特集 動き出す「ロースクール」
村山 裕比古
東洋大学就職部次長
村山 裕比古(ひろひこ)
Betweenは(株)進研アドが発刊する情報誌です。
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学生の目線で考えるさまざまな就職支援
人材育成機関として問われる大学の社会的責任
 今、大学を取り巻く社会環境に大きな影響を与えている事象は、少子高齢化による人口バランスの変化である。高齢化の波は過去最大の勢いで押し寄せ、この様相がますます進行していくことは明白である。また、18歳人口は2003年の144万人に対し06年は131万人と減少する見通しで、少子化傾向にも拍車がかかる。大学にとって入学者の確保が大きな努力目標となることはもちろんのこと、社会的には将来の労働人口確保という問題に対し大きな不安が起こっている。
 そのようななかで、学生にとって就職は卒業後における進路の一つの選択肢として捉えられている。就職といっても契約社員のように非正社員として労働に携わるケースがあるほか、大学院進学や海外留学、専門学校への入学など、多岐にわたる進路があり、まさに多様化の時代となっている。一方で、卒業後の進路が決まらず無業者(フリーター)となる学生も近年多くの大学で増加の傾向を見せており、社会問題としてクローズアップされている。
 他方、採用側である企業も不透明な時代の中、アウトソーシングによる生産ラインの確保や契約社員・派遣社員・アルバイトの活用など、柔軟かつ合理的な運営組織を構築しようとしている。そしてそのことが、大学新卒の採用計画に大きな影響を与えている。
 このように国内の企業が大きく変化し、学生の進路が多様化する中で、高等教育の人材育成機関として大学の社会的責任はますます大きなものとなっている。
ますます重要性が増している3年生の就職支援
 学生にとって就職するということは、自己の生活基盤を確保すると同時に、社会正義を基本に一人の社会人として踏み出す記念すべき第一歩でもある。近年の学生を取り巻く就職環境を見ると、「内定の早期化」「採用期間の長期化」「量から質への厳選採用」「インターネット等の情報化」等の状況が進行している。このような変化にあわせて、大学が行う就職支援行事も多岐にわたっており、本学でも参加する学生数は年々増加している。
 学部3年生に対して実施している就職支援行事は、時代の変化とともに重要性が増しており、本学でも学生の目線で考えたさまざまな活動を行っている。そこで、以下にそれらを詳しく紹介するとともに、実施にあたっての留意点にも触れてみたい。

〈1〉ガイダンス・講座・セミナー
(1)学部別ガイダンス

 雇用情勢や就職活動の留意事項およびスケジュールなどについて、学生の周知を促す。学生の就職活動は学部・学科の専攻課程との関連性が強い場合が多いため、各学部の教育内容や教育環境の違いに配慮しながら、就職支援を行うことが大切である。例えば、「卒業論文を全学部生に対し必修科目としている学部」「ゼミ対抗のディべート大会を実施している学部」「企業から講師を招いて企業研究の授業を開講している学部」「国家試験に対応する特別講座を導入している学部」「社会福祉のように学科と業界が密接な関係にある学部」などがあり、これらの違いを意識した指導が必要となる。

(2)就職活動に関する講座
 実践的な就職活動の仕方を教える。講師は企業の人事担当者や就職アナリストに依頼するケースが多く、自己分析の手法や内定を得るまでの流れ、業界研究・企業研究の手法を踏まえて企業の多種多様な採用活動について理解させる。この講座を受けることで、学生は就職活動についての知識が養われ、行動への意欲につながっていく。

(3)業界研究セミナー
 時代にあわせて日々変化する業界・業種の内容を理解することは大変重要なことである。このセミナーでは、各業界の最新の出来事や動向などを紹介しながら、さまざまな角度から幅広く業界のしくみや業種の区分などを理解する研究方法を学ばせる。また研究職、営業職、販売職、事務職などの職種の違いや、企業法務、システムエンジニア、MR(Medical Representative=医薬情報担当者)など、今後より必要とされるであろう職種も紹介する。

(4)企業研究セミナー
 業界研究セミナーによって養われた知識をベースに、さらに個別の企業に的を絞って理解を深めさせる。具体的には、いくつかの企業から人事担当者や関係者を招き、その企業の動向や最新の採用状況について語ってもらう。その際、その企業の第一線で活躍している社員の方から具体的な仕事の話も紹介してもらうと、学生にとっては企業研究としてなお一層の効果が期待できる。  なお、協力企業を選ぶ時に留意したいのは、国内産業界をリードする企業はもちろん、知名度は低くても高い技術力を持つ企業や、元気のある中小企業など、学生に幅広く紹介する機会として充実させることである。

(5)内定者報告会
 3年生にとって内定した先輩の就職活動の内容を知ることは、身近で生きた情報として大いに役立っている。内容についてはなるべく具体的に、志望動機や内定に至るまでの就活スケジュールや失敗談など、学生自身の経験をもとに生々しく報告するように依頼する。

(6)OB・OG懇談会
 業界研究や企業研究を通して、志望企業の候補が見えてきた段階で、その業界や企業で活躍している卒業生を招いて、職場の風土や雰囲気、仕事内容、福利厚生、経営状態、男女雇用状況、社会人としての一日の過ごし方などを学生に対し語ってもらう。会社案内にも書かれていないような生の情報を得ることによって、学生にとっては志望する業界や企業が本当に自分に適しているかどうかの重要な判断材料となる。あわせて学生に企業を直接訪問させ、なるべく多くのOB・OGとの面会を奨励することも必要となる。

(7)筆記試験対策等の実力養成講座
 企業でよく活用されているSPIや一般常識および経済常識への対策講座である。この講座では模擬試験も実施する。模擬試験は判定結果を学生に伝えるだけでなく、問題内容を解説し、自己の改善点に気づかせることが大切である。このように模擬試験と問題解説を繰り返し行うことによって基礎的能力が培われ、適応力も身につくようになる。また、職業適性検査なども実施し、学生の自己診断の参考資料として活用を促す。

(8)地方の企業への就職活動に関する支援
 Uターン就職を希望する地方出身の学生や、首都圏在住であっても地方企業での就職を希望する学生を対象に実施する。なかには首都圏の企業と地方の企業への就職活動を同時並行的に行う学生もいる。しかしそのような就職活動は、時間的にも体力的にも相当な負担となるケースが多い。そのため本格的な就職活動を開始する前に、勤務地について十分検討し、選考日が重なったときの対応など、活動の方向性を定めさせることが大切である。ガイダンスでは希望する地方の住環境や地場産業、地元の有力企業など、情報収集の方法を紹介し、地域の特性をふまえた就職スケジュールや活動の進め方を教える。このとき事前に、Uターン就職について学生アンケートを実施し、勤務地、業種、職種などの希望状況を調査するとともに、希望の多い勤務地における有力企業の採用実績なども把握しておくことが重要である。

(9)女子学生に対する就職支援講座
 99年の4月から男女雇用機会均等法が改正され、新卒学生の採用に新たな展開が見られるようになった。しかし現状の女子学生の採用については、依然として企業間で温度差があり、厳しい状況にある。
 このような現実を踏まえ、女子学生が就職活動を開始する前に、男女雇用機会均等法、労働基準法、育児・介護休業法などの就職・就業関係法規について必要性を理解させ、男女共生社会に向けた女性支援に結びつけることがこの講座の目的となる。

(10)その他の講座等
 この他「低学年を対象とした職業観育成に関する講座」「ビジネスマナーに関する講座」「履歴書やエントリーシートに関わる添削指導」「模擬面接」「グループディスカッションの模擬実施」「就職合宿」「公務員やマスコミに特化した対策講座」「資格取得に関する講座」等の行事を実施している。
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