| ロースクールを作らない大学の生き方 |
| 法的知識に基づくマネジメント能力の養成を掲げ地域マネジメント研究科を設置 |
| 青森中央学院大学は1998年度、日本初の経営法学部を設置する大学として開学した。大学院開設を検討するにあたり、ロースクール設置も議論されたが、地域に根ざしたビジネススクールの設置を決定。現在、「地域マネジメント研究科」の04年４月の開設に向け、準備を進めている。 |
青森中央学院大学は、戦後間もなく開設された青森珠算簿記学院（現、青森中央経理専門学校）、青森裁縫学院（現、青森中央文化専門学校）をもつ学校法人青森田中学園を母体とする。同学園は1970年度に青森中央女子短大家政学部（現、青森中央短大）を開設。いずれも「地域に貢献できる人材の養成」を建学の精神として掲げる。
98年度に青森中央短大の経営情報学科を改組転換して開設した青森中央学院大学の設置理念は、「高度化・複雑化する社会では、法律的な知識や思考に基づいた経営的な意思決定が行える高度職業人の養成が必要」とする観点が大きな柱となっている。「一般企業はもちろん、自治体やNGO、NPOなどの非営利団体など、さまざまな組織の中で課題を適切に解決できる倫理性の高い人材の養成を目指している」と牧野吉五郎学長は説明する。
経営法学部のカリキュラムは、外国語、情報処理、基礎演習の３分野からなる基礎科目「コモンベーシックス」と「人間の理解」「現代社会と国際理解」「科学技術と環境の理解」を柱とする教養科目を設置する。さらに専門科目として、企業経営やその他の組織のマネジメントに関する経営学系、法学系の科目を設け、経営、経済、法律、政治の各分野を学際的、総合的に学べる構成としている。 |
| 法律の専門家ではなく地域の高度職業人育成を目指す |
開学6年目を迎え、大学院開設を検討する中、法科大学院設置という方向性も議題に上がった。法科大学院は、新たな司法制度の構築に関連し国家全体に関わる課題があるとみる一方で、同大学の建学の精神である「地域への貢献」に立ち返る方向に議論は進んでいったという。
「現代社会、そして地域からのニーズについて検討を重ねた結果、法律の専門家を養成するよりも、学部教育を基礎として、いかに地域での高度職業人養成を追求していくかということが現段階での課題であるという結論に達した」と牧野学長は振り返る。同大学は地域のビジネススクール開設を目指して準備を行い、04年４月の開設に向け、このほど「地域マネジメント研究科」の認可申請を行った。
「地域マネジメント研究科」開設趣意書の骨子によれば、日本の経済活動の国際化や産業構造の変化によって起こる多くの問題は、国際的視野でみても、同大学が位置する青森県においても同様に深刻化しているという。例えば、資源問題に端を発する原子力関連施設、周辺地域の農業・水産業、産業廃棄物の不法投棄の問題などで、こうした課題はマネジメントに携わる人材の資質や能力にも深い関わりがあると指摘している。
「社会で起きる問題の多くは、企業などの経営に関連した場で起きています。これはもちろん法律学の分野のみで解決できるものではなく、経営学やその他の分野から総合的、複合的な見方をする必要があります」。酒井甫（はじめ）副学長はそう話し、変化の激しい社会のなかで、組織が何らかの壁に直面した時、法律の知識をベースとして、適切な解決法を見い出す必要があると指摘する。「本学では、そうした問題解決能力だけでなく、法的知識をもとに経営計画を立案できる力を持った人材を育てたい。法律の専門家ではないが、法律的な判断が即座にできる、つまり真の意味でのマネジメントができる人材です」（同副学長）。 |
| 地域課題を理解した上でマネジメントを学ぶ |
地域マネジメント研究科が掲げる人材育成像は、ビジネスリーダー、起業家、行政・コミュニティリーダー、非営利組織のリーダー、国際的なビジネスマンの５つ。地域課題の構造を理解した上でマネジメント能力の育成を図るカリキュラムとした。「基礎科目」として課題を総合的に理解させる「地域マネジメント論I・II」を、「基本科目」として経営学・経済学、法学・政治学の各分野にわたる専門科目を配置する。また各分野の応用や両分野の接点および共通するテーマについて学習できるような科目編成とする。授業ではフィールドワーク、事例研究を重視する方針だ。
地域マネジメント研究科の設置準備に主要メンバーとして携わる石田憲久本部長は、法的知識に基づいたマネジメント能力は、組織の中で誰もが身に付けていなければならないものと主張する。立案したプランがビジネスとして成り立ちうるか、それにはどういう障害があるかという場面で、相談すべきなのは弁護士か、法務担当者なのかという判断が必要になることも想定されるという。「海外の取引先などとの交渉では、即座に決断しなければならないこともありえます。そうした場合、ある程度の基礎的な法律知識を持っていないと対応できない。経験で身に付いていくものもあるでしょうが、基礎をきちんと学び『法的センス』を磨くことが重要だと思います」（同本部長）。
同研究科は、働きながら学ぶ社会人に配慮し、昼夜開講制をとり、学生の希望に応じて経営法学部で開設する語学や情報処理などの基礎的科目や経営学・経済学、法学・政治学に関する専門科目の履修を認める予定だ。
「地域マネジメント研究科の開設は大学の修士課程の在り方についても議論した上での決定でした。本研究科は、従来のような研究者の養成機関ではなく、実務を持つ学生が職場で起きた新しい事態に対応しなければならない時、それに対応する新しい技能は何かを追求するという、実践的な高度職業人育成の機関でありたい」（牧野学長）。
結果としてロースクール設置という道を選ばなかったが、法曹人口が増えることによって、将来は現場のビジネスマンと共に新たな仕組みを作り出していくことも想定され、各大学の法科大学院が輩出する法曹には大いに期待していると牧野学長は言う。「現在、法科大学院の設置を検討されている大学は数多いようですが、どの大学も本学と同様、専門的高度職業人の養成という目的が前提となって議論されてきたのだと想像します。
いずれにしても、自大学が教育機関として求められているものは何なのか、大学として明確なビジョンを持ち、それに見合った組織で進むことが重要ではないでしょうか」 |
