| 第５回 理科編～科目編成の変更で大学入試の出題範囲が変わる |
| 中学からの内容移行で科目構成等に大きな変化 |
新学習指導要領における理科の目標は、以下の通りである。
「自然に対する関心や探究心を高め、観察、実験などを行い、科学的に探求する能力と態度を育てるとともに、自然の事物、現象についての理解を深め、科学的な自然観を育成する」。この目標において旧課程からは大きな変化は見られない。
大きな変更が見られるのは、科目編成である（図表1）。 |
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具体的には、IA・IB科目の統廃合と２単位科目が３つ新設されたことである。生徒は、新設された「理科基礎」「理科総合A」「理科総合B」の中から１科目以上、他の１科目を「理科基礎」「理科総合A」「理科総合B」「物理I」「化学I」「生物I」「地学I」から選択必修しなければならない。物理、化学、生物、地学もIA・IB科目が廃止となり、IBとIIは、そのままIとIIという形で継承されている。ただし、単位数は旧課程のIBの４単位とIIの２単位が、新課程のIで３単位、IIで３単位となった。
新設された「理科基礎」「理科総合A」「理科総合B」の概要は、以下の通りである。
「理科基礎」は、生活に密着した内容で、科学技術の発展を軸にしている。「理科総合A」「理科総合B」は、Aが物理・化学が主、Bが生物・地学が主であり、中学校の第一分野がAに、第二分野がBに対応している。そのため、「理科総合A」「理科総合B」には中学校から移行する項目が多く含まれる。「理科基礎」を履修しない場合は、「理科総合A」「理科総合B」のどちらかを選択必修しなければならない。
新課程の「物理I」「化学I」「生物I」では、単位数が旧課程のIBの4単位からIの3単位に減少したにも関わらず、中学校から高校に移行する項目が見受けられる。
新課程で中学校での扱いがなくなり、高校で初めて学習することになる内容は以下の通りである。
●「物理I」へ移行―「比熱」「力の合成と分解」「交流と直流」など
●「化学I」へ移行 ―「電池」「電気分解とイオン」「中和反応の量的関係」など
●「生物I」へ移行 ―「遺伝の規則性」
●「生物II」へ移行 ―「生物の進化」「花の咲かない植物」「無脊椎動物」
これらの項目を扱う科目を履修しない場合は、高校でも学習する機会がなくなる。
また、「生物I」「生物II」へ移行する４項目の中学校レベルの内容は、「理科総合B」で学習する。従って、理科総合Bを履修せずに生物を履修した生徒は、前述の４項目についてはそこで初めて学習することとなる。
新課程の「物理II」「化学II」「生物II」では、単位数が旧課程のIA ２単位から３単位に増えたことと、各科目に選択項目が設置されたことが大きな変更点である。内容では、旧課程のIBから移行する項目が多い。その結果、単位数が減るIと単位数、内容も増えるIIで求められる学力差は、今後顕著に広がるものと考えられる。 |
| 旧課程IBから新課程IIへの移行で出題範囲に変化 |
すでに発表されている2006年度の大学入試センター試験の出題教科・科目の理科は、次の３グループに分けられ、それぞれから１科目を選択解答させる。
グループ（1）「物理I」「地学I」
グループ（2）「理科総合A」「化学I」
グループ（3）「理科総合B」「生物I」
通常、高校で理系クラスに入らない受験生は、Iまでの範囲を３単位分の内容でしか履修せず、センター試験を受験することになる。しかも、新課程の「物理I」「化学I」「生物I」の履修範囲は、前述のとおり、中学から移行される項目が多く、旧課程のIBから新課程のIIに移行される項目も多い。
例えば旧課程の物理IBで履修していた「運動量と力積」「電荷と電界」は、新課程の物理IIで初めて履修することになるため、個別試験の出題範囲には十分留意する必要がある。
また、旧課程の「化学IB」で履修していた「化学結合」「純物質と混合物」が新課程では「化学II」に移行してしまうため、理論的な内容が一部出題できなくなる可能性が高い。
さらに生物を学習するうえで重要な「代謝」は、「生物II」で扱うため、「生物I」しか履修していない受験生に対して、十分に配慮する必要がある。 |
| 選択項目の設置の工夫が必要に |
| 個別試験の出題科目の検討上、最も留意すべき点は、IIを付す科目での選択項目の設置である。物理IIでは、「物質と原子」「原子と原子核」、化学IIでは、「生活と物質」「生命と物質」、生物IIでは「生物の分類と進化」「生物の集団」のいずれか一方の選択履修となる（図表２）。 |
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実際に両方履修するようになるのか、一方のみを選択するようになるかは、各高校の方針によって異なるため、大学の入試問題の対応方法は、
（1）一方しか履修していない受験生を考慮する
（2）分野を指定する
（3）選択項目を出題しない
という三つの選択肢となる。
受験生にとって公平な方法は、（1）である。両方の選択項目から出題し、どちらかを選択解答させる方法が考えられる。（2）の方法では、両方の選択項目ともに出題分野として解答させる方法か、大学が指定する一方の分野だけを解答させる方法が考えられる。この方法では、一方の分野しか履修していない受験生に負担となる可能性が大きい。（3）の方法では、出題範囲が限られてしまい、大学は要求する学力レベルを下げることになる。いずれにしても、大学は、どのような受験生を対象に、どこまでの学力を求めるのかを早い段階で高校側に明確にしておく必要があるだろう。 |
