ベネッセ教育総合研究所
特集 問われる教育「特色ある大学教育支援プログラム」からの視点
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総合的取り組みに関するテーマ研究テーマの探究を通して未来社会への先導者を育成
[慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス]
「総合的取り組みに関するテーマ」のなかでキャンパス単位の取り組みとして採択されたのが、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(以下、SFC)である。申請タイトルでもある「問題発見解決型教育の先導実践」として、学生が自ら選んで参加する研究プロジェクトを中心とした教育内容が評価された。


「寄り道方式」によるカリキュラム構成

 先ごろ、千葉・幕張メッセで東京モーターショーが開催された。世界の一流自動車メーカーが最先端の研究技術を競うこのイベントに、一私大であるSFCが電気自動車を出品したことは、各種メディアにも取り上げられ話題となった。
 清水浩教授(環境情報学部)の研究プロジェクトの作品である。企画から設計・製作、当日のイベントコンパニオンまで、すべて清水教授とプロジェクトの学生たちの共同作業で実現した。現在、同プロジェクトでは電気自動車の世界最速を目指し、日夜研鑽中だという。
 SFCにおける教育コンセプトの最大の特徴は、このようなプロジェクト(研究会)中心のカリキュラム編成にある。今回の採択もこのカリキュラムを生かした教育実践の成果が評価された。
 このプロジェクトは2または4単位の科目で、学生は多彩なプロジェクトの中から自分が最も興味のあるものを見つける。そしてプロジェクトに取り組み、それを遂行するために必要な基礎知識や技術を、授業や自習を通して学びながら、卒業制作を完成させる。
 新入生に対しては『プロジェクト総合講座』が実施され、そこで各教員がどのような先端研究をしているか、院生を含む学生らがどんなプロジェクトに取り組んでいるかが紹介される。
 環境情報学部長の熊坂賢次教授は言う。「プロジェクトに仲間入りしたとたん、学生はそれまでの知識だけでは通用しないことを痛感し、挫折を味わいます。そこで教員や院生は、その学生にどのような基礎知識が必要で、その知識を得るためにどのような授業を受講すべきか伝授します。学生はこれを参考に、素直に学習に励むようになります」。
 学生は多少でも知識を得れば、プロジェクトの実質的メンバーになろうと背伸びするが、むろんすぐになれるはずもないため、当面は様々な下働きをすることになる。この繰り返しが自然と彼らを一人前にしていくのだそうだ。
 このようなプロセスを熊坂教授は「寄り道方式」と表現する。「従来の大学教育では一つの学問分野をマスターすることを目的として、まず基礎を勉強し最後にそれを応用して卒業研究を行う『積み上げ型』の教育スタイルが効果的とされていました。しかし、実社会における最先端の問題の多くは複数分野にまたがるため、このような方式では限界があります。そもそもどのような基礎知識が必要なのかということ自体、実際に問題に取り組んでみないとわからないことが多いのです」。


履修ガイドラインとしてクラスターを設定

 このような仕組みを維持するために、01年から、カリキュラムは学年配当制を完全に廃止し、それに代替するものとしてクラスター制を導入。すべての講義科目を15のクラスター(集合体)に区分して、履修ガイドラインとして学生に提示している。クラスターは環境情報系クラスター、総合政策系クラスター、複合系クラスターに大別されるが、学生は複数のクラスターにまたがって履修したり、逆にクラスターを全く無視して履修することも可能だ(図表)。
(図表)
(図表)クラスターの概要図
 それぞれのクラスターには導入科目、汎用科目、特設科目、専門科目、自由科目、クラスター科目といった科目群のなかからそれぞれの目的に応じた履修科目が示される。いくつかの科目群で最低限履修しなければならない単位数は設定されているが、必修となっているのは「ウェルネス科目」のみである。
 「クラスターはあくまでも履修ガイドラインなので、時代が変化すればいくらでもスクラップ&ビルドします」と熊坂教授。


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