ベネッセ教育総合研究所
特集 専門職大学院の本格展開
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[既設校に聞く]
早稲田大学ビジネススクール(大学院アジア太平洋研究科国際経営学専攻)
MOTプログラム
〜技術系MBAに位置づけた総合型教育で、理工系の専門型MOTと差別化〜
実務家教員は6割

 前身のシステム科学研究所などを含めると、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科は社会人向けのビジネス教育で40年の実績を持つ。03年度に専門職大学院となったのを契機に、国際経営学専攻では、従来のMBAに加え、MOTプログラムを新設した。「技術を戦略的にマネジメントする能力」の養成を掲げ、起業家や企業でCEO(最高経営責任者)、COO(最高執行責任者)、CTO(最高技術責任者)といったポストに就く人材の輩出を目指す。仕事を持ちながらの通学を想定し、金・土曜の全日開講制としている。
 国際経営学専攻はMBAとMOTに分かれ、定員は合わせて165人。そのうち、初のMOTの学生数は60人(1年制20人を含む)だ。9割強が仕事を持ち、情報・通信、エネルギー産業、機器メーカーなどの技術者が8、9割、残りはメーカーの企画開発担当や金融関係者が占める。2年制での平均年齢は37歳で、管理職も少なくない。ただし、企業派遣は10人のみ。8、9割の学生が、日本育英会などの奨学金制度を利用して自費で学ぶ。同研究科では、80企業・機関と連携したサポーティング・パートナーシステムを運営しており、寄付を原資に成績優秀者への給付奨学金制度も設けている。
 専門職大学院に限らず、MOTコースを設ける大学が増えているが、理系学部を土台としているところが多い。一方、同研究科は、経営、国際関係を専門とするアジア太平洋研究センターが母体だ。そんな「文系MOT」の特色を、同研究科委員長でMOT担当の松田修一教授はこう説明する。「我々は技術系MBAをMOTと考えている。技術探索、製品開発、事業化といった流れのなかで、技術そのものではなく、技術をどう経営に生かすかというマネジメントの視点を重視している。技術を主体とした理工学系のMOTが専門型だとしたら、我々は総合型で、技術者に経営を教えるイメージ」。
 事実、教員のほとんどが文系の専門家で、6割を占める実務家教員にもコンサルティングや金融会社、シンクタンクなどの出身者が多い。「理系出身者にとって、こうした異質な環境に飛び込むことのメリットもあるのではないか」と、松田教授は言う。

産官界から研究を受託

 MOTプログラムの柱となっているのは、テクノロジー・マネジメント、オペレーションズ・マネジメント、インフォメーション・テクノロジーの3領域。例えば生産システムをテーマにしていても、工学知識ではなく、システム設計などマネジメントに比重を置く。修了単位数は、欧米の専門職大学院を意識し、1、2年制ともに50単位に設定。将来的には欧米同様の60単位も視野に入れているという。加えて、同研究科の他専攻の科目を無制限に、他研究科ならば10単位まで無償で取れる。
 1年次から始まるゼミ(プロジェクト研究)は、教員1人に対し学生5人と手厚い体制。ここで、教員が産官界から受けている委託・共同研究に参画したり、学生自身が抱えるテーマを、実績のある教員とともに研究する。その成果は修士論文にまとめられる。年間数億の売り上げがある同センターを母体とする強みが、実践教育において発揮されているわけだ。1年制の場合、2年制と単位数は同じだが、ゼミの期間が半年ほど短い。その分、他の科目を修得しなければならない仕組みだ。
 ただし、こうした授業では学生の側にも高い質が求められる。MOTのAO入試では、事前に研究計画書や担当する仕事の概要など詳細な書類を提出させ、キャリアを重視した選考を行っている。カリキュラムでも、まず導入としてMBAと共通で「経営と技術」「会計と管理」といった基礎科目を配置し、専門科目やゼミへの橋渡しをしている。特に、入学後1週目から行われるマネジメントゲームは、学生が少人数のチームで課題に取り組む形式で、相互のレベルアップ効果が高いと松田教授は話す。「ゼミもそうだが、ディスカッション形式の授業を通じて力の濃淡はなくなっていく」。
 先端技術開発などが重点政策となっている今、技術の知識を持ちマネジメントもできる人材のニーズは高い。一方、技術者のビジネススクール市場は開拓が始まったばかり。同研究科の次年度のMOT出願率は、本年度と同様、定員の2倍強に達する見込みだ。



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