ベネッセ教育総合研究所
特集 大学広報の今、これから
八巻  和彦
早稲田大学広報室長
商学部教授
八巻 和彦
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INTERVIEW
「ありのままの姿」を広報することが大学のイメージを社会に伝える
18歳人口の減少や産学連携の進展などにより、高校生を主なターゲットとした募集広報だけでなく、社会や企業、そして社会人に対する広報の重要性が増している。一方で、募集広報に比べると照準を定めにくいという難しさがある。早稲田大学の八巻和彦広報室室長・商学部教授に、保護者、企業、社会人など、受験生以外を対象とした広報の在り方について聞いた。

 「募集広報では、受験生に対して『本学は素晴らしいのでぜひ入学してください』とアピールすることが主たる目的となります。しかし、一般的に『宣伝』は割り引いて受け止められるので、必ずしも期待した効果が得られるとは限りません。ことさら素晴らしさをアピールするのではなく、普段から自分の大学のありのままの姿を社会に広めることで、高校生をはじめ保護者、企業や社会人に『あそこはこういう大学なんだ』と、ポジティブなイメージを持ってもらうほうが効果が高い。それが一般向けの広報の役割であり、重要性が高まっている理由だと考えています」
 八巻和彦広報室室長は、大学による一般向け広報の意義をこう指摘する。同大学では、学部や大学院の募集広報は教務部の入学センターが分担し、一般向けの幅広い広報は、広報室広報課が担う。広報室のスタッフは八巻室長以下専任職員7人、派遣スタッフ3人。
 広報室が自ら企画・運営に当たるのは、募集とは直結しない一般向けの広報、つまり多様な層に「ありのままの姿」を伝える広報活動だ。
 早稲田大学では、かつて総務部の中にあった広報室を、1996年に広報室として独立させ、メディアなど外部からの問い合わせへの対応を行ったり、学内の情報を一元化して発信するための窓口とした。学外への広報の重要性の認識が高まる中、結果として紙媒体やWebなどを用いる積極的な一般向け広報の展開につながったという。
 「広報活動でまず大切な点は大学の独自性を伝えること。商品ならば、手にとって試すことで質が判断できますが、教育の成果はそうすぐにわかるものではありません。だからこそ、大学のトータルイメージと並行して、他の大学とどこが違うのか、独自性を伝える必要があります。校風や伝統、学生の活動など、各大学の特徴は様々でしょう。その中で、自分の大学の良い点は何か、今後それをどう強化するかをよく検討した上で、それをアピールする。そうすることで、各大学のよさが社会に認識されていくと思います」

大学の特性に合わせて複数のツールを用いる

 早稲田大学広報室では、新聞、雑誌、テレビなど各種メディアによる取材への対応や、独自の紙媒体やWebを使った発信など、様々な広報活動を行う。Webには、学部紹介をはじめガイダンスの日時、大学内で行われた講演やスポーツイベントの様子はもとより、教員についても詳細な活動情報が掲載されている。日々の学内風景やイベントなどを、広報室職員が写真とコメントで紹介するコーナーも設け、常に新しい情報のアップを心がけている。ユーザーの利便性にも配慮し、「大学で学びたい人」「在学生の父母」「卒業生」「一般人」など訪問者別メニューを設けて、膨大な情報の中から必要なコンテンツのみをピックアップできるようにしている。
 企業と提携し、「WASEDA.COM」も開設。時事問題に関連したコラムを週1回、教員1人が執筆している。年間で延べ50人の教員が登場する。ヒット数の多い朝日新聞社のホームページとリンクしているため、アナウンス効果は大きい。
 学生の協力を得て一般向けの「キャンパス・ツアー」も企画し、週2回実施している。ガイド役となるのは有償ボランティアの現役学生。施設環境ばかりでなく、現役の学生に接してもらうことで、大学の生の雰囲気を実感してもらえるのが特徴で、受験生をはじめ修学旅行生や在学生の保護者などから人気が高いという。この企画では、広報室はツアーのマネジメントやガイド学生の指導などを担う。広報の一環という位置づけであるため、定期的にガイド役の学生とともにミーティングを開き、ツアー参加者の満足度を高めるよう努めている。
 「一般向け広報においてどのような方法が有効かは、その大学の立地条件や特性などによって決まるのだと思います。本学では、都心にある強みを生かして雑誌や新聞などのメディア取材への対応と、利用者にピンポイントで詳細な情報を提供できるWebを重視しています。特にメディアの場合、記事や番組という形で第三者の手を通して情報が提供されるので、大々的に宣伝広告を載せるよりも訴求力が大きいのです。だからメディアには誠実に対応することが重要なのです。ただし今の時代、これ一つだけやっていれば確実、というものはありません」


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