ベネッセ教育総合研究所
特集 問われる教育「特色ある大学教育支援プログラム」からの視点
寺崎 昌男
立教大学総長室調査役・東京大学名誉教授
寺崎 昌男
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Contribution
「教育への取り組み」を評価するということ
−どのようにすればそれは意味を持ち得るか−
プロジェクトの意義

 「特色ある大学教育支援プログラム」の結果発表の前日、「このような教育的評価の取り組みについてどう考えますか」という取材をマスコミから受けた。「教育の質を競争的な環境の中でよくしていこうという文部科学省の試みは肯定的に評価しています」とまず答え、次いで「このプログラムを通じて地方の私立大学や規模の小さい短期大学など、今まで受験生や保護者たちの目の届かなかった大学の優れた取り組みが浮かび上がってくるなら、各大学の自己変革の励みになるでしょう」とコメントした(9月19日付朝日新聞)。
 申請667件、採択80件、競争率約8・3倍。「競争」と見れば、確かに厳しい数字である。その点だけをとれば、「政府による競争の土俵が設定された」という見方も成り立つ。しかし、発表された大学名を見れば、筆者がマスコミにコメントした成果については、ほぼ達成されているように思う。というのも、かねてからその教育内容の良さに注目していた地方の単科大学や、教育の地域開放や特色発揮に努めてきた私立短期大学などが採択されているからである。
 別の言い方をすると、採択数は限られているので、競争的な「相対評価」にならざるを得なかっただろうが、審査は個々の改革に対する「絶対評価」によっても行われたのではないかと推察する。その結果は各大学にとって大きな励みになるばかりでなく、文部科学省によって、その内容が全国に広報されれば、教育水準向上の意義は少なくない。


今年度の問題

 来年度以降4年間は続くといわれるこのプロジェクトへの期待は大きい。ただし期待の前提として重要なのは、厳正な批評である。審査活動への率直な評価が肝腎だ。
 そこで今年度の具体的な問題をあげる。
 まずは審査期間の異常な短さである。大学への趣旨説明会の開催が7月初旬、それから3週間と経たない7月下旬から8月初頭に申請受け付け、下旬にはヒアリング実施、9月中旬発表という今年のスケジュールは、明らかに無理で、異常だった。ペーパー・レフェリーを含めて総計何人の審査員がおられたかは知らないが、仮に200人を確保できたとしても、664件の申請を1割程度に絞る作業は、正味2週間強ではなかったか。評価を受ける側には残酷であり、審査側にとっては殺人的スケジュールであったろう。今年限りのことにしてほしい。
 次にヒアリングの配当時間についても問題があると感じられた。補足説明20分、質疑応答が10分という配当、しかも「公平さ」をおもんばかってのことであろうか、一律に画一的な配当という方式は適切だったろうか。画一的な配当は仕方がないとしても、審査側には、質疑を十分に行うなかで書類の「補足」を引き出すだけの準備と努力がほしい。せめて補足説明10分、質疑20分というように逆転するべきである。
 さらにいえば、一件当たり20人以上、部会によっては30人近くの審査委員が聴取する舞台設定も異様である。審査基準に関する合意や時間のゆとりさえあれば、複数会場に区分された落ち着ける場所でより突っ込んだ審査ができたはずである。また、一部で問題となった、申請者本人がヒアリング委員を兼ねるといった論外の事態には、もちろん厳正な反省を求めたい。


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