたいと考えています。例えば、広島県の東部は岡山県、西部は山口県の大学に高校生は通うことができます。広島県という枠にとらわれず高校生の生活圏に合わせ、ニーズがありそうな大学にメンバーに加わってもらうよう、働きかけていきたいと考えています」と市川教授は抱負を語る。
受講した高校生がその大学に入学しなくても、何かしら得るものがあればそれでいい。高校生に学ぶ意欲を持ってもらい、活力を与えたい。そんな願いから始まった高大連携は、県境を超えて広がろうとしている。 |
