レポート4
県教委の丁寧なフォローで軌道に乗った
大学と高校の教員相互派遣 |
| 鳥取県教育委員会・鳥取大学・全県立高校 |
| 鳥取県では、県教育委員会の主導による教員の相互派遣事業を2000年度から行っている。県教委・大学・高校がそれぞれ連携に取り組み、初年度の経験をもとに三者がきめ細かな話し合いと調整を重ねた結果、連携はスムーズに行われるようになった。一方で、大学での補習授業を担当する高校教員の負担が重くなるなど、いくつかの課題が残されている。 |
大学の狙いは地域貢献と募集戦略
高校側は生徒の学習意欲アップ |
鳥取県内には、4年制大学としては鳥取大学と鳥取環境大学の2大学が、短大は鳥取短大1校がある。高校は34校（公立28校、私立6校）で、大学数、高校数ともに全国で一番少ない。こうした状況下で、鳥取大学と鳥取県教育委員会は、2000年3月、全国初の教育職員相互派遣協定を締結した。
その内容は、全県立高校を対象にした大学教員による出前授業と、同大学で高校教員が補習授業を行うことだ。01年度には、県教委と鳥取環境大学との間でも同様の協定が結ばれている。
協定締結のきっかけは、99年当時の同大学副学長と教育長との間で行われた協議だった。「高校、大学の両者が互いに持っているものを提供し、協力し合おうという点で意見が一致したのです」と鳥取県教育委員会事務局高等学校課の山口和彦主査は当時を振り返る。話し合いは順調に進み、事務局レベルでの折衝を経て協定締結の運びとなった。
大学側の出前授業の狙いは、大学の教育研究活動の内容を高校教員や生徒に知ってもらい、理解を深めてもらうことだった。「地域貢献という観点から連携には意義があります。地元の高校生が鳥取大学に行きたいと思えるようなきっかけづくりをしたいという気持ちも当然ありました」と同大学教育総合センター長の清水克哉教授は語る。魅力ある授業を提供し、高校生に大学をアピールしたいということだ。一方、高校側にとっての狙いは二つあった。専門分野の最先端を紹介することと、各教科・科目の学習が大学でどう生かされるのかを体験させることだ。これらは学習へのモチベーション向上を図り、進路指導に生かすことにつながる。出前授業は初年度は11校で行われた。
補習授業を行う背景には、大学生の学力低下の問題があった。特に、高校での科目未履修が原因で、専門教育を受けるための基礎知識が身に付いていない学生に補習授業を実施することは大学にとって急務だったという。
00年度、同大学では「数学」「英語」「物理」「化学」「生物」の5科目で補習授業が行われ、5人の高校教員がそれぞれ一回3時間の授業を10回、合計で30時間を担当。授業は前期（5月～7月下旬）に集中して実施された。 |
| 三者のきめ細かい話し合いで相互派遣のスタイルを確立 |
| 初年度の準備は協定締結後、短期間で進められた。出前授業については、どの教科で、何時間、どんな内容の授業をしてほしいかという希望が高校から県教委に提出され、県教委が大学と調整した（図表1）。一方の補習授業は、大学からの要望を受けた県教委が、「生物」「数学」など、5科目について担当する教員を、同大学に近い県東部地区の高校から募集した。しかしそれだけでは集まらなかったため、高校への個別の依頼も行い、教員を決定した。 |
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補習授業を担当する高校教員は、対象となる学生のレベルや、教えるべき内容も明確でなかったため、最初は戸惑いがあったという。こうした不安を解消するために、4月下旬に大学が説明会を開き、意思疎通に努めた。
この説明会で、補習授業開始時間の問題が指摘された。当初は17時15分に設定されていたが、教員が到着して実際に授業を開始できるのは17時30分過ぎになることが予想された。そこで、大学院生にTAを依頼して、出席をとる、小テストを実施するなどの授業補助を任せ、時間の使い方を工夫することにした。そのほかにも県教委は、大学での教育内容を把握してもらうために、高校に大学のシラバスを提供したり、個別の要望に対して相談に応じるなど、コーディネーターとしての役割を果たした。こうしたきめ細かいプロセスを経て、00年5月から補習授業と出前授業がスタートした。
その後、県教委、大学、授業担当者等が一堂に会し反省会を実施。大学・高校の担当教員、受講した学生や生徒のアンケート結果を共有し、問題点を話し合った。問題点については、解決策を検討し、次年度にフィードバックさせることとした。 |
| 大学は学内PRを強化高校は指導法を工夫 |
実際に相互派遣を行う中で、どのような問題が起き、三者はそれにどう対処したのだろうか。
同大学は当初、補習授業の必要がある学生にはできるだけ受講させる意向だったが、その意図が各学部に十分に伝わらなかったため、学部によって補習授業への熱意に温度差が生じたという。さらに補習授業の時間帯に学部の授業が重なるなどの混乱も起きた。2年目からは、必要な学生には受講を促すよう、各学部への説明と連絡を徹底するとともに、広報誌等を通じて高大連携に関する学内PRを強化した。
また、初年度は単位認定をしなかったところ、途中でリタイアする学生が続出。そこで2年目からは受講の動機付けのため単位として認めることにした。
3年目からは科目にも変更を加えた。希望者が少ない英語は廃止し、生物については、医学部と農学部では必要とされる内容が異なることが分かったので、動物系と植物系の二つに分け、教員を2人に増やした。
清水教授は「大学生に学部での研究に必要な基礎力をつける教育は、本来大学がするべきことだと思います。しかし、現状では高校レベルの内容をうまく教えられる人材が大学にいないので、高校教員にお願いするしか方法がないのです」と言う。補習授業の受講者が増えれば高校教員の負担増にもつながる。これは、今後に残された課題といえるだろう。
県教委が最も苦労したのは出前授業の調整だった。「例えば各2時間10クラスに出前授業をしてほしいという高校の要望に対して、大学の対応が難しいということがありました。その場合には、2クラス合同の授業にして回数を減らすなどの調整をしました」（山口主査）。目的に合った授業をよりよい時期にという高校側の要望に応えるのが今後の課題だ。
補習授業での指導方法も工夫されていった。01、02年度に生物の補習授業を行った鳥取東高校の加賀田剛教諭はこう振り返る。「1年目は高校で教える内容と同じものを、少し進度を速め、ポイントを絞って説明しました。結果として30時間では教えきれなかった分野もありました。しかし実際に教えてみると、大学生は理解力が高く、原理を説明するだけで理解できることが分かりました。そこで2年目からは、具体的な事例説明は最小限にして、全分野を指導することを重視しました」。
相互派遣は今年度で4年目を迎えた。ここまでの成果について、清水教授は「組織的に相互派遣を進めることができた点に意義があった」と指摘する。教員個人の人脈で出前授業の依頼を受けていた頃に比べ、開講できる科目や対応する教員の数が増え、高校の選択肢が広がったことは、協定がもたらした大きなメリットだ。
高校側は、今後より多くの大学と連携するために、幅広い情報を手に入れたいと希望している。「県外の大学の情報はなかなか高校に伝わりにくい状況があります。高大連携が県という枠を超えてもっと広がっていけばよいと思っています」と加賀田教諭。
一方の鳥取大学は、今後キャンパスで高校生向けの公開授業を行うなど、連携のさらなる展開を検討している。集中講義などの形で、高校生にプラスになる内容の授業を実施、大学による単位認定も視野に入れているという。 |
