ベネッセ教育総合研究所
特集 国際化教育の現在
熊本学園大学国際交流センター
切通しのぶ
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Contribution 1
中国の大学との協定締結について
 熊本学園大学は1985年に中国・広東省にある深大学と姉妹校協定を締結し、教員・学生の相互交流を図ってきた。97年には、国際交流の理念を「友好・親善」から「教育・研究」に発展させ、国際交流プログラムの改革を進めることを目的に「派遣先大学調査委員会」を発足。アメリカ、ドイツ、イギリス、韓国などの大学との締結を行う中、98年に中国の3大学(中国人民大学、北京外国語大学、北京語言大学)と協定を締結した。
 ここでは、中国との大学間交流の近年の変化と協定締結について現状と展望を考える。

協定締結の原則と交換協定の変化

 中国との協定締結の基本原則は日中経済三原則(1982年)および日中友好四原則(1983年)の「平和友好、平等互恵、長期安定、相互信頼」に依拠している。なかでも経済原則を謳った「平等互恵」は、双方が平等に利益・恩恵を享受し、また双方は対等でありながら国情に合わせた経済条件を設定することを意味している。
 中国の大学は幹部から若手研究者へと留学機会の裾野を広げる手段として、年間を通じて中国側から教員や大学院レベルの研究者2人を半年間派遣するのに対し、日本からの学部生を1人、1年間受け入れるといった交換を望む場合が多い。
 日中間の経済格差を見ても、中国の大学より日本の大学の負担が大きくなることは明らかだ。
 これまでの協定締結は、大学間の個々の人的交流を端緒とするか、自治体の肝煎りで発展するのが一般的だった。締結の形態は大きく分けて部局間協定と大学間協定の二つで、部局間協定ではその高等教育機関の専門性に特化された学術的・人的交流が中心となり、大学間協定では、全学を対象とした幅広い交流が展開されている。
 近年まで協定内容は短・長期の学術交流および教員の交換が中心となっており、学部生や大学院生を対象とした学生交流は協定の範疇にはなかった。
 90年代初頭から始まった中国の大学改革により、それまで各省庁に所管が分散していた高等教育機関は、教育部(日本の文部科学省にあたる)直属、省市級(地方自治体)帰属、教育委員会帰属と再編・統合された。さらに98年には、教育体制の強化を目的とした総合大学化がピークを迎えている。
 改革が進む一方で、日本との学部生の相互派遣の例はあまり増えていない。しかし、大学の裁量権が拡大された省市級に帰属する大学の中には、日本側が相互交換を望めば認めるところが増えることも予測される。
 また、公費留学の機会が少ない学部生の交換は、中国での厳しい選抜を経て学習意欲の高い学生が日本に派遣されている。こうした留学生の存在は、日本の学生にとっても良い刺激となり、教育効果を上げることにもつながるだろう。
 これまで短期間の教育研修を目的とする中国の大学教職員や学生の団体訪問は公費で実施されていた。しかし、中国の出国政策の緩和を受け、最近は参加者の自費で賄われることが多くなってきた。昨年発表された日本政府の査証審査の厳格化により、中国からの私費留学生の受け入れは少なからぬ影響を受けているようであるが、査証審査手続きが異なるため、こうした研修団は今後、増加する可能性もある。但し、団体旅行者として来日するため、受け入れ側は、日本の在留期間の厳守および本来の入国目的以外の活動を行わないことなどの要件を明確に伝え、自国での海外旅行傷害保険への加入を義務付けるなどの配慮が必要である。

大学組織と留学事情

 中国の大学は、共産党組織である共産党委員会と大学運営の行政組織である校務委員会などで構成される。共産党委員会は党書記、校務委員会は学長がそれぞれ最高位にあるが、学長は共産党委員会の構成委員の一人であり、書記の下位に位置付けられる。大学間交流協定書は学長名をもって署名されるが、協定締結の際は、こうした二重構造についても念頭におかなければならない。
 これまで協定締結の窓口は渉外部門にあたる「外事処」や「外事辧公室」があたり、締結後もこれらの部署が継続して実務を担当することが多かった。近年、大学によっては、組織改編で新設された「国際交流処」がその任を負い、学生交換などの実務は「留学生辧公室」や受け入れを行う系・学院(学部)の事務室が担当するなど、業務の分業化が進んでいる。
 また、中国政府は教員や学生の派遣に際し、帰国および所属大学への奉職の誓約と出国機会授与に対する支払いを義務付けている。日本の大学が中国の交換教員や留学生に対し、生活費や奨学金を給付している場合、実質的にはその何割かが中国の所属大学を通じて中国政府へ上納されていることになる。
 それまで無料だった高等教育機関の学費が97年から徴収されるようになり、03年には高等教育機関卒業生の私費留学に対し支払いを義務付けていた「培養費」が廃止された。こうした制度は今後、変更される可能性はある。これらは協定締結上、干渉する範疇にはないが、こうした国情を認識しておく必要はあるだろう。

新たな交流促進に向けて

 中国人の「留学熱」の高まりとともに私費留学を希望する者は激増した。03年には、合法的な留学仲介業者の斡旋を目的に教育部、公安局、工商局から認可を受けた「自費出国留学仲介機構(270機関)」のリストが教育部から公表された。「仲介機構」は、海外の大学などの協定機関に私費留学生を斡旋し、出国および留学に関する一切の手続きを代行する機関で、高等教育附属機関、政府附属機関、民間機関の3種類がある。
 従来、学生交流は、大学間協定で定められた学費相互免除を前提に、公費留学生としての相互派遣を行ってきた。今後は公費留学生のみならず、「自費出国留学仲介機構」との契約により新たな枠組みの交流協定を結び、私費留学生を獲得できるようになる。しかし契約相手として玉石混淆の「自費出国留学仲介機構」をどう選択するかに大きな課題が残されている。
 近年、中国のウェブサイトに紹介される大学の情報は多彩を極めている。日中双方で推進される高等教育改革により、協定締結までの道のりは以前より明確で容易なものになってきた。中国の大学との連携は今や他国の大学のものと大きな変わりはない。今後も、中国の教育市場は留学生の派遣・受け入れともに日本の大学に多くの可能性を与えてくれるだろう。


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