ベネッセ教育総合研究所
特集 問われる教育「特色ある大学教育支援プログラム」からの視点
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大学教育の課題への対応を表した採択結果

―採択された取り組みに何らかの傾向は見られますか?
絹川
まず、体験的学習を行う取り組みが多く見られました。これは、大学教育が教室内だけではなく社会との接続性を持って行うべきという視点に立っており、審査の過程で問題になった「公共性」の問題を、結果的にはクリアしたことにもなる。
 もう一つは、学生のモチベーションを高める、いわゆる動機付けを与える取り組みが高く評価されたことです。これは、学習意欲の低い学生が増えているという現実の表れであり、大学教育以前の問題ともいえます。しかし、この問題を大学が見過ごすわけにはいかないのです。
 社会との接続性を持つ教育、動機付けを与える教育、どちらも日本の大学が抱える問題にきちんと対処していることの証明であり、それが反映された採択結果となったと考えられます。
―日本の大学教育はきちんと機能しているということですね。
絹川
この結果を見る限り、そういえると思います。昨今、「日本の大学は駄目だ」という論調で語るメディアがあふれていますが、大学教育をトータルに評価する目が社会の中に育っているとは思えません。相変わらず偏差値やブランド、就職率で評価する傾向が強い中、今回の採択結果が大学の評価に対する新しい視点を与えたのではないかと思っています。
―そうした成果をどのように生かしていくべきでしょうか。
絹川
採択結果やその内容が、大学や高校などの教育関係者に伝えられることは当然ですが、私は企業の人にもぜひ関心を持ってほしいと思っています。企業は、好況だった時代には均質的な人材を大量に採用するという傾向にあったようですが、最近では、即戦力として役立つ個性を持った人材を求め始めています。しかし、実際の採用となると従来の評価基準から離れられないようです。大学に対する社会の見方を変えていくためには、社会一般にも広く公開し、大学の中身をきちんと紹介していくべきでしょう。そうすれば、いわゆるブランド大学だけではない、教育に地道に取り組んでいる地方の大学や短大の姿も浮かび上がってくるはずです。


採択を目指す努力そのものが大学教育の改善につながる

―教育を評価することの是非については、どうお考えですか。
絹川
個人的には、教育というものは本質的に評価しきれないものだとの認識を持っています。教育の成果は、実際にはわれわれ教員の思いを超えたものなのです。これだけの成果を挙げるためにこれだけのことをするという形での教育活動では、学生の可能性を一定の枠にとどめてしまうこともあり得る。教育は結果を予測できるものであってはならないのです。
 また、教育は教員と学生との交流で生じる相互作用によりその効果が表れるものだと考えます。教育の質を突き詰めて言えば、どういう教員がいるかということに帰着する。その意味で、教育を評価することは非常に逆説的であり、ジレンマでもあります。
 しかし、今後はこうした教育の力、つまり大学が組織として個々の教員の力をどう生かしているかを評価する必要もあるでしょう。
―今後のプログラムの展望は?
絹川
この種のプログラムに限界があることは十分承知しています。しかしながら、文科省が主導する施策の一つですから、政策的な効果があればそれでよしとすべきところもあると考えていますし、各大学に「自分たちはいったい何をやっているのか」という本質的な視点に立ち返る機会を与えたという意味では、成功だったと評価しています。いずれにせよ、日本の教育を良くするためには、わずかでも手助けになるものであれば活用した方がいい。多少の欠点があったかもしれないが、今後はそれらを補いながら評価のシステムを成長させていけばいいと思っています。
―来年度の審査については。
絹川
今年度はスケジュールの都合もあり、問題もいくつかみられましたが、審査に対する基本的な方針は間違っていなかったと思います。来年度はそれらの問題点を改善しながら、今年度と同じ体制で審査に臨みたいと考えています。基本的には、今の仕組みで3年くらいは続けるべきだというのが実施委員会の意見です。
―今回不採択になった大学も、再度挑戦するチャンスがあるわけですね。
絹川
もちろんあります。ある意味で、採択されなかった大学は幸せだと考えることができます。自分たちがこれまでやってきたことを見つめ直すきっかけになるわけですから。その意味では、採択された大学は、このままでいいのだと現状に甘んじ、改善の努力につながらないということがあってはならない。
 採択されるためには、当然教育の中身が充実していることが前提となりますが、その内容を的確に表現し簡潔にまとめる必要があります。これは申請書に記入するという目的だけではなく、自分たちの取り組みを言葉にすることで、学内全員でその内容を共有することになる。ひいては大学の活性化につながるのではないでしょうか。


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