特集 高大連携の新たな展開
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レポート5
コンピュータ実習をきっかけに連携を開始
大学の科目履修で高校の単位認定も
帝塚山大学・奈良県立生駒高校
地域貢献を理念の一つとして掲げる帝塚山大学は、大学施設での情報教育や「総合的な学習の時間」でのシンガポール修学旅行に関連した課題学習を計画していた奈良県立生駒高校からの申し出により連携をスタートさせた。現在は、単位認定公開科目制度により、同大学の公開科目を生駒高生が受講し、高校の単位として認定。通常講義科目は大学の単位としても認定している。
 奈良県立生駒高校の当時の廣田英樹校長と教務部長・木南俊亮教諭が帝塚山大学を訪れたのは2000年の秋だった。03年度からの「総合的な学習の時間」の導入を前に、生駒高校では01年度からの試行を検討しており、「帝塚山大学の協力を得て、やってみたい試みがある」と相談をもちかけた。
 同高校から帝塚山大学までの距離は約2キロ。帝塚山大学は、地域に根差した大学づくりを理念の一つとして掲げ、それ以前から実施していた地域住民を対象にした公開講座に加え、大学の人的・物的資源のさらなる開放や高校生などへの授業公開を考えていた。
 生駒高校は、01年5月現在で、学級数24、生徒数955人。普通科のみを設置し、ほぼ全員が大学等への進学を希望する進学校で、留学生の受け入れや、シンガポールへの修学旅行、イギリスの提携校・グリフォンスクールへの語学研修を実施するなど、国際教育にも力を入れている。
 同高校の狙いは、帝塚山大学との連携を深め、インターネット設備や図書館などで豊富な資料を使用することにより、生徒の学習意欲の向上を図ること、また早期から大学教育に触れさせることによって進路意識の高揚を図ることにあり、手始めに同大学のコンピュータ設備を使用した実習を計画していた。「現在では状況はかなり変わっていますが、当時の高校では、複数のクラスが一斉にコンピュータ実習をするということは考えられないことでしたし、生徒たちの多くがパソコンの操作に慣れていなかったのです。今のように携帯電話でメールをやりとりするということも、あまり一般的ではありませんでしたから」と帝塚山大学の大学学長付・一色義和氏は振り返る。
 第1回の授業は00年11月初旬の土曜日で、2学年の全生徒約320人を四つのグループに分け、50分のミニ講義やコンピュータ実習、図書館見学を行った。
 ミニ講義のテーマは三つ。生駒高校の要望を受け「平家物語」を題材に平家の衰退に関するもの、アメリカの民族(ネイティブアメリカン)に関するもの、理系生徒を対象にした「現代科学論」に関 連する講義を実施した。
 110分のコンピュータ実習では、コンピュータの基本操作からインターネット検索までの習得を目標とした指導を行い、また、図書館見学では、蔵書検索の仕方などをレクチャーした。
1・2年生にパソコンの基本操作やプレゼンテーションを指導
 さらに、生駒高校は01年度から全学年に週1時間の「総合的な学習の時間」を試行することを正式に決定。中でも、2年次の10月に行われるシンガポール・マレーシア修学旅行に関連した体験学習に主眼を置いていた。これは、東南アジアの政治・経済、歴史、文化、自然などの「アジア学」をテーマに、グループ単位、または個人で国際理解、情報、環境、人権などの分野で横断的、総合的な課題を設定させ、学習活動を行わせるものだ。同高校では、第1回のコンピュータ実習を踏まえ、01年度の新2年生全員を対象に、この学習活動に関連した情報収集を行うこと、グループごとに学習の成果をまとめ、発表させることを目的としたコンピュータ実習を計画。これを帝塚山大学がバックアップすることになった。
 コンピュータ実習は、2回にわたり1学期の土曜日の午前中に行われた。内容は、インターネット上での情報検索や資料作成、旅行後の訪問先へのメール送信など、コンピュータの基本操作から、グループごとの学習成果を発表するためのプレゼンテーションの基礎知識、それに使用するマイクロソフト・パワーポイントの基本操作からスライド作成、スライドショーの実施法などであった。さらに、6月には、修学旅行を前に経営情報学部の山田悠助教授が生駒高校で、シンガポールやマレーシアの国情などについての授業を行った。修学旅行後には、生徒による学習成果の発表会に向け、パワーポイントを使用した仕上げの作業と発表練習を帝塚山大学で実施。翌年2月に、同大学6号館の大教室を会場に発表会を行った。
 また、1年生全8学級に対しても、日本語入力とインターネット検索とマイクロソフト・ワードの基礎を指導するコンピュータ実習や図書館実習、著作権についての授業を2回にわたって実施した。
 「00年には教室の配当や移動など苦労しましたが、01年4月からは東生駒キャンパスに新築した7号館(コンピュータ棟)を利用し、生駒高生一学年、300人以上の一斉授業ができるようになったのが幸いしました。また、当時は高校が土曜日にも授業を行っていたため、大学の(コンピュータ関連の)授業がない日に実習を行えたので、やりやすかった」と一色氏。
 2年生のコンピュータ実習は主に経営情報学部の上原邦彦教授、経済学部の古藤保次教授の2教員が担当、実習補助として各教室に数人のティーチング・アシスタントを配置した。テキスト作成を含め教員の努力によって実現できた部分が非常に大きいと一色氏は言う。上原教授は当時、情報教育研究センターのセンター長も兼務しており、ティーチング・アシスタントをはじめとするセンターのスタッフの協力も大きかった。
 その後、生駒高校でも01年中に本格的なLAN工事を行うなど、設備の拡充が図られた。帝塚山大学では02年6月に、1年生全員を対象としたコンピュータ実習を行ったが、「総合的な学習の時間」に関連した01年度の2年生を対象とした形式での同大学での実習は、02年度以降は行われていない。
 「高校側が(導入教育などで)大学の資源に頼らなくてもよくなってきたこと、また、土曜日が休みになり、大学で授業を受けるための時間調整が難しくなってきたことも一因でしょう。またあれだけの実習を行うのは、先生も生徒も大変なエネルギーがいったでしょう」と一色氏は説明する。
 一方、03年度からの高校新教科「情報」の導入に伴い、生駒高校はこれに関連した一斉授業・実習を、帝塚山大学の施設を利用して同高校の教員が行うことを検討している。同高校は、場合によっては平日の授業を土曜日に振り替えることも考えているという。
単位認定公開科目制度で高校生・大学生・留学生が共に学ぶ科目も
 一方で、両校は「単位認定公開科目制度実施に関する協定書」を締結。02年度から、同大学が指定する公開科目を生駒高校の生徒が履修し、修得単位を高校が認定する制度をスタートした。
 公開しているのは、各学部が指定する通常講義の他、同大学附属考古学研究所が市民大学講座として一般市民にも開講しているものもある(図表)。高校生が放課後に受講できるよう通常講義は5時限(16時半〜18時)に設定し、市民大学講座は土曜日午後の講座とした。
03年度の公開科目と生駒高校からの受講登録者数
 この制度で02年度に受講した18人は、修了時には、生駒高校で石澤末三・帝塚山大学学長から修了証書を授与された。03年度前期の受講生は16人。03年度から公開科目となった「臨床心理学概論」は高校側からの要請により決定した。受講生55人中7人が生駒高生だ。
 「コンピュータネットワーキング演習」は、シスコネットワーキングアカデミー・プログラムという、もともとアメリカの高校生や大学生を対象として作られたネットワークの技術者養成のための基礎的なプログラムだ。42人が受講している中、その1割は生駒高生で、数人の留学生や単位互換制度による他大学の学生も受講するなど、互いに良い刺激になっているという。
 「生駒高校と連携を始めて3年が経ちますが、こうした連携は片務的な内容では長続きはしない。長い目でみた双務的な関係を持つことが重要だと思います。生駒高校からは『リメディアル教育など大学教育に役立てることがあれば……』と申し出ていただいています。これからの大学には、募集対策的な視点からの一方的なサービスでなく、真の意味での高校との相互連携が必要なのではないでしょうか」と一色氏は言う。
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