| 第４回 国語編～学習目標の変化で「表現力」重視へ |
| 学習目標は「表現力の育成」 |
2003年度新課程では、教科の学習目標に大きな変化が見られる。中でも国語の変化は大きい。具体的には、以下のような点を重視すると示している。
（1）互いの立場や考えを尊重して言葉で伝え合う力を育成する（2）社会人として重視される言語能力を確実に育成する（3）文学的な文章の読解に偏らず、様々な文章を読んだり生涯にわたって古典に親しむ態度を育てる。
国語の学習目標は、従来の文学的な文章の読解に偏らず、言葉で伝え合う力、すなわちコミュニケーション能力を育成することに大きく変化した。
また、新学習指導要領では、「国語を適切に表現（的確に理解する能力を育成し、伝え合う力を高める）」とあり、適切な表現すなわち論理的な表現力の強化を目指しているということがうかがえる。
学習目標の変化は、新課程の国語の科目構成に大きく反映されている。例えば、旧課程では「国語I」が必修科目であるが、新課程では「国語総合」と「国語表現I」の2科目の選択必修となった。
必修科目を選択する方法は、新課程でほとんどの教科に取り入れられている。そのうち一方の科目は２単位とされており、国語では「国語表現I」が相当する。
「国語表現I」が選択必修科目となった背景には、現代の社会生活に必要な言語能力の育成（＝表現力の育成）が、新課程で重要視されているためであると推測される。
一方の「国語総合」は、旧課程の「国語I」を受け継いだもので、単位数も４単位のままである。なお、多くの高校で選択され、大学入試の出題科目にも含まれていた「国語II（４単位）」は姿を消した。
また、各科目の内容の領域構成にも変化が見られる。
旧課程では、「A表現」「B理解」及び「言語事項」の２領域１事項の領域構成であったが、新課程では、「A話すこと・聞くこと」「B書くこと」「C読むこと」及び「言語領域」の３領域１事項に改められた。実践的な指導を重視する観点から、それぞれの領域に対応した具体的な指導事例は以下の通りとなる。
●「話すこと・聞くこと」
話題を選び、スピーチや説明を行う。情報収集し、報告や発表を行う。
●「書くこと」
テーマを選んで考えをまとめ、論の組み立てを考慮し、状況に応じて適切な言葉を使用して書く。
●「読むこと」
現代文と古典など、様々な文章を読む。文章から必要な情報を読み取る。 |
| 「国語総合」指導上の課題 |
学習目標の変化を受けて、「国語総合」では、「話すこと・聞くこと」「書くこと」のそれぞれの領域における指導時数の目安が示されている。「話すこと・聞くこと」を主とする指導は、15単位程度で、「書くこと」を主とする指導は30単位程度だ。
これらを受け、「国語総合」で、討論、発表・報告を主とした授業を導入または検討している高校は約56％となった。（2003年ベネッセコーポレーション調べ）
次に、学習目標の変化が反映された事例として、新課程の教科書を見てみよう。
旧課程「国語I」と新課程「国語総合」の教科書を比較すると、「話す・聞く」「書く」に関するページ数が大幅に増加していることがわかる（図表１）。さらに、挿絵のカラー化で親しみやすさも増している。また、古文では、本文の横に赤字で訳文が書いてあったり、文学史年表を14ページにわたって紹介したり、古典の参考図録として貴族の装束をカラーで紹介するなどの工夫をしている教科書もある。また、02年度から新課程がスタートしている中学校の教科書にいたっては、文学的作品が減って、現代の著名人、タレントなどが登場。さらに、「本の紹介をスピーチしよう」「討論ゲームをしよう」などの欄が追加されたりしている。 |
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その一方で、中学校の新課程では、「文学作品などの成立年代や、その特徴などに触れる場合には、通史的に扱うことはしない」となっている。そのため、特に古典作品の読解の背景となる文学史的な知識が不足した生徒を、高校で指導することになる。
今後、中学校から新課程で学んだ生徒に対して、高校の「国語総合」で、「話す・聞く」「書く」を重視した指導が行われるようになれば、文学作品の読解などの「読む」授業時数が減少し、基本語彙力、基本的知識の低下を生じる可能性がある。 |
| 「国語表現I」と大学入試 |
この程、06年度の大学入試センター試験の出題教科・科目が発表された。国語は「国語I」「国語I・国語II」の２科目から、「国語」１科目となり、「国語総合」に「国語表現I」を加えた出題範囲となる。
「国語表現I」の内容は、「A話すこと・聞くこと」及び「B書くこと」の領域を中心として構成されているので、独立した科目として出題することは困難だ。そのため、「国語総合」を基本とし、さらに「国語表現I」で重視する「A話すこと・聞くこと」及び「B書くこと」の領域の内容を加えての出題が、大学入試センター試験の方向性である。
「国語表現I」は、従来の「国語表現」および「現代語」の内容を再構成した新科目である。これに新たに提示された具体的な言語活動としては、スピーチ・発表・討論・記録・報告・案内・紹介・連絡・表現効果の吟味・生徒の自己評価・相互評価などがある。特に「自分の考えを持ち、論理的に意見を述べる」「相手の立場を尊重しながら話し合う」「目的や場面に応じて、表現を工夫する」など、その場に応じた的確な表現力育成に主眼がおかれている。
さらに、「国語の表現の特色や語句、語彙などを理解する際に、古典の表現法や語句、語彙などについても関連的に取り扱うようにする」「現代社会における言語生活のあり方や言語表現の役割について考える」という内容は、今までの「国語表現」および「現代語」には見られない、新しい内容である。
06年度入試で、この「国語表現I」が「国語総合」に加わって、どのように取り扱われ出題されるか、いくつかの方向性を想定してみた場合、今まで以上に「表現力」が求められる出題が予想される。しかし、普通科の多くの高校では、「国語表現I」は採択されず（0.2％）、「国語総合」を採択している（99％、03年ベネッセコーポレーション調べ）ことから、高校の履修指導は、大学入試の国語の出題内容は大きく変わらないことを前提にしていると予測できる。
「表現力」を試す試験としては、小論文形式が最も有効と考えられるが、マーク式が多い入試の現状から、その形式の出題よりも、従来型の出題内容・解答形式が踏襲されると考えられるからである。
ただし、従来型の出題内容に次のような観点を入れた問題が増えてくることは十分考えられる。
一つは、様々な形の言語表現から考えさせる問題である。これは、従来の文学的な文章ではなく、シナリオや講演録など様々な言語表現を用いた文章を読ませ、筆者の主張を読み取らせるものである。
二つ目は、様々な対立意見をもとに考えさせる問題である。これは、授業で多く実践されるようになるディベートの要素を取り入れた出題である。
三つ目は、言葉遣いや言葉の意味を問う問題である。
今後大学は、「表現力」重視の学習目標にシフトしていく高校の状況と、生徒の国語力の実態を正しく把握した上で、大学入試の出題内容を検討する必要がある。また、近年多くの大学で行われている入学前教育、入学後のリメディアル教育においても、プレースメントテストなどで基礎学力到達度を測定した上で、入学者の実態に合った対応を行うことが一層求められるであろう。 |
