ベネッセ教育総合研究所
特集 国際化教育の現在
関西外国語大学
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Report 3
努力すれば誰でも長期留学が可能、外国人教員の活用と処遇で教育を活性化
 関西外国語大学は、短大部を含め毎年約1400人が留学するなど、国際交流の活発さで突出している。英語教育専門の外国人教員による授業や資金援助に加え、専門職としての国際交流部の体制もこれを支えている。
学位留学と交換留学では寮費・食費まで大学が負担

 2004年3月現在、関西外国語大学の交流協定校は47カ国・地域270大学に上る。以前は短期留学での派遣が多かったが、1年以上の長期留学へのシフトが進み、03年度は長期の方が上回った(図表1)。
図表
図表1  留学プログラム別派遣人数
 国際交流を掲げながら、実際に留学できる人数はわずかという大学は結構多い。その点、同大学では、外国語学部と国際言語学部を合わせた学生数が1学年約2000人という中、年に1200人が留学するというスケールで、他大学を圧倒する。留学システムは長期留学と、1〜6カ月間の短期留学に大別される。長期留学の中でも、アメリカの大学で2年間学ぶ「学位留学」、1年間の「交換留学」「推薦留学」「英語留学」など多彩な制度を設定。これらの選抜でもれた学生にも、自分で留学先を探し単位として認定してもらう「認定留学」という選択肢がある。国際交流部の山本甫部長は「真面目に努力すれば、誰でも何らかの形で長期留学できるシステムが、年間数百人の派遣につながっている」と説明する。
 多彩な留学システムとこれまでの実績を大学案内などで明示し、「留学したいなら関西外大へ」というイメージを定着させている。短期留学は語学が中心だが、長期ではビジネスや社会学、観光学などを専門的に学ぶ学生も。「将来スポーツトレーナーになるため、語学を習得してアメリカに留学したい」という学生もいるという。
 「留学生を多く派遣しているということは、真剣に留学を志す学生が数多く受験し、入学しているということ。長期留学ができる質の高い学生を集め、さらなる派遣実績をつくり、それがまた受験生に評価されるという循環ができていると思います」と山本部長。
 大勢の留学生を送り出すため、教育と資金の両面から強力なサポートをする。経済的負担の大きい長期留学では、全員に対し何らかの経済支援を講じている。学位留学と交換留学では、留学先の授業料に加え、寮費や食費も大学が負担する。推薦留学と英語留学については授業料を負担。認定留学でも、一定の条件を満たせば同大学の授業料の半期分を免除する。「奨学金で留学先での授業料の面倒を見る大学は多いと思いますが、生活費まで含むサポートを数百人規模でやっている大学はほとんどないのでは」。
 教育面では、留学を視野に入れた語学プログラムが充実。留学を希望する1、2年次を対象に、外国人教員による「留学準備コース」を設けているほか、長期留学が決まった学生には、4カ月間の「留学予備訓練プログラム」の受講を課す。外国人教員による英語の授業が3科目、週に6コマ開講され、「留学に向けた訓練であると同時に、留学できる語学力が確実についたか最終確認する期間」(山本部長)としても位置づけている。この4カ月間も含め、長期留学生の選考には1年間かける。

選抜型でレベルアップを図る英語の集中コースも

 英語教育のプログラムの中には、選抜型や特定の技能に絞ったコースもある。その一つが外国語学部英米語学科の「IES(Intensive English Studies)プログラム」。対象は、TOEFLのスコアが470点以上の英語能力が高い1年生で、2年間、90分授業を週に8コマ開講。外国人教員の指導で読む・書く・聴く・話すの4技能を徹底的に訓練し、英語でプレゼンテーションやディスカッション、ディベートができるレベルを目指す。留学を前提にしたプログラムではないが、英語力がかなり向上するため、修了後に留学する学生が多い。
 「ESL(English as a Second Language)特別コース」は、学年を問わず、特に読む、聴く、話す力の習得に重点を置く1年間のプログラム。外国人教員による90分授業が週2コマ開講される。
 外国人教員は従来、これら特別プログラムに重点的に投入してきた。しかし03年度にカリキュラムを見直し、必修の英語教育でも外国人教員による授業の割合を増やした。1年次の英語は必修科目の90分授業が週に5コマあるが、うち4コマは外国人教員が担当。2年次では必修科目4コマのうち3コマとなっている。これらを含め、専門必修科目44単位のうち36単位を外国人教員が担当する。
 山本部長はこの改革について、「ネイティブスピーカーの集中的な指導を受けることで、『英語で何かができる』という手段としての英語力を身につけてほしい」と説明する。「教員になる場合などは別として、英語の習得はそれ自体が目的ではなく、何かの手段として使えるようにならないと意味がありませんから」。

外国人教員は学内に居住し、常に学生と接する環境に

 同大学の外国人教員は年々増えており、4月現在約210人。そのうち海外から招く招聘教員は53人。特に、「TESOL(Teaching English to Speakers of Other Languages=英語を母語としない外国人等に対する英語教育)」などの学位を有するネイティブスピーカーを招聘教員として積極的に採用している。修士以上を条件に、原則として公募で選ぶ。英語が多様性に富む言語であることを踏まえ、アメリカ人に偏らないよう、イギリス人、オーストラリア人なども採用しているという。
 招聘教員の多くは常勤で、キャンパス内にある専用住宅への入居を義務づけている。週何コマかの授業のとき以外はほとんどいないということでは、学生への愛着、教育への責任感が希薄になりがちだからだ。「いつでも気軽にコミュニケーションや質問ができる環境と雰囲気が、学生の意欲も高めています」と山本部長。
 一般的に外国人教員は、雇用形態が他の教員と異なり日本語を理解できない人が多いこともあって、教授会や各種委員会など大学の運営に関与することは少ない。同大学では、外国人教員の1人をディレクターに任命し、外国人教員の間で教学内容や教員の配置・連携について討議し、教授会に意見を上げてもらう方式をとっている。教授会に直に組み込むのではなく、TESOLなど独自の専門性をベースに、教育の改善に貢献しているという。今後は、日本人教員との間で体系的なFDの構築に力を入れる方向だ。

国際交流部を専門職に位置付け、独自採用で人材を確保

 一方で、年間600人規模の外国人留学生を受け入れている(図表2)。
図表
図表2  留学生数の推移
 日本に来る留学生の80%以上はアジアの学生だが、同大学では大半がアメリカを中心とする欧米の学生で、留学生別科で学ぶ。留学生別科というと、大学進学に備える日本語教育課程というイメージがあるが、同大学ではアメリカの大学の3年次レベルの専門教育を提供。山本部長は「これだけレベルの高い教育をする大学の学生なら、ということで、相手校にも本学から留学生を受け入れてもらえる。外国人留学生への教育の質が、結局は本学からの派遣先の拡大につながっています」と説明する。
 経済的支援も同様だ。交換留学で来る学生の授業料や寮費、食費は、同大学が負担する。派遣する学生も同様に処遇されるため、先に述べた「大学による資金面の支援」が成り立っているわけだ。
 このような留学生の受け入れ、派遣に関わる業務は、山本部長以下13人で構成する国際交流部が担当。他部署と違って原則として異動はなく、職員は事実上、独自に採用する。アメリカの大学の修士号を持つ職員もおり、後に教員に転向するケースもあるという。
 山本部長は「留学生を扱う業務には、語学力のみならず、業務時間外のトラブルにも対処できる使命感が必要です。そのため、専門職集団としてある程度の独立性が求められる」という。この専門性と独立性が、年間2000人以上もの留学生の受け入れと派遣を維持するノウハウを育ててきた。
 山本部長は、「当面の目標は提携先500校、長期留学生1000人程度まで増やすこと。本学での2年間で手段としての英語を身につけ世界中の大学で専門課程を学ぶようなリベラルアーツ型の大学を目指したい。留学はその柱になるものです」としめくくった。


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