ベネッセ教育総合研究所
特集 専門職大学院の本格展開
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[専門分野とニーズ]
経済活動や行政の役割が変化し新たな人材が必要に
会計分野
監査の厳格化に高度な能力で対応


 今後確実に増えると予想されるのが会計専門職大学院(アカウンティングスクール)である。現在は中央大学大学院の国際会計研究科だけだが、05年度には早稲田大学、明治大学などでも設置を予定している。
 国際会計基準の導入や監査強化の流れを受け、会計業務は複雑化、厳格化している。日本の1万4000人に対しアメリカは33万人という公認会計士の数も、よく引き合いに出される。金融庁は18年を目途にこの数を5万人に増やす計画で、関連法を改正。国家試験を簡略化し、関連の専門職大学院を修了すれば一部科目が免除されることになった。
 一方で、現職の会計士からは「現状でも合格者の就職が厳しい中、数を増やすのは疑問」との声も。実際、03年度は受験者、合格者が増える一方で監査法人が採用を控える傾向にあった。顧客企業のコスト削減で監査報酬が抑制されていることなどが要因だ。しかし「会計士の仕事は、監査法人に属し監査に携わるという従来の枠から大きく広がる」と見る専門家は多い。
 早稲田大学の会計専門職大学院開設準備委員長の加古宜士(よしひと)商学部教授は、「財務諸表に対する投資家の目が厳しくなる中、企業の間では、幹部候補生として内部に会計の専門家を抱える動きが出ている。国や自治体による公会計の本格化も会計士の職域を広げる」と話す。中央大学アカウンティングスクールの高田橋(こうだばし)範充教授は、企業に投資家への対応策などを助言できるコンサル能力の高い会計士のニーズを指摘する。会計士の中立性を保つため監査とコンサルを分離するというアメリカでの動きが、日本に波及していることにも言及。同大学院では、現職会計士の専門性の向上に特に力を入れているという。

知的財産分野
企業知財部門でも人材のニーズ


 知的財産に関する本格的な教育は、学部レベルで動き始めたばかりだ。03年度に大阪工業大学が知的財産学部を設置、他大学にも広がろうとしている。金沢工業大学は、04年度、東京・虎ノ門キャンパスの社会人大学院に知的創造システム専攻を設ける。大阪工業大学など、専門職大学院の設置を目指すところも。
 日本の企業の間では近年になって、特許をはじめとする知的財産に対する意識が高まりつつある。元特許庁長官の及川耕造氏は、「この10年間で特許絡みの裁判は倍増し、外国企業との係争も増えている」と指摘。こうした背景のもとで急速にニーズが高まっている専門家としては、知財専門の法曹、企業における知財部門スタッフ、特許申請などの手続きを扱う弁理士などが挙げられる。
 同氏によると、アメリカでは、特許を専門に扱う弁護士「パテントアトーニー」が1万6000人いる。一方、日本の知財専門の弁護士は300人弱とされ、国際間で激化する企業紛争で苦戦を強いられている。02年の法改正によって弁理士にも特許関連訴訟の代理人になる資格が与えられたが、弁護士との共同という条件付きである上、弁理士自体が国家試験合格率6・9%(02年度)の難関で、有資格者は5000人程度とされる。こうした中、法科大学院の一部が「知財に特化した法曹の養成」を掲げている。
 一方で、知財の専門家の間では「知財訴訟では法律論に比べ技術論の割合が圧倒的に高いため、法学部を母体にしたロースクールでの教育には限界がある」との指摘も。そこで、技術系の大学による法科大学院設立への期待が高まっている。検討に乗り出した大学にとって最大の懸念材料は、司法試験の行方だ。特許法など技術関連の法律の教育に力を入れれば、相対的に基本六法の比重は軽くならざるをえない。そこに六法中心の司法試験が維持されると、合格率が下がり“出口”をふさがれてしまう。このため、法科大学院の設置に関心を持ちながらも、司法試験がどうなるか模様眺めという大学もあるようだ。
 法曹以外の職業について、大阪工業大学知的財産学部の石井正学部長は次のように説明する。現在、国内の企業の知財部門スタッフは約3万人。経営判断に関わる役割が増大し、専門性の向上が求められている。一方、弁理士事務所には、特許申請の事務手続きに精通したパラリーガルと呼ばれるスタッフが2万5000人ほどいて、相当数の人がステップアップとして弁理士を目指す。これらの受け皿となるような、最先端の技術動向や特許実務を教育する専門職大学院も求められているという。


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