| 今後求められる「 ONE TO ONE」の個別指導 |
| 厳しい就職状況が続く中で、大卒を含む若年層の無業者の増加は一つの社会問題となっている。世の中がどのように様変わりしても、学生を受け入れた以上は、社会へと送り出す責任を有する大学にとって、今、本当に必要な就職支援の在り方とは何なのか。就職指導の最前線の現状と課題について、早稲田大学キャリアセンターの日下幸夫課長に聞いた。 |
| 就職しない道を選ぶ学生が増えてきた |
―まず、大学生全般の、2002年度卒の就職状況について教えてください。
日下 就職率という数字から見れば、非常によくないといえます。例えば、文部科学省が毎年行っている「学校基本調査」によると大卒の就職率は55.0％という数字が出ています。
文科省の調査は母集団を大学卒業者全体とし、それに対して就職者がどのくらいだったかを調べていますが、大学によっては、進学を決めた者、家業を継ぐ者、司法浪人などを母集団から削っていますので、個々の大学から発表される就職率は、さほど悪くないかもしれません。しかし、本学では、大学として学生を入学させる以上、その学生が卒業時にどうなっていくのかをディスクローズしなければならないという趣旨から、文科省にならって卒業生全体を分母として就職率を出しています。それによると、03年3月卒業の学生の場合、学部だけですと53.9％、大学院の修士まで入れて55.1％という数字です。バブル経済崩壊前91年3月卒の就職率87.5％と比べると、この10年余りでいかに就職状況が厳しくなったかが分かると思います。
一方、未就職者から、進学、留学、自営、資格試験浪人、契約社員・派遣社員、非常勤講師、職場復帰など、なんらかの受け皿が決まっている学生を除いて、フリーターと進路未定の者を足した数字は12.3％にのぼります。
しかし、ある調査ですと、今の4年生に対する求人倍率は1.35倍という数字が出ています。就職難といっても、選びさえしなければ全員就職してもおかしくないほどの求人数はあるのです。
―就職できないわけではないのに、就職しないのはなぜでしょうか。
日下 本学の「学生生活調査」を見ると、学生の就職意識が大きく変化していることがわかってきました。
「卒業後の進路について、どのように考えているか」と学生に問うた時、かつては民間企業への就職が1番で、公務員・教員がそれに次ぐという形でした。そして景気が悪くなると、民間企業の志望者が減り、公務員・教員希望の割合が増えるのが典型的な数字の動きだったのです。
それが、97年度の調査を境に、民間が減ると公務員が増えるという図式から、民間が減ると公務員も減る、といったように、両者がほぼ同様の動きを示すようになりました。これは進学、留学、留年など、就職しない道を選ぶ学生が増えてきたからだと思います。
特に求人倍率が0.99倍と、1倍を切った99年度は、「そんなに厳しくて、入りたい会社に入れないなら、あわてて就職するのはやめておこう」という動きが顕著でした。この傾向は今も続いています。
―文系と理系では、昔から文系のほうが就職に不利といわれていますが、その点はどうですか。
日下 私はむしろ、理系の就職に厳しさが増したように感じます。これまでは研究指導をしている教員の独自の就職ルートがあり、そこに学生を振り分けていくことで、ほぼ確実に就職先が決まっていました。それが近年は、一定期間拘束された上に、最終的に落とされるケースが増えてきました。
このような流れの中で、かつては企業の研究職が主流だった本学理系学生の就職希望先も、コンサルなど今まで見られなかった分野にまで広がっています。 |
| 「勝ち組」企業に入りたがる安定志向が顕著に |
―今の学生は、どんな企業なら就職したいと思うのですか。学生の志向はどのように変わってきましたか。
日下 学生たちは、口では非常に前向きなことを言います。例えば、自分の資質能力を生かしてくれる会社、あるいは、若いうちから仕事を任せてくれる会社がいいなど。
しかし、実際に内定先を見る限り、安定志向が非常に強いですね。NHK、ソニー、キヤノン、松下、三菱商事、みずほフィナンシャルグループ、日産など、各業界のトップ企業に集中している。文系はその傾向が特に顕著です。
また、希望する就職先をかつてのように「業種」でくくらないのも、今の学生の特徴です。
選考がある程度の段階まで進むと、「ほかにどんな会社を受けているのか」という質問が必ず企業から出てきます。その際、以前だと同業他社の名前が出てくるのが当たり前でした。ところが今は、例えば銀行を志望する学生であっても、メーカーや情報サービスなど、異業種の企業もどんどん受けています。「勝ち組」と「負け組」という言葉がありますが、今の学生は業種を越えて「勝ち組」の企業に入りたいと考えているようです。
かといって、企業名だけで選んでしまうと、入社してからミスマッチに気づき、早々に退職してしまうことになる。それを避けるためには、低学年、もっと遡って大学を受験する高校生から、将来を考えたキャリア教育が大切になると思います。
余談ですが、本学のオープンキャンパスでは、キャリアセンターの主催で「受験生のためのキャリアガイダンス」を開催しています。そこで言っているのは「早稲田大学に入ったらその先は安心だと思ってはいけない」ということです。「どこの学部でもいいから、早稲田に合格したい」という受験生は、入学してから目標が見つからず、就職の際に苦労するケースが多いのです。 |
