視点
双方にメリットがある高大連携の在り方を探る |
| 99年の中教審答申がきっかけに |
文部科学省が高大連携の推進の姿勢を初めて明確に打ち出したのは、1999年の中教審答申「初等中等教育と高等教育との接続の改善について」であった。この答申では、大学での学習を高校の単位として認定することや、高校の協力も得て大学で補習授業を行うことなど、具体的な連携の在り方が示された。また、大学と高校の間で「連携協議会」を開催するよう促す一方で、大学には入学者受け入れ方針（アドミッションポリシー）の明示をはじめ、教育システム全般の情報公開を積極的に行うことなどを求めている。
それまでも98年の大学審議会答申「21世紀の大学像と今後の改革方策について」で、「高等学校の教育内容が多様化していることを前提として、履修歴の多様な高等学校卒業生を受け入れる以上は、大学の教育内容も当然その変化に対応した内容に変わるべきである」と明記され、大学に教育改革を求め、入試を工夫することはもちろん、大学における補習教育や、高校生が大学レベルの教育に触れる機会を提供することなどを求めてはいたが、高大連携としての具体策を示していたわけではなかった。
レポートにおける広島県高等教育機関協議会の事例がそうであったように、この99年の中教審答申での提言がきっかけとなって全国的に高大連携の取り組みが急速に広がった。 |
| 点から線、そして面の展開へ |
さて、こうして認知されるようになった高大連携の取り組みの中で、出張講義などは近年ではどの大学も当たり前のように実施している。この背景には「問題提起」として大学入試センターの鴫野英彦教授も指摘されているように、18歳人口の減少による大学入試環境の変化がある。かつて大学入試のハードルが厳しかった時代には、多くの高校にとって進学指導は受験指導とほぼ同義語であった。個々の生徒の適性、能力や関心、意欲に応じた進路指導よりも、とりあえず目前の入試をクリアする指導が求められたのである。また、大学も自らアドミッションポリシーを示さなくても、偏差値で均質化された受験生を受け入れていれば、学生集めは事足りる時代であった。
しかし、その後の18歳人口の急激な減少による入試のハードル低下は、中高生の勉強離れ、学力低下につながり、一方「とりあえずみんなが行くから大学へ行く」という層も増えているといわれ、受け入れ側の大学にとっても看過できない問題になった。このような状況のもとで、学力的にも気質的にも多様化する生徒・学生の実態に何とか対処していきたいという高校・大学の切実な思いが一致したからこそ、高大連携が急速に広がったといえよう。
その結果、近年の取り組みには、相互の信頼関係のもとで積極的に取り組む例が目立つようになってきた。もともとは1大学と近隣の1高校との連携が多かったが、次第に、複数の大学と複数の高校が結び付くようになり、今日では、地元教育委員会が間に入って県や地域全体のすべての大学と高校が連携しあうケースも増えてきている。まさに点から線、そして面への展開が急速に進んでいるといえよう。 |
| 長期的に見れば、大きな広告効果に |
このような新しい高大連携の取り組みは、地域貢献としての役割も期待されるようになっている。かつてのように1大学と近隣の1高校との連携であれば、高校にとってもその大学への志願者が多いケースが大半なので、大学側もその高校と密接な関係を保ちながら、その成果を学生募集に直接生かすこともできた。しかし、線や面での連携としてお互いの連携対象が広がってくると、むしろ地域全体の高校や高校生の活性化を目的とした地域貢献策としての高大連携の在り方が模索されるようになってきている。
そのため、高大連携を学生募集につなげることは考えていないという大学も多い。しかし、そうはいっても学生募集につなげたいという意識はどの大学にもある。高校生のうちから学問の世界や自大学の教育に興味を持ってもらうことで、最終的にはやる気のある高校生に入学してもらいたいとの期待を持っているのは間違いないし、長期的にみれば高大連携には大きな広告効果があることは確かだろう。例えば大学の授業に高校生が参加するということは、大学にとってみれば、消費者である高校生に、商品である教育サービスの内容を試用してもらうということだ。
これは大学の外部評価の一形態と見なすこともできる。高大連携に参加した高校生から、面白い授業をしているという評判が立てば、学生募集に大きなアドバンテージとなるからだ。たとえ逆の評価を受けたとしても、それはそれで貴重な改善勧告を受けたことになる。
また、高校生が何を望み、どんな授業を欲しているのかを知るヒントが得られれば、大学の授業に生かすことができ、学生の満足度が高い授業ができる。つまり、高校生をリサーチすることによって、大学の授業の魅力を高めるためのノウハウも蓄積できる。そう考えると、高大連携は大学にとっても大きなメリットがあるといえよう。 |
| 総合的な学習の時間に生かせる高大連携 |
一方、高校側にとってもメリットは大きい。それは高大連携の取り組みが、今年度からの学習指導要領で導入された「総合的な学習の時間」の活動に生かせるからだ。学習指導要領には、「総合的な学習の時間」のねらいとして（1）自ら課題を見つけ、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力を育てること （2）学び方やものの考え方を身につけ、問題の解決や探求活動に主体的、創造的に取り組む態度を育て、自己の在り方生き方を考えることができるようにすること、と記されている。
また「総合的な学習の時間」の学習活動については、学習指導要領に（1）国際理解、情報、環境、福祉・健康などの横断的・総合的な課題についての学習活動 （2）生徒が興味・関心、進路等に応じて設定した課題について、知識や技能の深化、総合化を図る学習活動 （3）自己の在り方生き方や進路について考察する学習活動と、例示されている。このような学習活動を展開するにあたって、大学の協力に期待できる部分は大きい。また、高大連携の取り組みを「総合的な学習の時間」の活動の目玉にすることで、「どのような生徒を育てるのか」というSI（スクールアイデンティティ）をより明確化させることもできる。 |
| 企画から協力しあいながら進めることが重要 |
早くから高大連携に取り組んできた中央大学商学部では、高大連携の取り組みを「高大連携」「高大接続」「高大一貫」の3種類に分けて取り組むという。これは、対象とする高校生をそれぞれ「一般の高校生」「入学を前提とした高校生」「付属高校生」に分けて、それぞれの高校生にどうあってほしいかという目的を明確化させた結果、出てきた結論といえよう。これからは、すべての高校生をひとくくりにするのではなく、同学部のようにそれぞれの高校生の立場や大学との関係に応じて、取り組みの内容も変えるきめの細かさが求められる時代になってきたようだ。
また、今後は高校生のみならず、高校教員を対象とした高大連携の取り組みもますます重要になってくるだろう。本特集で紹介している鳥取大学の取り組みは、まさにその典型例といえる。ただ、大学は従来のように進路指導部の高校教員とのみパイプづくりをしていても、高大連携の輪はなかなか広がりにくい。例えば出張講義の場合、受け入れの決定権は学年の教員が握っているケースが多いからだ。また、高校全体としての取り組みにしていくのであれば、管理職教員の了解なしには進まない。さらに県全体としての取り組みにするのであれば、県教育委員会の協力が不可欠となる。
しかしこのように高大連携の取り組みが広がる一方で、いまだに高校教員の間には、大学側は単なる受験生集めの手段としか考えていないのではないかという根強い不信感があると聞く。そして大学側も、せっかく高校生にとって有意義な授業を企画・広報しても、大学の知名度が低いという理由で断られたりするケースも多いと嘆く。
今後の高大連携の取り組みを「高校生、高校、大学の三者にとってハッピーなものにする」ためには、高校と大学が相互の不信感を払拭し、高校生にとって望ましい教育を実現するにはどのような連携のあり方が必要なのかという原点から見つめ直し、企画段階から協力しあいながら進めることが重要だろう。 |
