特集 高大連携の新たな展開
Betweenは(株)進研アドが発刊する情報誌です。
   10/11 前へ次へ


レポート6
連携のための専門部署を設け
高校から大学への転換教育を図る
立命館大学 高大連携推進室
立命館大学では2002年度に「高大連携推進室」を設置、高校生に大学での学びの面白さを伝え、モチベーションアップとよりよい進路選択を促すための多彩な事業を展開している。専門部署を設けることで、連携への積極的な姿勢を高校側に示すことになり、「協力を求めたくても窓口が分からない」という問題も解消された。さらに推進室は、連携に消極的な学内の教員の背中を押す役割も担うことになりそうだ。
FD担当部署のプロジェクトから発展・独立させて設置
 高大連携推進室は、学内の「大学教育開発・支援センター」の取り組みを発展・独立させる形で設けられた。同センターはファカルティ・デベロップメント(FD)を担当する組織として1999年に開設。導入期教育に関する研究プロジェクトの中で、高校教員との懇談会などを開き連携を深めた。
 本年度から推進室長を務める上田高弘文学部助教授は、「その交流を通して、本学の教員と高校の教員がお互いの実態をほとんど理解していないという問題が浮かび上がりました」と説明する。「そこで、高大の接続の在り方を本格的に議論する必要があるとの認識が高まった。高校からは、連携したくてもそれまでは大学側の窓口が分からないため動けなかったという声も聞かれました」。
 99年12月に出た中央教育審議会答申「初等中等教育と高等教育との接続」も、学内での高大連携の体制整備を後押しすることになる。「もはやセンターのプロジェクトで対応するべきレベルのテーマではない」という声を受けて、高大連携推進室が設置された。
 推進室の役割は、「高校から大学への転換教育を推進すること」と明確に位置付けられている。「レポートを書くときの資料探しやレジュメ作成の方法は、入試対応を中心にした現在の高校教育では習得できないため、高校のカリキュラムの枠外または大学入学後に教育する必要がある。そのための大学と高校の連携に関わるコーディネートが、推進室の仕事です」。高校で学ぶことと大学で学ぶことの間に横たわる落差が学生の学力低下などの問題を生んでいるという現実を直視し、それに対応するための転換教育や入学前教育に取り組もうというわけだ。
 推進室の業務は、入学センター、教学部、中等教育部の3セクションのスタッフ約5人が兼務で担当し、ゆるやかな構成体によるプロジェクト方式で様々な事業を実施している。室長はアドミッションズオフィス室長との兼務だ。推進室の下に置かれ教職員がほぼ半々で構成する「高大連携推進室会議」には、ブレーンとして高校長経験者も加わっている。
4日間のサマーカレッジで大学の学びを体感してもらう
 高大連携の実践として、高校だけでなく他大学からも注目を集めているのが、「立命館サマーカレッジ」。高校生に大学での学びの奥深さと楽しさをコンパクトに体感させながら進学について考えてもらうことを目的に、夏休み期間中の4日間で、1泊の宿泊を含む研修として01年度から実施している。
 02年度のプログラムでは、1日目の午前中に「大学で学ぶとは」と題した全体講義を行う。午後はオープンキャンパスに参加し、各学部の模擬授業の受講や入試説明会でのアドバイスにあてる。
 2日目からは大学教育を具体的に体験してもらう試みとして、「環境学へのアプローチ」という統一テーマの下で進行する。学部それぞれの専門領域から環境問題にアプローチする形で多彩な授業を設定、高校生は自分の興味のある授業を受ける。どの学部でどんなことが学べるかを理解し、目指す進路が本当に自分にふさわしいかどうかを確認する機会になる。3日目は、前日の授業を踏まえ、グループごとのフィールドワークに取り組む。最終日にその成果をプレゼンテーションして終了となる。
 「4日間の集中講義は教員にとって負担が大きいのですが、生徒たちの生き生きした表情や徹夜もいとわずプレゼンテーションの準備をする様子を見ると、続ける意義は大きいと感じます」。初年度は50人だった募集枠を、2年目には150人に拡大した。
 一方でこのサマーカレッジについては、「募集戦略とは切り離してモチベーションアップを促したい」という大学側の理念と、高校生の思惑の間に微妙なズレも生じているようだ。「当初は2年生を主な対象に想定して企画したのですが、実際には3年生の応募が圧倒的に多い」。2年生の段階では、こうしたイベントに自主的に参加するほど進路意識が高まっていない一方で、3年生になると、参加しておかないと同大学が積極的に実施しているAO入試に合格できないとの思い込みもあるのでは、と大学側は分析している。その点について、上田室長は「4日間もの学習に自主的に参加するわけですから意欲的な生徒が集まってくるのは事実ですが、参加しなかったからといって合格できないということは一切ありません」と説明する。
03年度の公開科目と生駒高校からの受講登録者数

高大連携推進室の上田高弘室長
AO合格者への入学前教育で意欲の維持に努める
 同大学における高大連携のもう一つのユニークな取り組みに、入学前教育の一環として12月に開催する「プレ・エントランス立命館デー」がある。これはAO入試・特別入試で入学が決まった生徒を対象とする1日体験授業で、大学での勉強に関する心構えや実際の語学の授業を聞いてもらうというもの。遠隔地に住む合格者もいるため必修にはしていないが、8割弱の生徒が参加するという。
 同大学に限らず、早い時期に合格が決まるAO入試については、高校の教員から「受験勉強からの解放感が、一般入試を目指す他の生徒に悪影響を及ぼす」という問題が指摘される。大学側にも、入学までに半年近くの学習の`空白期間aが生じることで、せっかくの意欲や学力が低下するという懸念が生じる。そこで、大学として、合格させた生徒の教育については入学前から責任を持とうという考えで、プレ・エントランス立命館デーを設定した。
 多くの大学が積極的に取り組み出した高校への出張講義も、同大学の場合、「総合的な学習の時間」への協力という方向性を明確に打ち出した「立命館大学オープンセミナー」として、本年度から実施。「国際社会とコミュニケーション」「スポーツ科学と健康」など八つの分野をキーワードで提示、その中で高校側が自由に講義テーマを決めて出張講義を依頼するシステムだ。
 一方、高校生に対する正課授業の開放も、インターネットを利用した「Web講義」として本年度からスタート。「日本語表現法」を、大阪、岡山、仙台などの公・私立9校に配信、質問も大学生と各地の高校生の間から飛び交う。
 「検討段階で、大学の授業をそのまま高校生に受講させることについては、内容や難易度の面から慎重な意見も出ました。この授業なら問題ないというものから試験的に始め、状況を見ながら拡大していきたい」と上田室長。
 教育委員会との協力体制づくりも進んでいる。大阪府教委からの依頼で、02年8月には、大手予備校と連携して府の教職員を対象に5日間の「英語・数学スキルアップ講座」を開催。上田室長は「自治体との連携によって、地域に根ざした活動がスムーズに行える。神戸市教委との連携も始まっており、今後他からも依頼があれば積極的に対応したい」と話す。
 一般的に、高大連携における最大の壁は大学教員の理解の不足だといわれる。上田室長は「私自身も以前は、通常の授業に追われる中で『高校生のためにここまでする必要があるのか』と疑問でした。でも、高校生の前で話せるテーマを出せと言われたり、実際にいつもとは勝手の違う授業をやると、自分の教授法を省みて改善するきっかけになる」と話す。
 他大学から移ってきて6年目という同室長が、傍らの推進室スタッフに目をやりながら指摘するのは、やはり立命館の職員の力量だった。「企画立案能力にすぐれ、教員を上手にあおり動かざるをえない状況をつくってくれる」。
 志願者数が10万人規模に達し、高校側から「募集戦略のための高大連携」という警戒感をもたれないことも、同大学の強みといえそうだ。実際、「立命館サマーカレッジ」などは、志願者集めを目的にして行うにはあまりに費用対効果が低いはずだ。上田室長は「学びの意欲を育て、入学前教育や転換教育などに大学として責任を持つという姿勢で、地域貢献にもなる高大連携をこれからも進めていきたい」と結んだ。
このページの先頭へもどる
   10/11 前へ次へ
 
本誌掲載の記事、写真の無断複写、複製、および転載を禁じます。
© Benesse Holdings, Inc. 2014 All rights reserved.