ベネッセ教育総合研究所
特集 問われる教育「特色ある大学教育支援プログラム」からの視点
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採択校の取り組み概要
「他大学にとっても参考になり得る」との観点から採択された教育プログラムの中には、高等教育界で広く知られているものに加え、地方の大学や小規模大学で地道に続けられ、今回初めてクローズアップされたものもある。ここでは、テーマ別に概要を紹介する。


1 主として総合的取り組みに関するテーマ

 国公立大学はすべて全学での取り組みが採択された。北海道大学では、伝統的な全人教育=教養教育をベースに、リベラルアーツを中心とする必須の教養科目で構成された「コアカリキュラム」を導入。「責任部局」と「全学協力」による組織的な運営で、科目開発からFD、教育評価まで一連のシステムとして機能していると認められた。九州大学の「21世紀プログラム」では学生が学部に所属せず、全学的な教育支援の中、個別カリキュラムで学ぶ。研究重視の大学における学部教育改革のモデルケースといえる。
 会津大学は設立以来10年以上にわたり、「先進的コンピュータ理工学教育」に取り組んできた。1年次から最先端の研究・技術動向に触れる「課外プロジェクト」など、目的意識を育ててから基礎教育に戻る教育方法を採用。大分県立看護科学大学では、一般教養教育、看護学の基盤教育、および専門教育を融合したカリキュラムを取り入れている。看護実習や国際交流でも成果を挙げている。
 私立大学では学部単位での取り組みが目立つ。工学院大学は、工学部において「産学連携型の新しい工学教育プログラム」を導入。企業から課された研究テーマに3年次から2年間かけて取り組む「ECP(Engineering Clinic Program)」は、就職先企業からの評価も高い。国際基督教大学は、50年の歴史を持つ本格的なリベラルアーツ教育が特色で、修得した教養を行動に移す「行動するリベラル・アーツ」を提唱。模範的事例として、積極的な情報公開にも期待が寄せられている。東京女子大学では、副専攻として「女性学・ジェンダー」を設置するなど、男女共生社会実現のための教育を展開。今後は、成果の評価基準の開発や、授業評価との有効な連携が望まれる、とされた。
 短大では私立2校が採択された。北星学園大学短大部では、英語の一般教育を必修科目として履修させ、英語力の向上を図る先進的な教育に取り組む。富山短大では、入学前から卒業後までの一貫教育による介護福祉分野の人材養成を実践。生涯学習と地域福祉への貢献という点でも注目される。


2 主として教育課程の工夫改善に関するテーマ

 国立大学では、採択校の約半分が工学部を中心とする理工系教育での取り組み。電気通信大学では、「『楽力(がくりょく)』によって拓く創造的ものつくり教育」を実践している。学習や創造、仕事などの活動を楽しむ能力を「楽力」と定義し、学生自らが主催するコンテストを通して動機付けを行うなど、導入教育として組織的に取り組んでいる。
 公立大学では、金沢美術工芸大学の「国際的芸術家滞在制作事業」など。世界の一線で活躍する著名なアーティストを招聘し、一定期間滞在して学生や地域住民を巻き込んだ創作活動を展開してもらうというもの。地域密着と世界的視野を結びつけた点に、公立大学の特性や強みが生かされている。
 私立大学では、東京理科大学の「全寮制に基づく全人的教養教育」が、学部単位の取り組みとして評価された。基礎工学部の1年生は北海道長万部キャンパスで全寮生活を送り、自然や地域住民との交流を通して全人的な教養教育を受ける。大学院進学実績など学業面でも成果を挙げている。早稲田大学では、2500の「オープン科目」を開設。高校生や他大学の学生も受け入れて共に学ぶ環境を提供しているほか、学部横断的なゼミ「テーマカレッジ」など、他大学にも参考になると評価された。 立命館アジア太平洋大学では、66カ国・地域の学生と17カ国・地域の教員が集う多言語環境を生かし、全科目の約7割を日本語と英語の両方で開講。基礎・専門教育では日本語と英語の科目をほぼ半々にしている。
 短大は全学的な取り組みが6割以上を占めた。湘北短大では、インターンシップをはじめとする社会体験教育を10年にわたり全学的に推進、1000人以上の派遣実績を誇る。「SHOHO」と称する模擬企業で、学外協力も得ながらリーダーシップを育てる。
 龍谷大学短大部では、2年次に社会福祉施設で行う宿泊実習の準備として、1年次後期にボランティア活動を軸とした体系的な事前学習を導入。ボランティア・コーディネート・センターなどが、全学的、重層的に支援している。民間のシンクタンクに委託した調査では、社会福祉法人から高い評価が得られたという。語学教育に関する取り組みでは、青山学院女子短大英文科の外国人教員のコーディネートによる英語教育のほか、大阪女学院短大の教養教育と英語教育の統合による「英語で学ぶ」教育方式が採択された。



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