上智大学文学部教育学科教授
武内 清 |
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| 就職難時代とキャリア支援 |
経済不況から、卒業後の自分に不安を抱く学生は少なくない。武内教授は、13年ほど前、学生生活の調査からバブル時代の典型的な学生像（「上智HANAKOさんの一日」）を描いた。現在の学生にそれを示し、感想を聞いたところ、「昔の学生はずいぶん優雅だった。私のまわりにはそんな生活をしている人はおらず、もっと堅実である」「仕事がないということで悩みや不安を持つ学生が増える」「就職が難しいので、ダブルスクールや資格取得の勉強に打ち込む学生が多い」といった意見が数多かった。大学側も低学年からキャリア支援のプログラムを導入し、卒業後の進路を意識させようという取り組みが活発である。
「卒業生や就職活動を終えた4年生が下級生に、彼らの就職活動や就業の体験を話す機会をゼミで設けると、下級生たちは普段のゼミよりも真剣な態度で先輩の話に聞き入り、質問もよくします。学生にとっては、卒業生や先輩の意見は、教員や大学側が提供するものより大きな意味を持つ場合もあります」と武内教授。 |
| “個人化”する学生とこれからの大学 |
現代の学生は、サークル活動などの集団生活を避け、趣味やアルバイトなどの個人的活動に比重を移す傾向にある。それに携帯電話やインターネットの普及が拍車をかけていると武内教授はみる。携帯電話は親しい友人と連絡をとりあう必需品であるが、その経費は安いものではなく、アルバイトをすることは避けられない。また、さまざまな情報をインターネットで引き出すことができるため、大学の講義の情報価値は低下していく。
こうして個人化する学生たちに対し、これからの大学はいかに対処していけばよいのであろうか。
まず、新入生に、大学の魅力を積極的に提示することが必要である。特に目的意識もなく、あいまいな気持ちで入学した新入生は、目先のことに興味をひかれ、そこにとどまってしまう。新入生が、大学の授業に失望し、遊びのサークルやアルバイトに走ったり、引きこもったりする前に、大学のさまざまな魅力を提供し、認知させることが大事である。
それは、興味のもてる授業であったり、教師との語らいであったり、クラスやサークルでの新しい友との出会いであったりする。また自分の趣味の部やサークル活動であったり、有名人の話を聞く講演会であったりする。蔵書の宝庫の図書館、インターネット使い放題のコンピュータ室、悩みを相談できるカウンセリング室、就職情報満載のキャリア支援室、部・サークル活動のための快適な活動空間、友だちや恋人とゆっくりできる食堂やカフェも必須のアイテムだ。学生たちが魅力を感じるさまざまな授業、部・サークル、行事、イベント、講演会、活動空間が、同時に多く提供され、学生の選択の範囲が広いことが重要だ。
学生の個人化・情報化に対応して、学生への連絡も携帯電話にメールで通知するという方法を選んでいる大学もある。
しかし、武内教授は、大学が学生支援のためにと過剰サービスになってしまうことの危険性にも言及する。「学生支援といっても、大学が何でも先回りして過保護に提供してしまっては、学生が自主的に判断したり、努力して達成する機会を奪ってしまいます。少し不足するぐらいに提供し、ある程度の自由度を持たせ、学生の努力を引き出すことが必要でしょう」
さらに、大学は、入学してくる学生の学力や資質に関連づけながら、どのような学生支援がふさわしいかを考える時代であると指摘。文部科学省の『特色ある大学教育支援プログラム（COL）』で、その傾向は一層強まると分析する。「これからは、大学の入口、つまり入試選抜ばかりを重視するのではなく、大学は学生が卒業までにどれだけ付加価値をつけさせられるかが問われる時代になってきています。『入口型から出口型』（有本 章）への移行が必要なのではないでしょうか」 |
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