ベネッセ教育総合研究所
特集 国際化教育の現在
甲南大学
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Report 4
国内外で企業を訪問・調査し、国際的なビジネスパーソンの養成を目指す
 甲南大学の「EBA総合コース」では、1年間の留学を含めた4年間の“最短コース”で、国際的に通用するビジネスの素養を身につけるという。
“英語を話す”のではなく、“英語でビジネス”が目的

 甲南大学では、国際的なビジネスパーソンの養成を目標に、2002年度にEBA(Economics and Business Administration)総合コースを開設した。入学定員は35人で、このうち20人が経済学部、15人が経営学部の所属となるが、一般の学部生とは入試も別枠で、実質的には学部から独立したコースで学ぶ形となる。
 EBA高等教育研究所長の西川耕平教授はコース設立の経緯についてこう語る。「開学50周年を迎えた01年を機に、経済学部や経営学部における教育にも新しい改革が必要という声が高まりました。そこで学部を超えた形で、留学を含めた教育システムが構築できないかという構想が持ち上がったのです。そして、研修視察などで密接な関係ができたニューヨーク州立大学バッファロー校(UB)との提携により、在学中に1年間の正規留学を組み入れたコースを立ち上げました」。
 EBA総合コースの学生は、すべてのカリキュラムが一般の学部生とは別。講義室・演習室・自習室・ラウンジ・事務室などを備えた専用フロアでほぼすべての教育活動が行われる。専用フロアは十分な広さと設備が完備されており、まさに大学の中の“独立した大学”という趣である。
 選抜は、一定の英語力を示す書類を提出すれば英語の試験が免除されるA方式と、英語の試験のあるB方式がある。しかし、いずれも面接と小論文にウエートが置かれ、英語力は絶対条件ではないという。「むしろ入学後の厳しい授業についていけるかという意志を探ります。習熟度別のクラス編成はするものの、1年半で全員を正規留学が可能なレベルにまで引き上げるのは容易ではありません。英語力の足りない受験生には、入学後に相当な学習が必要になることを詳しく説明するようにしています」(西川教授)。
 国際化が進むビジネスの第一線で活躍するためには、欧米の大学への進学というコースが一般的だが、通常は語学力の壁を突破するのにかなりの努力と時間を要する。そのため同コースではUBでの学生生活を円滑にするためのEBA英語教育プログラムが入学時から1年半にわたって用意されている。そこではUBから招聘した専任のESL(=English as a Second Language)教員が担当、TOEFLのスコアを引き上げるための独自の語学プログラムもある。
 語学カリキュラムとは別に、経済学・経営学の専門科目も。授業は英語のテキストを使って行われるが、英語を話せるようになることが目的ではない。「本コースの目的は、英語を使ってビジネスに必要な知識と実践力を育成することなのです」と西川教授。

英語とビジネスを融合させた、独自の教育も実施

 学習の流れは入学から卒業まで、「基礎学習期」「海外学習期」「錬成・展開期」の三つのプロセスに分かれる。このうち「基礎学習期」となる1年次から2年次前期は、海外の大学の授業についていける英語力と、経済・経営の基礎知識の習得が目標となる。とくに英語の授業は1クラス17、18人ほどの少人数で、講義一辺倒でない対話式の授業がほとんどだという。同コースではチューター制も取り入れており、授業が終わったあと、わからなかった点の相談や指導にあたる。
 年間450時間近い英語の授業が組まれているが、現実には長期休暇中の特別授業も含めると、600時間くらいとなる。「まさに英語漬けの毎日です」と西川教授は語る。
 「ミッドタームプロジェクト」という、英語教育とビジネス教育を融合させた独自の取り組みも行われている。これはリサーチ力、英語のプレゼンテーション力の向上を目標に設定されたもので、例えば1年次後期では「企業訪問プロジェクト」と称して、グループで関西圏の協力企業を訪問する。訪問先では
(1)顧客層はどこに設定しているのか
(2)どのような商品を提供しているのか
(3)業績はどうか
(4)利益をどのように出しているのか
などの項目を取材し、報告レポートを作成する。報告会では英語でプレゼンテーションする。1期生は野村證券(株)や神戸メリケンパークオリエンタルホテルなど11社の協力を得た。
 2年次後期からは「海外学習期」が始まる。UBでは正規学生として経済学・経営学の専門科目を学ぶ。03年度は1期生ということで、専任教員が現地に駐在するという万全の体制を敷いている。学生は、ビジネス系を中心にEBAが設定した受講科目群のなかから、自由に選択できる。履修した科目は4単位の「EBAアカデミック・サブジェクトI〜VIII」として甲南大学でも単位を認定する。また、ビジネストリップとして学外に出て、バッファロー市やニューヨーク市の企業の訪問・調査をしたり、経営者とのディスカッションも体験する。

「卒業企画」ではビジネスプランを作成

 帰国後の3年次後期からが「錬成・展開期」となり、より実学的・応用的な経営事例の分析方法を学ぶ。ここでは、様々な企業の経営者を招いての講演や、ワークショップを通した「対話式」授業が中心となる。そして4年間で得られた知識や経験をもとに「卒業論文」に代えて作成するのが「卒業企画」である。これは、UCC上島珈琲(株)やミズノ(株)といった協力企業を調査し、これらの企業に対する新たなビジネスプランの提案書をつくるもので、審査には担当教員とともに当該企業の社員も加わる方向で準備中である。「この提案であれば、ビジネスとして検討できる」と、いかに納得させられるかが評価の基準となる。
 同コースはこの4月で設置3年目を迎え、まだ卒業生は出ていない。卒業後は、海外の大学や大学院に留学する、企業やNPOで即戦力として活躍する、起業するなどの道が考えられるとのこと。西川教授は「カリキュラムはまだ流動的で、試行錯誤しながら進めている面もありますが、優秀なビジネスパーソンを目指して学生たちは着実に成長しているようです」と話す。

全学生の外国語教育を担う国際言語文化センター

 甲南大学では、EBA総合コースに限らず、すべての学生の外国語運用能力の向上を目的とする特色ある取り組みも行われている。
 その拠点となっているのが、94年に開設された「国際言語文化センター」だ。前所長を務めた中村耕二教授は、「本センターは独立した教授会をもち、全学生の外国語教育に責任をもって当たる使命を負っています」と説明する。
 英語と第二外国語(ドイツ語、フランス語、中国語、韓国語から選択)の1科目が、1年次の基礎科目として必修になっており、さらに語学力をつけたい学生は、2年次から5言語すべてで「中級外国語」「上級外国語」も選択できる。上級科目では、英語だと英検準1級もしくは1級以上が取得できることが目標。授業は最大30人の少人数クラスで、コミュニケーションのクラスはネイティブの教員が担当する。
 01年度には、全学生が選択できる共通科目として「国際言語文化科目」も新設。「国際文化コース」「国際コミュニケーションコース」「ドイツ語・フランス語・中国語インテンシブコース」「英語インテンシブコース」の4コース(各16単位)がある。各コースは言語と文化を同時に学ぶ、コミュニケーション能力を磨く、外国語を集中的に習得するなど、興味と目的に応じて選択できる。
 「大学の外国語教育ですから語学学校とは違い、国際問題や平和・人権問題といった、異文化理解や国際理解につながるようなアカデミックな内容を取り上げるようにしています。なかには授業がきっかけとなって、広島の原爆調査やカンボジアの地雷除去のボランティアに参加して、平和活動に目覚める学生もいます」と中村教授は語る。
 10年目を迎えた同センターの取り組みは、甲南大学の国際化教育の主軸として機能している。

職員の海外研修による意識変革で“スチューデントファースト”へ

 このほか甲南大学では、職員の国際的視野を広げるための取り組みも行っている。交換留学協定校でありEBA総合コースでも提携しているUBとの間で、98年から職員の交換研修を実施し、これまでに甲南大学から8人、UBから7人が約2週間の研修に参加した。国際交流業務に関わる部署だけでなく、広報、教務、人事などすべての部署の職員を対象にしている。研修では、相互の関連業務の取り組みを調査し、サービスの向上に役立てる。
 人事部の中村英雄課長は、「私自身、教務部に所属していたときに研修を体験したのですが、学生に対する厳しさを肌で感じると同時に、“スチューデントファースト(学生第一)”という理念が全学的に浸透していることに感動もしました。帰国後、授業評価アンケートの実施方法など、すぐに教員陣にフィードバックできる成果もありました」と言う。そして、「何より、研修を受けた職員が周囲を巻き込んで、意識変革が進んでいく」という成果を強調する。今後はこうした試みが、大学改革のきっかけの一つになるかもしれない。


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