ベネッセ教育総合研究所
特集 大学広報の今、これから
芝浦工業大学
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REPORT5
学問の面白さを伝授
低学年向け広報誌で身近な工学を示し、大学のステータス向上につなげる
芝浦工業大学では、高校低学年向けの季刊広報誌「IA(Industrial Artist)」を通して、工学に関心を持つ「きっかけの種」をまいている。スポーツや音楽など関心の高いテーマでタイムリーな特集を組み、そこに関連するモノ作りを掘り下げる。高校生の目線に合わせたアプローチとビジュアルの豊富さで、大人でも楽しめる雑誌になっている。

大学のPRは巻末2ページのみ


 「IA」はA4判、全18ページのオールカラー。光沢のある表紙に加え中身にも上質な紙を使っている。
 サッカーのワールドカップを目前に控えた2002年春号では「スポーツの祭典〜その舞台裏」と題する特集を組んだ。世界中に映像を配信するネットワークとメディア、梅雨の高温多湿の中での試合を制するためのユニフォーム、8300トンの天然芝を屋内外に移動させる札幌ドーム――。それぞれにどんな技術が駆使され、どう発展しつつあるのか、一線の技術者らがひもとく。大学の研究者ではなく企業人を多く登場させるのは、技術をより身近に感じてもらうためだという。
 14ページを特集に割き、入試やイベントなど大学の情報は巻末2ページのみ。工学部教授の住広尚三広報室長は、「大学を直接PRする雑誌にはしたくない」と話す。教員の専門分野とは関係なく企画を立て、テーマにマッチした人材であれば学内の教員も活用するというスタンスだ。
 理科があまり好きでない生徒にも「工学へのドア」を用意する。例えば、CGによる寺院の修復を紹介した特集は美術に興味のある生徒、世界遺産に関する特集は歴史やアウトドアに興味のある生徒を、それぞれ意識している。
 科学者としてのレオナルド・ダ・ヴィンチの生き方になぞらえて掲げる「IA」のコンセプトは「新・ダ・ヴィンチ主義」。「技術の知性と芸術の融合を目指して」というキャッチやダ・ヴィンチの伝記連載に託すコンセプトについて、広報室事務課の丸山由香課長はこう説明する。「鳥を見て『なぜ飛ぶのだろう』と分析するのが理科だとすれば、工学は『自分も飛びたい』と夢に取り組むこと。その姿勢を貫いたダ・ヴィンチのような人は現代にも大勢いて、様々な夢に挑戦している。それを高校生に知らせ、工学が決して無味乾燥なものではなく、夢を結実させた形で身の回りにあふれていることを伝えたい」。

資料請求者に送付、出願に導く

 「IA」の発行部数は1万3000。過去3年間に入学志願者がいた高校約2000校の進路指導主任と理科担当主任に1部ずつ送る。さらに、資料請求をした1、2年生には個人宛てに入試課から毎号送付。「1、2年次での資料請求が出願に結びつく割合は比較的高いようですから、この広報誌が工学への導入の役割を果たしている面もあるでしょう」と住広室長。高校の教員からは「総合学習の教材に使いたいのでまとめて送ってほしい」との要望も増えた。
 高校から評価される現在のような誌面になったのは、住広室長の着任を機にリニューアルした98年春号からだという。92年の創刊から6年間は、学内の教員が技術を解説する堅い内容だった。リニューアルにあたって同室長は「とにかく手に取ってもらえるものにしたい」と考えた。「高校訪問で、ほこりをかぶった山積みの大学案内を見た時のショックが忘れられなくて」。
 読んでもらうために特集テーマに知恵を絞り、その切り口についても「発想の面白さ」「失敗から生まれた画期的な技術」「個性的な技術者」など、様々な角度から考える。大学の宣伝色をなくしビジュアルに力を入れることも、手に取ってもらうための発想といえる。
 学内には「もっと大学の宣伝をすべきだ」「この種の媒体を大学が出す意味があるのか」という声もあるという。それに対する広報室の考え方を、丸山課長はこう説明する。「従来の大学広報は大学の中身を見せることが中心でしたが、学問の面白さを伝えるという使命もあると思う。『IA』を読んで最後のページで『芝浦工大ってこういう雑誌も作っているんだ』と思ってもらえれば、それが大学のステータスになる」。住広室長と丸山課長はこれを「ボディブローのような効果」と表現し、「今後もそのための努力を続けたい」と話した。


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