| Betweenは（株）進研アドが発刊する情報誌です。 |
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| 法人化を控えた地方国立大学のFD戦略 |
| センター発足前の地ならしがあって開花 |
長崎大学のFD活動は、大学教育機能開発センターが設立されて以降の1年半だけのものではない。2000年から本格的な動きがあり、その機運の上で設立後の大きな変革の動きにつながっている。
例えば「長崎大学FDハンドブック」という冊子は、全12巻そろっているが、それらはセンター発足前の01年４月から９月にかけて刊行されている。いずれも30～70ページ程度のA6判の小冊子である。一冊に目を通すのに10分あれば十分だ。しかしその内容は非常に洗練されたものとなっている。
特に目を引くのが、第１巻の「大学教員の役割とFDの意義」という冊子だ。長崎大学の新任教員を対象に行われる研修のテキストとして最適である。とかく就業規程や事務局との業務システムの解説に終わりがちな新任研修が多い中、もし明日から長崎大学に着任する教員がいても、これらの冊子を通読すれば大学が目指そうとする教育の方向性が十分理解できるしくみになっている。さらに現任者はもちろん、将来大学教員になる可能性のあるTAのような教育スタッフにも目配りしている。
このようなFD活動の地ならしとなる前段階を経て、センター発足後「変革の華が開花した」と見るほうが正確であろう。そのことを承知の上で、本編では02年以降の動きを紹介した。 |
| 未知の要素のためにFDの核となる教養セミナー |
長崎大学は歴史のある各種の教育機関の統合された大学だ。歴史をひもとくと、1857年（安政４年）に開設された医学伝習所を母体に生まれた旧制長崎医科大学、1878年（明治11年）開学の県立師範学校、1905年（明治38年）開学の長崎高等商業学校など、七つの教育機関から統合されてできた。現在は、教育学部、経済学部、医学部、歯学部、薬学部、工学部、環境科学部そして水産学部の８学部と付置研究機関などを擁している。研究実績では、COEプログラムとして02年度の採択1件に続き、03年度も1949年設立の熱帯医学研究所が行ってきた研究「熱帯病・新興感染症制御戦略」が採択されている。
しかし、このような歴史と伝統、研究実績をもつ長崎大学であっても、受験人口の減少、就学者の都会志向の結果生じている大学の序列化と無縁ではない。また06年度には独立行政法人に移行する。大学みずからのアイデアで大学の特徴を打ち出し、受験生にアピールしなければならない。そのためには学部を超えて大学全体の特色を出さなければならない。
「長崎大学らしさを出すことができるかどうかのカギは、全学共通の教育科目にかかっている」と、井手講師は大学の教育ブランドの重要性を力説する。中でも特に教育成果が見えやすいと考えているのが1年次必修科目の教養セミナーだ。
ただ、教養セミナーのようなコモンベーシックに関する科目の議論は高等教育関係者の中でも始まったばかりだ。カリキュラムとしても成熟、完成しているとはいえない。しかし未完の科目であるがゆえに、在り方をめぐっては担当教員同士で議論の余地があり、相互のコミュニケーションも生まれやすい。また幸いなことにコモンベーシックは学問ではないので、先進的な実践者はいても専門研究家はいない。ここに長崎大学の風土や社会的使命、学生の気質などを加味して味付けする余地がある。今後が楽しみな科目であり、伝統と歴史のある地方の国立総合大学が教育的に大きく変わるきっかけとなる可能性が十分ある。
実際、井手講師は教養セミナーを通して、FD活動に対する教員意識が結束しつつあるといった感触もつかんでいるようだ。同センターが中心になって進めている「知の拠点としての基礎教育、教養教育の基盤構築とさらなる充実」という目標が一定の成果として表れてきている。
長崎大学では、看板学部の医学部をはじめ、工学部でもJABEEなどの外部評価を控えていることもあって急速に改革機運が浸透してきているという。法人化が決定してしまったいま、時計の針は戻せない。国立大学それぞれが存在感を示すことが求められている。
改革の方向性が定まらず、小田原評定を続けている他の地方国立大学があるとすれば、長崎大学の取り組みは大いに参考になるに違いない。 |
| （矢内 秋生） |
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