ベネッセ教育総合研究所
特集 大学広報の今、これから
(株)進研アド
ダイレクトプランニング部
マネジャー
中富 敦史
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「マスからダイレクト」へ
一人ひとりへのきめ細かな募集広報の時代
ダイレクトマーケティングの必要性

 1990年代初めまでの受験人口増加期、受験生は併願校を増やし、いわゆる「受験バブル」と呼ばれる現象が起きた。しかし、90年代後半になるとそのバブルも終わり、受験人口の減少、入試の易化、受験生の多様化などの様々な環境変化が起きた。
 そんな中、大学は自らのアドミッションポリシーのもとに、環境の変化を視野に入れながら、マーケティングに基づいた学生募集戦略を確立すべき時代となった。
 受験人口増加期であれば、マス広告だけでも出願に結びつけられたが、減少期である現在は、マス広告だけでなく、受験生一人ひとりへの募集広報活動が必要となった。そのためには受験生を顧客と捉え、受験生の視点に立った広報活動で出願へと導く仕組みを作ることが基本となる。
 受験生は出願時期になって突然受験校を決めるというわけではなく、それまでに何らかの方法で大学と接点を持ち選別のための情報を入手するようになった。もちろん併願校にも同様に接触する。受験競争の緩和により、入試情報や偏差値だけにとらわれず、大学の中身を厳しく比較検討し十分に吟味する受験生に、自校が「選ばれる」か「選ばれないか」は、広報活動次第となり「とり込めるか」「とりこぼすか」の大きな違いとなりかねない。
 従って、大学は資料請求などの初期接触段階から、出願に結びつけるための広報活動を、受験生一人ひとりへ向けて実施し(=ダイレクトマーケティング)、それぞれの成果を「どれだけ出願に結びついたか」によって評価すべきである。

募集広報の成功サイクル

 マーケティングとクリエイティブとデリバリー(欲しい情報を欲しい時に届ける仕組み)を有機的に組み合わせたコミュニケーションプラン(=募集戦略)が、学生募集広報成功のカギである。
 まず、受験生の属性、接触時期、接触媒体などの傾向をつかみ、そのデータベースを構築する。これは募集広報の戦略立案の基礎となる。その後は、受験生の心理や意思決定要因をリサーチし、オープンキャンパスなどのイベントやインターネット、携帯電話などの多様化した広報ツールを整理し、効果的手法を追求する。そして効果的なメディア配分とクリエイティブ(コンセプトや展開案など)を設計し、それらを大学資料やDM等の広報ツールに反映させ、郵送、宅配、eメールなどで迅速に確実に最新の情報を顧客に届ける。さらにその効果を検証し、次の広報活動に生かすサイクルが理想だ。具体的には、図表のように接触者の出願率を都道府県別や媒体別に集計し、課題を発見した上でアプローチを強化するという戦略に結びつけるということだ。

図表

図表 接触者の出願、合格、入学までの集計例
 これらを行う際の大学の課題は、マンパワーをどこまでかけられるのかである。予算や規模にもよるが、オープンキャンパスなどのイベントの増加、来校者への対応、高校訪問活動など、高校生や高校教員との直接接触の機会が増えたため、ルーティンワークだけでも多忙な入試広報スタッフが、データ収集と解析にどこまで腰を据えて取り組めるかということだ。一時的な接触者の傾向ならば簡単な集計で読み取れるが、必要なのは接触者がどのように出願、合格、入学へと変化したかであり、それが前年と比べてどうか、また他校と比べてどうかを見極めることである。そのためには入試データとのマッチングが必要であり、他校の情報や最新の高校データベースとの統合もすべきである。つまり精度の高いデータベースを構築するためには、細かな項目の設計や見せ方の工夫など、かなりの労力とノウハウが必要となる。


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