ベネッセ教育総合研究所
特集 チャレンジする短大
富山短大
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REPORT 1
入学前、卒後を含む10年間で質の高い介護福祉士を養成
 介護専門職には、専門知識・技術と豊かな人間性が求められる。介護福祉士を養成する富山短大の福祉学科では、その実現のために入学前、卒業後を含めた10年間を視野に入れた教育活動に取り組む。
福祉に触れる機会をセミナーで

 富山県をはじめ北陸地区にはかつて介護福祉士の養成校の短大・大学がなく、その設置が強く望まれていた。県からの働きかけもあり、そうした社会的ニーズに応えて1996年度にできたのが、富山短大の福祉学科だ。介護福祉士は、高齢者や障害者の介護を行う専門職。介護保険制度施行に伴う福祉ブームを背景に、同学科には県内外から志願者が集まり定員80人の3倍に達したこともある。ブームが沈静化し、全国的に養成校が苦戦している中、04年度は1.4倍の志願率を確保。03年度末までに7期655人の卒業生を県内外の福祉現場に送り出してきた。00年度からは男女共学となり、現在は男子学生が1割ほどを占める。
 介護福祉士には質の高い介護技術はもちろんのこと、豊かな人間性も求められる。それだけに、2年間という短期間での育成は難しい。そこで、同学科が開設時から掲げてきたのが、在学中だけでなく、入学前の高校3年間、卒後5年間にも学習の場を提供する10年間一貫教育だ。卒後を5年間としたのは、実務経験5年を受験要件とするケアマネジャーの資格取得を視野に入れているためだ。この取り組みが評価され03年度、文部科学省の「特色ある大学教育支援プログラム」にも選定された。
 入学前教育では、少しでも多くの高校生に福祉への関心を持ってもらうための活動を行う。毎年大学祭では、高校1、2年生を対象に「高校生セミナー」を開催し、「介護」「福祉」「生活」の3テーマの参加型イベントを用意。昨年は身体介護の体験や施設などで行われるレクゲームの学習、福祉やボランティアに関するクイズを実施した。セミナーは予約制で、前もって県下の全高校にチラシを送り参加者を募る。毎年50人程度が参加しており、中にはそれをきっかけに同学科を受験する生徒も少なくないという。同短大では、高校側からの求めに応じる形で全学科を挙げて出張授業を行っている。福祉学科では介護技術やボランティア支援、高齢者の自立支援といったメニューをそろえている。
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高校生セミナーでは、教員の指導のもと食事介助など介護を参加者自身が体験することもできる
入学前にもレポート課題を設定

 進路が具体化する高校3年生に対しては、進路・進学相談会の場を通じて、同学科で資格が取得できる介護福祉士を中心に、各種福祉職の仕事内容などについても説明。資格取得要件が違うにもかかわらず、多様な福祉職を混同している高校生は少なくないためだという。そうした説明の場で、福祉学科長の宮田伸朗教授が必ず言う言葉が「いい加減な気持ちでは入学してほしくない」だ。高校生にはやや厳しい言葉だが、そこには「本当にやりたいと思って入学してもらわないと、介護のプロと一緒に高齢者や障害者のケアをする実習はとても務まらない」という考えがある。同学科では卒業要件も84〜100単位と、短大の基準の62単位をはるかに上回る。ハードな学生生活を乗り切るための心構えを促しているわけだ。
 推薦入試による入学予定者には、入学前にレポート提出も課される。ここ2、3年のテーマは「祖父母の18歳の時の遊び、勉強、食べ物」。
 「核家族化が進み、今の高校生は高齢者と接する機会が少ない。高齢者の話を聞くことで生活歴や心情を知ることができ、介護職としての勉強に取り組む動機付けになります」と、宮田教授は言う。60人を超える入学予定者から送られてくるレポートには、9人の教員がすべて目を通しコメントを入れ返している。


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