ベネッセ教育総合研究所
特集 専門職大学院の本格展開
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[既設校に聞く]
中央大学大学院 国際会計研究科
〜会計と財務の融合的教育で、専門性の高い会計士と企業の人材を養成〜
学生は資格以外の目的で入学

 中央大学大学院国際会計研究科は、日本初のアカウンティングスクール(会計大学院)として2002年度に開設された。ビジネススクールの一角を占めつつ、「会計と財務(ファイナンス)の融合」という独自色を打ち出し、市場と社会の変化を先取りして経営戦略を立案できる企業人や、専門性の高い会計士の養成を目指す。昼夜開講制だが、学生の98%が社会人で、受講は夜間に集中している。
 開設時の中心メンバー・高田橋範充教授が昼間に担当する「会計学原論I」の授業を聴講した。元銀行員など財務が専門の学生が会計の基礎を学ぶ導入科目で、秋季入学の6人が受講。ほぼ全員が退職して通っている。
 この日は、「財務諸表から見える経営戦略」というテーマで、全員がパワーポイントを使ってプレゼンテーションした。各自1社を選び、企業概要と財務諸表の概略を説明した上で、どんな経営課題を抱えいかなる戦略で対応したか、その結果収支構造がどう変化したかを分析する。有価証券報告書等をネット上で開示する「EDINET」が基礎資料で、発表中も各自頻繁にパソコンで参照する。教授や他の学生は、「競合他社より原価率が8%も高いのはなぜ?」など、質問やコメントをぶつける。
 会計大学院は05年度以降開設が相次ぐ見通しで、背景には公認会計士の大幅増を目指す国の制度改革がある。一定要件を満たした会計大学院を修了すれば国家試験で一部科目が免除されるため、資格取得を前面に打ち出す大学院も出てきそうだ。その中で中央大学のアカウンティングスクールは、「資格とは一定の距離を置き、実質的なプロフェッショナルを養成」(冨塚嘉一研究科長)というスタンスだ。すでに会計士資格を持つ人など、一定の知識とスキルのある人を対象にしたレベルアップの教育を柱に据える。
 監査業務の激変や会計士の大幅増で予想される競争激化に向け、「今後、会計士はなった後の方が大変」との声も聞かれる。実際、ここの学生の14%を占める有資格者も、変化の波に対応できる新たなスキルの修得を目指しているという。専門家が求められている環境会計や公会計を柱の一部に据えたカリキュラムで、そのニーズに応える。
 一方、金融、製造、サービス等の企業の在職者や退職した学生の多くも経理と財務のいずれかに通じた人材。もう一方を学んで融合的な知識を業務に生かしたいという動機が目立ち、会計士資格の取得が主たる目的ではないという。
 なお、専門職大学院を修了すると税理士試験の一部科目が免除されるが、同大学院のホームページのFAQには、「現代社会に必要とされる会計・ファイナンスの理論と実務を駆使できる人材養成を目的としていますので、『税理士試験免除』だけを目的とした入学は原則としておすすめしません」とある。

学生派遣に代わる研修受託も検討

 「会計業務は過渡期にある分野だけに、実践で生かせる教育内容の見極めは簡単ではない。すぐ役立ち長く生かせる知識や能力とは何で、それをどう教えるか、見識と手腕が問われる」(高田橋教授)
 企業派遣の学生は2学年合わせて約20人。「会計と財務の融合」という心臓部をはじめ、現場のニーズを聞く中で練られた特色も多く、教員は企業とのコミュニケーションに努める。「カリキュラムは魅力的だが、社員を2年も休職させるのは厳しい」との声を受けて検討しているのが、企業研修を請け負う形で開設する「アカウンティング&ファイナンスアカデミー」。既存のプログラムに対象企業の業種的特性やニーズを反映させて提供する計画だ。
 アカデミーが軌道に乗れば、学生納付金とは別の財源が確保できる。これを基金とする奨学金制度の構想もある。現在、学生への無利子貸与制度があるが、奨学金によって学生支援をさらに強化したい考えだ。
 研究論文を課さない点が専門職大学院の特色の一つだが、同アカウンティングスクールでは「研究論文」が必修。職業能力を高める上で論文は必要なし、という立場はとらない。「ある段階で自分の思考をきちんとまとめるという作業は大事で、プロとして仕事をする上でも間違いなく有益」と、高田橋教授は説明する。



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