| 申請７校～この「強み」で新たな競争に挑む |
| 名古屋大学法科大学院 |
ITを駆使したシステムで実務技術をハイテク指導
ロースクールでは実務家教員による授業や、弁護士事務所での実習・研修などを通して、法曹としての実務教育が行われる。名古屋大学法科大学院では、これらに加え、ITを取り入れた実務技術教育を導入し、教育効率の高い授業を目指す。
法律家の実務技術、例えば尋問のテクニックやクライアントとの面談方法などは、司法修習所で一部指導することもあるが、教育システムとしてはまだ確立されていない。基本的にはOJTとして、先輩法曹から個別に伝達されているのが現状だ。「徒弟制ともいえる教育システムだったこともあって、いざロースクールで集合的に教えようとしても、方法論やノウハウが蓄積されておらず、それを専門的に教えられる指導者も少ない」。法学研究科の菅原郁夫教授は、ロースクールにおける実務教育の問題点をそう指摘する。
また実技教育では、同じ状況を繰り返し再現することが不可能なことや、しぐさ・表情など言葉を伴わない意思や感情の表現が重要な要素を占めることなど、学習上の難しさも伴う。同大学院ではこうした問題点を解決するためにITが活用される。実際の実技教育では、
（1）学生に尋問や依頼などのケースを体験させる
（2）それをビデオカメラで可能な限り多面的に記録する
（3）それに分析を加えて状況を構造化、理論化する
（4）再び学生にフィードバックする
―という流れになる。
映像の記録と分析のために二つのITツールを開発した。一つは「法廷収録システム」で、模擬法廷にビデオカメラを４台設置し、裁判官、証人、被告、原告を同時に撮影し、マルチチャンネルで記録するもの。必要なシーンだけを繰り返し再生したり、発言していない人物の表情を追うこともできる。
もう一つは「映像分析システム」で、重要と思われるシーンについてコメントを書き込んでいくもの。教員と学生が共に分析に参加でき、インデックスとしても機能するようになっている。裁判や法律相談など一連の状況の中で重要なポイントを何度も確認することで、法曹としての実践的な能力を身につけることができるという。
同大学院の収録・分析システムには、インターネットを通じて学外の弁護士や裁判官などもアクセスできる。「実習に学生全員が参加するだけでなく、専門実務家と仲間によって実習の質を常にモニタリングできるほか、実務場面の分析的な検討も容易になり、実務技術の訓練・教育に大きく寄与すると思います」と、菅原教授は期待を寄せる。
IT技術の活用は、模擬法廷での収録・分析だけにとどまらない。学生が立案した立証計画などを仲間の学生が匿名で評価する「匿名投票システム」、授業で行われていることをどの程度理解しているかを即座に確かめられる「Webによる理解度確認システム」、学習に必要な条文や判例などのコンテンツを授業の内容に関連づけてリンクさせた「デジタル基本六法プロジェクト」、さらにはそれらの教材をのせるインターネット上のプラットホームの日本語化を目指す「WebCTカスタマイズ・プロジェクト」も走り出す。
「ゆくゆくはこれらを一つのパッケージとして配給したり、他大学と協力して尋問、調停、和解・交渉などの実技技術に関するノウハウを、映像やコメント、必要な資料集などを含めたデータベースとして構築したい」（菅原教授）との計画もある。ITによる技術革新は、ロースクールにおける法学教育、特に実技教育に新しい可能性をもたらしそうだ。 |
| 明治大学法科大学院 |
ジェンダーを柱の一つに据えたカリキュラムが特色
明治大学は、70年以上前に女子部を開設して日本で初めて女子の専門教育にあたり、女性判事や女性弁護士の第1号を輩出するなど、女性法曹育成のパイオニアとして知られる。その伝統と実績を背景に、法科大学院でもジェンダー教育に力を入れる。
展開・先端科目として「ジェンダーと法」を設置、ジェンダーに関わる問題を追求する。ここで取り上げられるのは、雇用、賃金、労働時間など「社会で働く女性が受ける差別」、ドメスティック・バイオレンス、セクシャル・ハラスメントなど「女性への性的な暴力」、卵子提供、体外受精、代理母出産など「生命倫理上での女性の立場」、性同一性障害、同性愛、性転換と戸籍など「性の多様性の問題」といった今日的な問題だ。女性の性的暴力に関わる法的支援に実績があり、フェミニズムやジェンダー問題で日本をリードする女性弁護士を専任教員として招き、先端的な教育を行う。
ただし土屋恵一郎法学部教授によれば、「単にジェンダー問題に強い法律家を育成しようとしているわけではありません。ジェンダーに関する問題に正面から向き合い、法律でどう解決すべきか学ぶことによって論理的に考える力が身につき、それがひいては普遍的な力として司法試験などにも対応できるはず」という。現実の法的課題を理論と実務の両面から扱うことで、実務家としての法曹に必要な能力の育成を目指す。
同大学院では「ジェンダーと法」のほか、「医事・生命倫理と法」「知的財産と法」「環境と法」「企業実務と法」を加えた５分野を、専門法曹教育の柱に据える予定だ。いずれも現代社会における重要課題であり、それぞれの分野で中心的な役割を果たしている実務家が教育にあたる。「企業の顧問弁護士でも、今やジェンダーや環境問題を理解しなくてはやっていけない。その意味で、本学が重視するこの５分野は、21世紀に生きる法律家が必ず学んでおくべきテーマだといえます」（土屋教授）。
このほか、同大学院では「明治大学法曹会」というOB組織の強力な支援を受け、エクスターンシップやリーガルクリニックなどの実習が行われる。司法試験に合格したばかりの卒業生がTAとして学生にアドバイスを行うなど、学習支援の面でも力を発揮することになる。 |
| 大宮法科大学院大学 |
弁護士会の当事者意識で次代の法曹養成を担う
弁護士会と協力関係を結ぶロースクールは少なくないが、大宮法科大学院大学の場合、第二東京弁護士会が主体的に教育に参画する点が大きく異なる。当初は弁護士会自体がロースクールの経営主体となることも検討したが、最終的には経営と教育を分離し、大学から小学校まで11校を設置する学校法人佐藤栄（さとえ）学園が経営に責任を持ち、同弁護士会が他の研究者と共に当事者意識に根ざした教育を展開することになった。
目指すのは「多様かつ有能な弁護士の養成」と明確だ。同学園の蓮見弘理事も「弁護士会による後継者の育成機関にふさわしく、弁護士会が理想とする弁護士の養成に必要な教員配置やカリキュラム編成になった」と話す。
設置基準上は実務家教員は専任教員の３分の１程度とされているが、同大学院では31人中20人と３分の２を占める。全員が弁護士だ。埼玉弁護士会とも連携し、実務教育には特に力を入れる。学内に民事、刑事、情報公開の各クリニックを設置するほか、都内にもクリニックを開き、弁護士の専任教員のもとで実際に市民に法的サービスを提供するなど、法曹実務の実際的応用を図りながら学ぶ。
第二東京弁護士会は、学生の経済的支援も行う。会員を中心とする募金で奨学基金を設置、成績優秀者に対する給付制奨学金制度を実施するほか、全学生対象に学園が保証する限度額700万円の超低金利（年1.575％）教育ローンの金利も5年間肩代わりする。
学部を持たない独立大学院のため、「特定の大学や学部から受け入れることはしません。社会人も含め公平に、多様な学生を受け入れる」。昼夜開講制とし、同じ科目を2コマずつ用意。平日夜間と土曜日の授業だけでの履修も可能だ。入試では昼間主と夜間主のコースを分けずに選抜し、合格後にコースを選択させる。
就業年限は３年間で、法学の既修者、未修者は分けずに募集する。法学部出身者のうち希望者は、２年次後期から３年次にかけてアメリカのロースクールに留学し、LL.M.（法学修士号）を取得したり、現地の司法試験を受験することも可能。留学中の単位は同大学院大学の単位として認定され、アメリカの弁護士資格を取得しても３年間で修了できる。 |
