ベネッセ教育総合研究所
特集 問われる教育「特色ある大学教育支援プログラム」からの視点
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Theme-5
地域の子どもの課外活動支援を通じて教員の素養を身に付ける
[福井大学]
教員に必要とされる力量には、教科指導以外に、不登校児への対応や、子どもの主体的な学びの支援などが挙げられ、ここ数年ますます重視されている。福井大学教育地域科学部では、こうした力を高めるための活動を「地域と協働する実践的教員養成プロジェクト」として10年前から行っている。


県内不登校児の25%が参加するライフパートナー事業

 福井大学教育地域科学部は、実践的な授業を通しての教員養成に学部をあげて取り組んできた。その中心となるのは、
 (1)教科指導力を高めるための「教育実習」
 (2) 小・中学校の児童・生徒指導や教育相談に対応するための「ライフパートナー事業」
 (3) 児童・生徒の主体的な学習活動を支援する方法を探る「探求ネットワーク」
の三つだ。その中で今回採択されたプロジェクトは、ライフパートナー事業と探求ネットワークを中心とするもので、どちらも正規の授業として行われている。
 ライフパートナー事業は、不登校の小・中学生が大学生と一緒に話し、遊び、ときには勉強することで、自己を肯定し、人に接する喜びを発見することが目的だ。1994年に福井市教育委員会との協働で始まり、現在は福井県内の7市町に拡大。01年度は学生130人が222人の不登校児のもとを訪れている。これは県全体の不登校児825人(01年度)の25%にあたる。
 教育地域科学部の松木健一助教授は、正規授業として行う目的を語る。「今や小・中学校のクラスに1人は不登校児がいて、彼らとどう関係を築くかは教員になったら必ず直面する問題です。学生のうちから経験することで、教員になるための自信につながります」。
 このプロジェクトは(図表1)のような仕組みになっている。教育委員会には不登校児などの相談を受け付ける適応指導教室があり、そこで、学生の訪問を希望する保護者や学校からの申し込みを受けて、学生と子どもの「お見合い」を設定する。双方の合意があれば、学生は週1回約3カ月間、適応指導教室や自宅、学校を訪れて交流を深める。
(図表1)
(図表1)ライフパートナー事業における大学・学校・行政のパートナーシップとコラボレーション
 しかし、不登校児との交流には様々な困難も生じ、学生の悩みは終始つきない。子どもと会うこともままならないケースや、子どもの希望でゲームやカラオケばかりということも少なくない。子どもを登校させることが目的ではないが、遊んでばかりいることが本当に子どものためになっているのかと、ほとんどの学生は考え込む。こうした悩みや活動内容を大学の授業で報告し合い、アドバイスを受け、他学生のケースを聞く。それらを踏まえて自分の活動を検討し、次回の訪問につなげる。授業には教育委員会の職員や小・中学校の教員、ライフパートナー経験者の大学院生も参加し、様々な立場からの意見を聞くことができる。学生にとっては、教員になる前の貴重な体験となる。


学年を超えた子どものコミュニティの場に発展

 探求ネットワークは、子どもの主体的な学習活動の支援と、学校週5日制に対応して地域の子どもの活動を支えるプロジェクトとして95年度に始まった。大学のキャンパスに市内の小学校4年生から中学生までが集まり、興味ある活動を各自で選んで、学生と一緒に活動する(図表2)。活動日は5月から12月までの第2、4土曜日の午前中。夏休みには泊まりがけで合宿やキャンプも行う。8カ月間活動を積み重ね、最終日には成果を発表し合う。
(図表2)
(図表2)探求ネットワークの活動
 開始当初は4テーマで参加者は55人だったが、03年度には6テーマ、参加者は301人まで拡大した。続けて参加する子どもも多く、2年目以上の子どもが新メンバーの子どもを支えるという、学校ではみられないコミュニティに発展している。
 一方、学生は毎週水曜日の授業で全体会議とブロックごとの打ち合わせを行う。年度末には活動報告をまとめ、他大学の学生や教員を招待した公開討論会を行う。02年度には、障害児と活動を共にする「ふれあいフレンドクラブ」が発足。新たな展開も見せている。
 「子どもたちの自然な姿にふれ、生の声を聞けるのは貴重な体験。(中略)子どもたちと関わりあい、一緒に活動し、一緒に学んでいけるという価値ある経験をすることができる」(『探求ネットワーク2002活動報告書』より)と、学生の満足度も高い。
 カリキュラム上では、ライフパートナー事業は「学校教育相談研究」、探求ネットワークは「総合学習研究」という科目だ。いずれも必修科目ではないが、教員免許を取得するほとんどの学生は4年間の中で両科目とも履修、2回以上履修する学生も少なくない。こうして経験を積んだ学生は、活動の中心を担う重要な存在となる。運営、広報、会計などを分担し、新しいメンバーを支える。それぞれ10年目、9年目を迎えた今ではこうしたサイクルが確立し、活動自体はスムーズに運営されている。


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