ベネッセ教育総合研究所
特集 専門職大学院の本格展開
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[設置構想を聞く]
“知財専門職大学院”を検討する 大阪工業大学
〜 “教育システム不在”に切り込み、弁理士養成と知財専門MBAを目指す〜
企業留学を不要にする受け皿を

 2003年度に日本初の知的財産学部を設置した大阪工業大学では、05年度に同分野の専門職大学院の設置を目指している。その機動力を支えているのは、官庁や企業とのネットワークに加え、専門家需要の急拡大と教育システム不在という実情にいち早く切り込もうという攻めの姿勢といえる。特許庁特許技監から就任した石井正学部長が、専門職大学院の開設準備でも中核を担う。
 開設1年目の知的財産学部では、企業の知財担当者や、調査・出願手続き準備で弁理士をサポートする特許事務所職員の養成を掲げている。
 一方、大学院構想で描くゴールの一つは、これらの職員がステップアップとして目指す弁理士。石井学部長によると、同大学の工学部の夜間コースには、京都大学などの法学部を卒業して弁理士試験に合格し、技術的な知識を補うために学ぶ社会人が何人かいる。「文系と理系の融合分野である知財について教育するシステムがないため、学士入学を選択している。専門職大学院はこうした人たちの受け皿にもなれる」。
 専門職大学院のもう一つのゴールは、「知財に特化したMBA」だという。「ロースクールとビジネススクールの内容を取り込む教育で、日本に新しいステータスを確立したい」と同学部長。「特許で稼ぐ企業にとっては今後、権利を侵害された場合や逆に侵害を指摘された場合、法廷戦略以前に、訴訟に持ち込むべきか否か、和解条件をどうするかという経営的判断が重要になる。そこで、産業種別や社会情勢に応じて的確に判断できる社内の専門家が求められています」。
 同学部長によると、企業の知財部門で働く人は約3万人いる。大手の家電や電子機器のメーカーでは300〜400人規模のスタッフを抱える。専門的な教育を提供するシステムがないため、弁理士試験の予備校や関連企業で構成する知的財産協会のセミナーを活用しているのが現状だ。特許庁が内部の研修に企業からの参加を受け入れることも。さらに、ワシントンやニューヨークのローファームでの研修に派遣する企業も増えており、研修を兼ねた駐在者は日本全体で100人規模に上るとの推計がある。「企業へのヒアリングでは、『1年間なら休職扱いで勉強させられる。国内に受け皿ができるならぜひ活用したい』と言われます」。
 専門職大学院の定員は40〜50人とし、弁理士を目指す「知的財産法コース」と企業経営部門を目指す「知的財産管理コース」が半々の予定。社会人向けには夏期集中講座を強化するコースも検討中で、新卒者は2年コースで受け入れる。同大学から進学する場合、知的財産と工、情報科学の両学部では、互いに技術の知識と法的知識に開きがある。そこで、学習履歴や成績に合わせた導入教育で底上げを図るほか、進学を目指す学生に学部段階から他学部での聴講を認めることなどを検討中だ。

実務家に大学と現場の往復を推奨

 知的財産学部には、特許庁ナンバー2だった石井学部長をはじめ、大手メーカーの元知財本部長やライセンス契約に関わるセンターの所長経験者、アメリカのジョンホプキンス大学で国際私法分野の修士を取得した元通産官僚などの教員がそろっている。大学院にも、これらに匹敵する実務家を集める方向だ。教員の数は、産官学の各分野からほぼ同じにしたい考えで、設置基準でおおむね3割とされている実務家が6〜7割を占めることになりそう。
 特許庁で、国内トップメーカーを含む多くの企業と接してきた石井学部長は、学部開設準備期からこれまで、大学という組織が抱える課題を痛感してきたという。その問題意識を生かし、大学改革に貢献できる専門職大学院に育てたいと考えている。
 具体案の一つを「往復切符での実務家の採用」という言葉で表す。「任期制」という意味に止まらず、在任中も現場と大学を往復してもらう考えだ。「教育に支障を来さない形で弁護士や弁理士としての活動も積極的に続け、ホットな話題を学生に提供してほしい」。
 専門知識については国際的通用性を保証することが重要と考え、知財に関する教育・研究で知られるワシントン州立大学のロースクールと提携、単位互換を行う方向で調整している。


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