特集 満足度を高める学生支援
東京都立上水(じょうすい)高校(仮称)開設準備担当
武蔵村山東高校 浅田博校長
Betweenは(株)進研アドが発刊する情報誌です。
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大学と高校が意見を交換しよりよい連携の方向性を見出す
 教育実習以外にも、提携大学の学生には、文化部、運動部や合唱、人形劇、ダンスなどの表現科目の指導を要請したり、日本の大学で学ぶ留学生を招いて生徒と交流するなど、草の根レベルでの高大連携を進めていく方針だ。
 「校内に大学生が使える部屋を設置し、自由に出入りしてもらいたいと思っています。もちろん職員室での教員とのやりとりや交流もあるでしょうが、大学生がくつろげる場所を設けることで、大学生同士、あるいは大学生と高校生の交流が深められればいいと思っています」
 もちろん、大学生を招くだけでなく、生徒が積極的に大学に出かける機会もつくる。1年次の夏から大学が行うオープンキャンパスに参加させたり、2年次からは希望する生徒が提携大学の授業を通年聴講できるよう協議を進める。
 「キャンパスが隣にあるという立地から、国立音楽大学の学園祭にあたる『芸術祭』の見学や楽器学資料館で調査活動をさせてもらうなど、様々な協力や交流を計画しています」
 浅田校長は、このほかの近隣の大学とも、その大学の特色に応じてゼミやボランティア活動などに生徒が参加できるように、働きかけている。
 例えば、昨年、武蔵野美術大学を訪問し、学生のキャリア支援のために何かできないかともちかけたところ、「新しい街づくりのための聞き取り調査」というフィールドワークを大学生と高校生が一緒にやったらどうかという提案を受けたという。当時は、漠然としていた計画の相談を快く受け入れ、共に方向性を考えてくれる姿勢に感激したという浅田校長は、「もちろん、こちらも情報収集を重ね、様々な計画を検討しますが、高校としてできることにも限界があります。これに対し、大学は何を提供できるかなど、積極的に意見を言ってもらい、互いにキャッチボールできれば、より魅力的な高大連携のメニューを構築できるのでは」と話す。
 また、これまで協力してくれた大学の教職員には、土水高校のアドバイザーとなってもらうよう依頼しているという。継続的に協議を深めていくことによって、その成果をカリキュラムやキャリアガイダンスの内容に生かし、高大7年間の指導の一貫性を目指すことも視野に入れているからだ。
中高大連携を視野に保護者の意識改革が課題
 開校を前に、オープンハイスクールの実施や周辺地域の中学への訪問などで、1年間で2000人を超える中学生を対象に高校の説明を行ってきた。これには、大学との交流の経験が非常に役立っているという。近隣の中学生を対象に行うオープンハイスクールでは、上水高校の教育内容の説明や施設見学を行っているが、希望者には近隣の大学見学も手配する。例えば、中学でブラスバンド部に所属している生徒には、高校見学の後、国立音楽大学へ連れて行き、担当者から説明を受けさせた。「見学に来た中学生が上水高校へ進学するかどうかより、中学生の進路指導の支援になればという意識で行っており、これからも継続していく予定です。また、中学校での保護者説明会では、『高大連携』についての話は非常に興味をもたれます。今後は中高大の連携も視野にいれるべきでは」と構想を語る。
 一方で、保護者に根強く残る偏差値による大学の序列化の意識は今後の大きな課題であると浅田校長は言う。難関大学の合格者数で高校を評価する保護者は少なくなく、「高大連携で、大学から指定校推薦の枠をもらえるのか」といった質問も相次ぐという。
 「進路指導にあたっては生徒・保護者はもちろん、我々高校教員の意識改革も必要でしょう。面倒見のよい大学、学びたいことが学べる大学こそ良い大学であること、自分にとって良い大学を見つけるためには、キャリア教育に基づいた目的意識の醸成が不可欠ということ。こうした共通理解がなければ、当事者である生徒を動かすことはできないでしょう」
高大連携の窓口を設け担当部署への橋渡しを
 浅田校長は、中学だけでなく、多くの大学を訪問し、連携の糸口を探ってきた。「ほとんどの大学で親切に対応していただきましたが、初めて訪れる大学では、どちらで相談を受けてくれるのか、部署の名前をみてもわからない場合が非常に多かった。大学には高大連携の窓口となる部署をもっと明確にしてほしいと思います。内容によっては関わる教員や職員が異なる場合もあるでしょうから、そこに問い合わせれば、適切な担当部署との橋渡しをしてくれるような、専用窓口が大学内にあれば話がスムーズに運ぶのではないでしょうか」
 また、入試の多様化により、入試科目と大学入学後、学科教育で必要となる高校の履修科目が一致せず、大学が高校レベルの補習を行わなければならないケースが増えていることを指摘。大学には、授業内容だけでなく、学部・学科ごとに高校で履修が必要な科目、履修したほうがよい科目の一覧を提示してほしいと浅田校長は言う。
 「大学にとって、高大連携は、目的意識を持ち学習意欲の高い学生を大学へ迎えるための先行投資と考えてもらいたいと思います。広く高校生に門戸を開放し、高校生のファンを増やすことは、大学側にも大きなメリットになるでしょう。予算の制約も多い公立高校がこうしたキャリア支援を成功させるには、大学側の理解と協力は不可欠です。高校からの働きかけに対して、ぜひ積極的な協力をしてほしいと思います」
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