特集 高大連携の新たな展開
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レポート3
地域貢献の理念の下、大学連合の機動力で
高大連携の抱える課題を乗り越える
学術・文化・産業ネットワーク多摩「チャレンジキャンパスプログラム」
地域における産官学の連携を目指し、49の大学・短大と自治体、企業などが参加する「学術・文化・産業ネットワーク多摩」が昨年7月に発足した。多彩な活動を展開する中、今年4月には、多摩地域の131高校の生徒を対象に、11の大学・短大の授業を開放する「チャレンジキャンパスプログラム」(CCP)がスタート。大規模な授業開放は、従来の高大連携とどんな違いがあるのだろうか。
高校側の要望に応え「誰でも受けられる」授業開放を
 「学術・文化・産業ネットワーク多摩」には、大学のほか八王子市、立川市、川崎市などの自治体、地元企業、非営利団体が名を連ねる。都心からのアクセスが便利な多摩地域には大学、短大が集積しているが、工場等制限法の撤廃を受けた都心回帰の動きが起きている。「大学が持つ知的資源を地域の財産として活用し、地域の活力を向上させよう」というのが、ネットワーク設立の狙いだ。準備会の段階から、大学間や初等・中等教育との連携、生涯学習支援などの柱を掲げ、数々の事業を展開。当初27校だった参加大学・短大も今年2月末現在49校に上り、その輪は拡大しつつある。
 同ネットワークでは、高大連携にも積極的に取り組んでいる。募集戦略の一環として位置付けられることが多い高大連携に、地域貢献を掲げる大学の連合体として取り組むことで、高校や行政からの理解と協力も得やすくなっている。2000年度からは、東京都教育委員会の委託を受け、都立高校の教員のリカレント教育を実施。大学側が、数学、英語など分野ごとに教員の専門性を生かした科目を設定し、選択して受講してもらうシステムで、反応も上々だ。01年度は17大学が34講座を開催し、564人が受講。公立学校の教員の在職10年研修が義務化された本年度は、都教委の依頼で小中学校の教員にまで枠を広げ、約800人を受け入れる予定だ。
 独自事業としては、01年度に、進学・就職指導を担当する高校、大学の教員を対象とした進路指導研究会を設置したほか、この4月から「チャレンジキャンパスプログラム」もスタート、大学の一部の授業を高校生に無料で開放している。後者は、公私立の区別なく、多摩地区高等学校進路指導連絡協議会に加盟する131高校の2、3年生を11の大学・短大の授業で受け入れるという、これまでにない大規模な試みだ。
 高校生への授業開放は大学単位でも盛んに行われているが、優秀な学生の確保を狙って対象を進学校に限る例も多い。生徒が進路選択の参考に大学の授業を受けたくても、高校によっては事実上、門戸を閉ざされているのが現状だ。これに対し、昨年7月の同ネットワーク設立準備会で高校側から不満の声が上がったことが、CCPのきっかけになったという。同ネットワーク事務局を務める中央大学学長室の柏木哲担当課長は「意欲のある高校生なら誰でも大学の授業を受けられるよう機会を提供することがプログラムの目的。そのため、評定平均値などの縛りをかけず、自己紹介書と高校の推薦書があれば受講できるようにしました」と説明。
 同ネットワークが会員大学に協力を呼びかけたところ、中央大学をはじめ亜細亜大学、成蹊大学、山野美容芸術短大などが参加の意向を示した。全日制の高校生が通いやすい午後遅い時間帯の開講で教養的な内容という条件の下、各大学が科目を選定(図表1)。高校生はその中から一人1科目を選んで大学生と一緒に受講、試験も受ける。
 単位を授与する科目等履修生とするか聴講生とするかは大学の判断に任せている。今回は7大学が科目等履修生として受け入れており、自大学に入学した場合には単位認定するというところもある。一方、同ネットワークでは高校に対して、卒業単位として認めるよう要請している。
チャレンジキャンパスプログラムでの開放科目の一部
学生募集など経営的観点から大学個別の高大連携事業も
 CCPの検討段階では、大学側から「遊び半分で来る生徒がいた場合、授業の妨げになる」「無料にすると、同じ授業を受ける大学生の理解が得られない」など懸念の声も上がった。教員の負担増大についての指摘は特に多かったという。
 柏木課長は「本学の商学部でも独自に授業を開放していますが、それによって教員の負担が大きく増したということはない。また、真剣に進路のことを考える高校生に対し、同様の不安を経験してきた大学生が、無料だからといって不満に感じることはないと思います」と話す。自己紹介書でも「介護福祉士を目指しているので医学関連の授業を受けたい」というように、目的意識が明確な高校生が多いという。
 大学が連携することで間口の広い事業が可能になる一方で、各大学が単独で行う事業とどう線引きするかという課題もありそうだ。中央大学でも商学部と理工学部が、評定平均値のハードルを課したり、大学の授業でのレポートを推薦入試と結び付けるなど、CCPとは異なる高大連携の制度を設けている。
 事務局としては、これら大学の独自事業とCCPとの棲み分けは特に考えていないという。「ネットワーク多摩はもともと地域貢献という理念で出発した。その一方で学生募集など経営に関わるそれぞれの大学の視点はあって当然で、そこは各大学の判断と手法でやっていただけばいい」と、柏木課長。
リスクマネジメントなど大学の実務面の課題が影響
 CCP初年度となる今回は、定時制を含む17の高校から34人が9大学で授業を受けている。受講者が予想外に少なかったのは、各大学での時間割確定と事務局での集約が遅れたためと考えられる。開放科目は昨年12月に発表したが、時間割は1、2月に決める大学が多く、高校生は、自分の希望する科目が物理的に受講可能かどうか、応募締め切り日までに見極めるのが難しかったようだ。事務局ではやむを得ず、時間割については各大学に問い合わせてもらう形にした。「結果的にネットワークの利点が生かせず、高校側の負担が大きくなった。問い合わせ自体はかなり多く関心が高いので、こうした課題が解決できれば受講者は増えるはずです」。
 事務局では今後、受け入れ大学の数も増やしたい考えだ。今回、受け入れを見合わせた大学が理由として挙げたのは、検討期間が1カ月足らずと短かったことと、事故などが発生した場合の対応の問題だった。後者は特に、実験・実習を伴う大学・学部に多かったという。「ネットワークは任意団体なので責任を保障する体制がないし、会員大学に対する強制力もありません。理念に対する賛同は得られたものの、リスクマネジメントやカリキュラム編成など大学の実務面での課題は残っている。これらを解決し、高校生や大学教員の満足度をいかに上げるかが成否のカギといえるでしょう」と柏木課長。
 同ネットワークでは、小中学校に大学生をボランティア講師として派遣する事業も手がけているが、参加した大学生からの反響が大きく、予想以上に広がりを見せているという。CCPでも同様に、高校生の満足度が高く、受け入れる大学教員も授業の活性化などの効用を評価すれば、活動は自ずと拡大するだろう。そのため事務局では、プログラム修了後、高校生や教員の感想・意見を調査する予定だ。
 併せて、システム面の見直しも図る。時間割の早期確定のほか、定時制高校からの受講希望に応え開放科目の時間帯を広げる考えだ。柏木課長は「授業開放は、高校生へのアピールなど大学にとっては必ず何らかのメリットがあります。各大学には、広報効果などに対する投資として協力してほしい。一方の高校側にも、プログラムの意義を評価してもらえるなら、特定の曜日を大学の授業受講にあてるなど、生徒がより参加しやすい環境を整えていただきたい」と話す。
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