ベネッセ教育総合研究所
特集 国際化教育の現在
東京農業大学
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Report 5
体験型の農業実習プログラムで歴史や文化の理解も深める
 外国語の習得を主な目的に、アメリカなど先進国に送り出す留学制度が多い中、東京農業大学では、アジアを含む姉妹校でのユニークな農業実習プログラムを開設している。
タイなどアジアでの短期実習と、アメリカでの1年間の実習

 中国の中国農業大学をはじめ、タイ、台湾、メキシコの各大学との間で相互に学生を派遣する短期プログラムは、2年生以上が派遣対象で、夏休みに1カ月間実施。計60人前後が参加する。一方、アメリカ農業実習では、12カ月間の実習に加え1カ月間の英語研修、研修旅行もある。3年次に講義を受け4年次に留学する学生が多く、毎年約15人が参加。
 「農業には先進国、後進国の区別がなく、それぞれに気候風土、生活習慣を反映した特色がある。体験を通してその国の農業を知り、歴史や文化も理解することがプログラムの目的です」。国際教育支援課の荒井英行課長はそう説明する。その理念の下、タイでは田植え等植物系の実習や動物系の実習、中国では大農場でのトウモロコシの収穫や新興の観光農園の運営などを体験する。
 農業実習は、40年ほど前にできた国際食料情報学部国際農業開発学科を中心に発展。1966年にミシガン州立大学と姉妹校協定を結び、「海外農業実習」を選択専門科目にした。実験・実習科目としては例外的に他学部・学科の学生にも開放、現在では5学部15学科から偏りなく参加する。途上国、農地というフィールドでも、治安の問題や大きな事故はこれまで起きていない。長年培ったノウハウに加え、短期プログラムには教員が2人同行するなど万全のケア体制が、安全・安心を支えている。
写真
タイのカセサート大学の農場での実習風景
英語での専門科目の授業や学生サミットで刺激を与える

 同大学の国際化教育に関わる取り組みには、このほかに、学生主体の企画・運営で開かれる「世界学生サミット」と、英語による専門教育プログラムがある。学生サミットは、01年に創立110周年記念事業として実施して以来、毎年11月に2日間開かれる一大イベントだ。食の安全や環境問題に関わる統一テーマの下、17カ国の姉妹校から学生が集まり、各国の状況を報告し討論する。
 企画・運営を担う「世界学生フォーラム」の学生は4月に学内公募。新入生も含め100人程度でプログラムを検討、担当国ごとのグループに分かれ、各国からの参加学生と連絡を取り合う。当該国からの留学生や留学経験がある日本人学生も巻き込むなど、準備のプロセスでも交流が深まる。国際教育支援課は、予算の確保や会場の手配などのサポートに徹する。
 一方、カリキュラムを特徴づけている英語による専門教育プログラムの授業は、農業実習やサミットへの参加意欲を高める仕掛けの一つともいえる。現在15の選択科目を開講。比較的易しいレベルの科目から高度な英語力を要する科目まであり、自分の力に合わせ、学年、学部学科を問わず受講できる。
 02年度から導入されているこのプログラムには、姉妹校からの留学生への対応と、日本人学生の英語力アップという二つの狙いがある。「これからは、自分の専門分野を英語で理解する能力が不可欠になる」と荒井課長。
 約50人の担当教員中、ネイティブスピーカーは1人だけ。日本人教員は、週1コマの授業を2〜6人で受け持つ。15〜20人のクラスの半数以上は日本人学生だという。質問やレポート、試験もすべて英語だが、休み時間には日本語で質問して理解を補う学生も。
 これら正課・課外の取り組みは、「実学教育とグローバル化の推進に向けた体系的な運用」が評価され、03年度の「特色ある大学教育等支援プログラム(GP)」に採択された。荒井課長は、いずれも学生に刺激を与え意欲を高めることが目的と説明。「ただし大学だけでできることには限界がある。今後は行政や民間企業などが実施する国際交流のイベントの情報を集め、刺激を与える機会を増やしていきたい」と話す。


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