ベネッセ教育総合研究所
特集 問われる教育「特色ある大学教育支援プログラム」からの視点
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創設時から重視してきた人工言語と自然言語の能力養成

 SFCでは、情報処理科目を「人工言語」、外国語科目を「自然言語」と呼んでいる。熊坂教授は、SFC出身者が「語学と情報処理に強い」と社会から評価されるのも、人工言語と自然言語の能力が次世代に不可欠な能力になると想定して設立当初から教育に力を入れてきたからであり、研究プロジェクトを遂行する上でも欠かせない能力だと強調する。
 例えば人工言語では、パソコンの運用能力からプログラミングに至る専門的な知識の習得が義務付けられる。学生はそれを研究データの収集から整理、分析に用いることはもちろん、教員や仲間の学生との情報流通、職員からの情報伝達などパソコンのネットワークをフル活用することになる。
 実際、どの授業も終了すると、ネットワークを通じて講師への質問やそこから派生する議論が日常的に展開される。
 しかし熊坂教授は、開学当初は先端的だったこのような情報環境も、今ではどの大学でも当たり前になってきたことを踏まえ、今後は携帯端末を利用したシステムの構築など、より充実したデジタルキャンパスの実現を目指していきたいという。
 自然言語についても、コミュニケーションツールとしての言語から専門教育に直結する講座が用意されている。「英語については在学生全員が一定水準に達するまで徹底的にサポートする体制ができています。さらに、専門科目の『コンテンツモジュラー外国語科目』の授業になると、専門分野の授業を特定の言語で行うまでになります。例えば中国の北京大学の教員や学生と自分の専門分野に関する議論を中国語でやり取りできるレベルに、4年間で仕上げる体制づくりを始めています」と熊坂教授は言う。


「SFC version 2.0」の完成を目指して

 140年以上の伝統を誇る慶應義塾のなかにあって、SFCの歴史は10年余りにすぎない。しかし前述の教育が実を結び、多分野で活躍する企業人やベンチャーの旗手を多く輩出するなど、卒業生に対する評価は高い。慶應義塾内の最高の栄誉である塾長賞の受賞者にSFC生の比率が高いという事実も、このキャンパス独自の教育が生み出した実績の一つといえるかもしれない。
 SFCでは学生を「未来からの留学生」と呼ぶ。申請タイトルの「問題発見解決型教育の先導実践」の目的はまさに21世紀を担う人材の育成にある。
 これまで紹介してきた取り組みは、新しい環境に適応した教育制度改革を実現するために99年に構築された「SFC version 2.0」に基づき進行しているものであり、その最終形態は慶應義塾創立150周年に当たる08年に完成する予定となっている。
 それまでに、(1)いつでもどこでも情報ネットワークにアクセスできるユビキタス環境の整備(2)起業までをサポートする学生ベンチャー育成プログラムの構築(3)アジア諸国の大学・研究機関とのネットワークによる連携(4)看護医療学部を中心とした地域社会との連携プログラムの推進が計画されている。すでに(4)については地元の藤沢市とSFCとがITを用いて医療・福祉分野で連携する「e―ケア・プロジェクト」など実現に向けて動き出した取り組みもある。
 「すべてゼロから始めた本キャンパスの13年間の教育実績が評価されたことで、さらにこの取り組みを続けていく使命を感じています。今回の採択を契機に高校生にSFCに関心を持ってほしいですし、大学としても未来に通用する学生をさらに輩出していきたいと考えています」と熊坂教授は抱負を語った。


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