FD遠近法
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教授法改善のアピールにとどまらない
展開に入ったFD
組織の大きさで分かれるFDのアプローチ
 2002年10月号から約1年にわたって先進的FDあるいは特徴あるFD活動等を行っている12の大学を取材した。
 これら12大学の対比的な類型を分かりやすく表に示してみた。表中では、これらの大学が社会で担っている役割や位置づけの状況から類別し、便宜的に〔 〕で特色を表現している。
 国立大学4大学はいずれも学部横断的組織として、高等教育研究センターやFD委員会などが設立され、教育改革に取り組んでいる。それらの組織は全学共通科目、とくに教養的科目や導入的科目を通して、自らFDを実践しながら、その活動を全学に広めていこうとしている。
 それに対して、公設民営型である高知工科大学では、教育改革の旗振り役は学長直轄の執行部が担ってFDを展開している。これは開学時から教育的ミッションが明確であることに加え、FDについても理解ある教職員が集まっていたからこそできるやり方だ。ただ、このような大学も開学から数年たつと、学生の質が変わり、教職員にも第二世代が入ってくる。そのときに、状況の変化に合わせた教育改革の方針をどれだけ打ち出せるかが、その後を左右するように思われる。
 また、私立大学の中で、大学教育研究センターによるFDを行っているのは中部大学で、学生数は約8000人である。それに対して佛教大学は通信教育部を除くと約6500人であるが、教授法開発室という学長直轄の部署が担当している。どうやら私立大学の場合、学生数が8000人ともなると、学部横断的組織によるFDのほうが機能しやすいのかも知れない。
教育評価もさまざまなかたちに
 大学教育改革という広い意味でFD活動を捉えた場合、教員組織だけではなく、事務組織もさまざまな面で関わる方が実効性は高い。その典型例が、金沢工業大学である。この大学は学生を顧客ととらえ、顧客サービスに徹し、ことさらFDというスローガンを掲げなくても、さまざまなFD的な実践例がすでにそろっている。特に第三者評価の取り組みにおいて、経営のクオリティを測るために、経営品質賞という実業界の評価尺度による外部評価の実施を目指しており、より実学志向の強い教育改革を進めようとしている。
 一方、金沢工業大学とは教育ミッションが対極にある国際基督教大学は、アメリカの大学院に進学した学部卒業生の現地での成績評価をもとに、自大学の教育水準を測る客観的物差し(GPA)を設定している。金沢工業大学とは違ったアプローチによる第三者評価といえよう。
 高知工科大学では授業評価や研究業績を加味した給与査定が導入されている。この査定は任期制や年俸制が連動し、きわめて厳格に運用されている。その一方で、授業改善はあくまで教員の自主的な努力にゆだねるという方針だ。
 一方、東北芸術工科大学は、教員と学生がともに活動する場として「演習の家」という学習拠点が活性化し、教員と学生との密度の濃い交流がこの拠点をもとに実践できているユニークな例といえる。
 東京電機大学情報環境学部と多摩大学経営情報学部は、学部という小回りの利く規模で、課題解決型学習を重視し、導入教育を活性化している。ともに学生と教員、学生同士のコミュニケーションを生かした取り組みとなっている。ただ、それぞれの内容については、文系と理系によるアプローチの違いが見える。
 今後のFDの姿としては、教員組織においてFDが共通認識となった後は、教職員全員が大学のミッションを共有化し、SD(Staff Development)や、企業のような顧客中心型の事務組織の構築につながっていくのだろう。つまり、FDは、いまや教育改善のアピールにとどまらず、個々の大学に展開する時代に入ったといえよう。
(矢内 秋生)
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