ベネッセ教育総合研究所
特集 問われる教育「特色ある大学教育支援プログラム」からの視点
萩原 信一
全国高等学校進路協議会会長
東京都立新宿山吹高校校長
萩原 信一
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Interview 委員に聞く
実績をもとにパワーアップを図る取り組みが採択される

今回の審査には、大学関係者だけでなく、高校関係者も加わった。その1人、全国高等学校進路協議会の会長を務める東京都立新宿山吹高校の萩原信一校長に、審査の様子や高校にとっての意義について聞いた。


 萩原校長が審査委員を務めた第2審査部会は、テーマ2の「教育課程の工夫改善に関する取り組み」を担当した。ポイントは「大学の質を高める取り組みであるか、それが大学の制度的なものとして、きちんと位置づけられているかどうか」だったという。その上で各委員が評価を行ったが、そこで意見をすり合わせることはなかった。「だからこそ、大学人のほかに高校関係者を加える意味があったのではないか。その後の討論やヒアリングの場でも、高校側の視点から意見を述べることができ、役割は果たせた」と語る。
 高校側の視点はどんなものか。萩原校長は、「そのプログラムが学生の質を高める役割を担っているかどうか、そして研究機能を見据えた教育機能になっているかどうかに重点をおいた」という。
 181件の申請(共同の取り組み13件を含む)のうち、ヒアリングが行われたのは35件(同2件)。審査委員全員の前で大学側のプレゼンが約20分間行われ、それから質疑応答に移る。1大学に対して1時間以上の時間がかけられた。プレゼンについては「各大学とも社会に受け入れられているという自負心で発表するので、熱意が感じられ、大学教育の中身を知るいい機会になった」という。
 質疑応答では、そのプログラムの実現可能性が大きな焦点になった。例えば、インターンシップをある規模で実施するといっても、その地域の企業の現状、スタッフの体制から考えると、不可能に近いと予測される場合もある。そこを掘り下げて聞いていくことで、実現性を見極めた。
 萩原校長は、「質疑応答でその大学の実力がわかってしまう」という。「大学は各部署の担当者を同席させているが、こちらの質問に対して、どの担当者が答えるべきか迷っている大学もあった。部署間の連携が悪く、組織が円滑に動いていないことは明らかで、申請内容が実態を伴ったものかどうかは、自ずとはっきりしてくる」。
 ヒアリングで特に重視したのは、教職員がどの程度具体的に関わっているのか、学生をどう評価しているのかの2点。「教育もPLAN - DO - SEEが大切。今回申請した教育の結果として、学生をどう評価していくのか、その基準や過程、仕組みがどうなっているのかについて、生徒を送り込む側として大いに関心があった」からだ。


教育の中身を知るためにプレゼンの文書化に期待

 第2審査部会の採択結果をみると、工学系のプログラムが比較的多い。これを、「その教育プログラムを通して、学生が何かをなし遂げた実績を分かりやすく提示できるのが、ものづくり的なプログラムということではないか」と分析する。採択校のバランスについては、委員の間でも問題になったという。しかし、今回は日程上の制約もあり、バランスやバラツキを考慮に入れるよりも、いいものから順に選んでいくという判断に落ち着いた。「バランスは大切だが、『いいものはいい』という評価が貫徹されないと意味がないという議論になり、最終的には、総合評価部会に下駄を預ける形になった」と振り返る。
 採択大学については、「実績があると認定された、と考えるのが妥当」という。今回の審査は実績重視だったが、それだけで評価するのではなく、実績をベースにパワーアップしようという大学が採択された。現在行っているプログラムの質を高め量を増やすものから、スタッフの配置や組織転換も含めて新しい方向性を打ち出すものまであった。「いずれにしても、改革を伴う取り組みであり、大学の教育の質を変えるきっかけになるだろう」と述べる。
 大学改革における有効性に加えて、高校の進路指導への利用可能性についても言及する。「実績のある大学で、しかも将来性にも勝るとなれば、高校生が大学選びをする際の評価基準の一つになり得るのではないか」。
 採択結果については、「高校が大学教育の中身をより詳しく理解するためにも、採択大学が行ったプレゼンの内容を文書化し、冊子にしてほしい」という。大学と高校の双方が利用しやすい形での情報発信に期待をかけている。



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