ベネッセ教育総合研究所
特集 国際化教育の現在
吉田 研作
上智大学一般外国語教育センター長・教授
吉田 研作

上智大学国際言語情報研究所所長も併任。NHKテレビ「英会話I」講師をはじめ「英語が使える『日本人』を育成するための戦略構想」など文部科学省関連の事業の委員なども歴任する。
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高校の英語教育と大学の入試、教育のあり方
 大学で国際化・語学教育が進展するなか、高校の英語教育や入試英語も変わりつつある。大学の語学教育などの土台となる高校の現状について、文部科学省の委託研究事業などを手がけてきた上智大学一般外国語教育センター長の吉田研作教授に話を聞いた。
知識偏重から運用重視へ変わる高校の英語教育

 高校の英語教育には、新しい動きが出てきている。単語・構文の暗記、長文読解といった大学入試対策の観があった以前に比べて、ALT(外国人語学指導助手)を活用したり、グループワークなどを通してのコミュニケーション活動に、多くの時間が費やされるようになった。2002年度からは、文部科学省が英語教育に力を入れる学校を支援するSELHi(スーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクール)制度もスタート。指定校は当初の14校から、04年度には85校に増加する予定だ。その取り組みは様々だが、英語で英語の授業を行う先進的な試みをはじめ、インターネットを使って海外のサイトで調べ学習をしたり、eメールで外国の生徒と交流する事例もある。
 また、授業という場面にとらわれない、幅広い意味での英語を通したコミュニケーションの場の設定も増えている。昼休みに英語のニュースを流す取り組みはその一例。このほか、夏休みなどを使って英語だけで生活する「イングリッシュ・キャンプ」や、留学生を交えての国際交流を行う高校も見られる。吉田研作教授は、こうした高校の英語教育の変化を次のように説明する。
 「よりコミュニカティブで実践的な英語力をつけようという方向に変わってきているのは間違いないと思います。これまでは、文法や構文、語いなどの『知識』を教えることが中心でしたが、現在では、身につけた知識を使って話したり聞いたり、読み書きの場面で実際にどう活用するかという『パフォーマンス(運用)』を重視する傾向が強くなっています」
 現在、高校の英語科目は、「オーラル・コミュニケーションI」「オーラル・コミュニケーションII」「英語I」「英語II」「リーディング」「ライティング」の6科目。03年度の入学生から学年進行で新学習指導要領が適用されていくため、今は過渡期にある。

新指導要領に沿った授業と生徒の英語力との関係

 新指導要領の特徴としてまず、ゆとりを重視して教える内容を精選し、全体的に学習時間を減らしたことがある。これは、学力低下につながるとして批判も少なくない。こうした新指導要領が、今後どのような影響を与えるかも気になるところだ。吉田教授は、英語は『知識科目』ではなく、練習する時間が多ければ多いほど上達する『技術科目』なので、絶対的な学習時間が減少するのは大きな問題としながらも、こう述べる。「限られた時間の中で、生徒にもっと英語をやってみたいと思わせることができれば、授業時間以外で英語に接する機会を増やすことができるのではないでしょうか。携帯メールに宿題を送る、教員が自分や高校のホームページを使って英語のクイズを出題するなど、ITの活用も含めた工夫によって、限られた時間で生徒にやる気を起こさせることも十分に可能だと思います」。
 一方、新指導要領では高校で身につけるべき英語能力として、積極的なコミュニケーションを図る姿勢や、相手の意向を理解したり自分の考えを表現するといった実践的コミュニケーション能力の養成を掲げている。この方向性は、運用重視の傾向にある現在の英語教育と一致していると思われるが、実際の教育にはどう反映されているのだろうか。


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