| 第3回 数学編～新たな指導方法の確立へ |
| 大きな変更は4点 |
新課程では、数学でも大きな変化がみられる。まずは、各科目の構成が、旧課程と比べて具体的にどう変わったかを把握することが重要だ。代表的な変更点は次の4点にまとめられる（図表1）。
（1）「数学基礎」「数学I」はどちらかを選択
新設された「数学基礎」と「数学I」は、どちらか一方を選択すればよいことになっているが、両方履修してもよい。また、「数学基礎」は履修順序の規定がないため、柔軟にカリキュラムを組むことができる。
（2）「数学I」は標準単位数削減 「数学II」は増加
「数学I」は、単位数が削減されたため、学習内容も4分野から3分野に減っている。これは、「数学I」のみで数学の履修が終わる生徒への配慮で、学習負担を軽減することが目的だ。一方で「数学II」は、単位数を増やすことでゆとりをもって学習できるようにしている。
（3）「数学A」は原則として全内容を履修
「数学A」は旧課程では、4分野の中から2分野を選択すればよかったが、新課程では標準単位数は2単位のままで、原則として3分野すべてを履修する。この変更は、中学校の課程から多くの基礎内容が「数学A」に移行されているためだと考えられる。
高校1年次での主な履修科目の「数学I」「数学A」のそれぞれ約2単位分が中学校からの移行内容にあたる（図表2）。
（4）履修順序がより柔軟に
旧課程では「数学I」→「数学II」→「数学III」の順序が絶対だったのに対し、新課程では「原則として」という文言が加えられている。これは、場合によっては順序の変更ができることを示している。
「数学A」も、旧課程では「数学I」と並行した学習が主流だったが、新課程では「数学I」を履修した後に「数学A」を履修してもよいことになった。これらを受けて、高校ではより高い教育効果を挙げるため、履修順序における直列型と並列型の研究が盛んに行われている。 |
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| 計算力低下が予想されるが新たな指導方法確立のメリットも |
中学校では、高校より先に2002年度から新課程が導入された。その特徴として、3年間の授業時間の中で、すべての生徒が共通して学ぶ必修教科のほかに、生徒の興味関心に応じて学習できる選択教科時間が、全体の約6分の1まで拡大していることがあげられる。選択教科として開設される授業の教科や内容は各学校によって自由に決められる。そのため、選択教科の時間を数学に充てている中学と、そうでない中学とでは、数学の学力格差が生じる可能性がある。
さらに、数学の教科時間数が旧課程よりも減少しているため、演習不足による計算力の低下は避けられないだろう。それに高校で対応するためには、「数学I」の指導を工夫することが考えられる。例えば、「数と式」の分野では、文字式の指導の際、文字に分数の数値を代入して計算させるなどだ。しかし、「数学I」の標準単位数が削減されているため、計算力を高めるための十分な演習時間は確保できないだろう。
こうしたデメリットの一方で、新課程によるメリットも考えられる。
例えば、中学校から移行された基礎、基本にかかわる内容を、高校で工夫して指導することで、旧課程では難しかった効果的な指導方法を確立することが可能になる。また、数学教育において本来養わなければならない直観力や洞察力をつけさせることもできるだろう。
例えば、「平面図形」における「三角形の性質」や「円の性質」では、中学校から移行した三角形の重心、内心、外心などの基本的な定理を生徒自身に証明させたり、四角形が円に内接する条件、二つの円の位置関係などを考察させる。それによって、図形的なものの見方、考え方を身に付け、図形に対する直観力や洞察力を養うことができる。 |
| 学習指導要領や教科書の研究を早急に |
大学の対応として急がれるのは、06年度入試の準備であろう。具体的には出題範囲と出題内容の検討だ。特に出題内容は、中学校から移行された内容を入試でどう扱うのかという検討が必要だろう。移行された内容量から考えると、新課程スタートの今年度から、早急に学習指導要領や教科書の研究を始めるべきである。
リメディアル教育についても十分に検討する必要がある。特に必修科目の「数学I」の履修単位数が新課程で削減される影響が、文系学部の学生に表れると予想されるため、各学部学科単位で「必要とされる数学力」の洗い出しを行い、一貫性のあるプログラムを作る必要があるだろう。
今回の新課程では国際的な流れを意識し、知識や技能を身に付け、活用する力・学ぶことへのやる気や意欲・自分で考え判断する力・自分を表現する力・問題を解決し自分で切り開いていく総合的な力を「学力」として捉えている。そのため、高度になりがちであった教育内容を上の学年や上の学校に移行させ、体系的にわかりやすく指導することを求めている。その最も典型的な教科が数学である。
数学科の目標は、（1）数学における基本的な概念や原理・法則の理解を深める （2）数学的に考察し処理する能力を高める （3）数学的活動を通して創造性の基礎を培う （4）数学的な見方や考え方のよさを認識する （5）（1）～（4）を積極的に活用する態度を育てる、というものである。
93年度までの課程では、（1）に加え（2）を目標として掲げてきたが、なかなかこの目標に到達できなかったため、旧課程で（4）や（5）を目標に加えることで（2）を補助していく形をとった。さらに、新課程では（3）の目標を加えることで、数学の有用性だけでなく、学習することの必然性をも理解させることで、数学をより身近な存在として感じさせる工夫をしている。
93年度までの課程、旧課程、新課程の学習指導要領を比較すると、数学の有用性を身近な事象と結びつけながら生徒の理解を深め、「生きる力」の育成を目的とする施策が徐々に深化していることがわかる。
今回の新課程は、旧課程がさらに深化したものと捉えることができる。大学はこれらを踏まえ、積み上げ学習である数学教育を踏襲していかなくてはならない。そのための対応も求められている。
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