ベネッセ教育総合研究所
特集 チャレンジする短大
宮崎女子短大
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REPORT 3
具体的な目標設定と情報共有で教育力日本一の地方短大を目指す
 宮崎女子短大は、県内初の短大として1965年に設立され、地域では名門校として知られる。若手教員10人で構成されるFD推進委員会を中心に、98年度から組織的なFD活動に着手し成果を挙げている。
「学生満足度90%」を目標に活動

 宮崎女子短大は、入学者の出身地、就職先の9割が県内という地域密着型の短大だ。現在、保育科、初等教育科、音楽科、人間文化学科の4学科と、福祉、音楽療法の2専攻科を設置する。この就職難の中、ここ7、8年、就職率100%を維持。しかも、県内の保育所に勤務する保育士の約40%が同保育科の出身者と、地域の人材育成に大きく貢献している。
 同短大が組織的にFD活動に取り組むことになった経緯を、FD推進委員会委員長の宗和(そうわ)太郎教授はこう説明する。「今、就職率が100%でも、10年先を考えると盤石とはいえません。保育士など資格取得の利点を打ち出すとともに、良い教育を提供しているという評判を地域に広めることが、生き残る術と考えたのです」。
 18歳人口の減少や女性の4年制大学志向など、地方短大を取り巻く最近の状況は厳しい。しかも、学生の学力レベルの低下に伴い、研究中心の教員意識を改め、主体的な学習習慣を持つ学生を対象にした従来型の授業スタイルを見直すことが、FD活動に着眼した当時、同短大でも急務になっていた。
 そのような中、98年度にFD推進委員会が発足。次期執行部を担う、学内で「第2世代」と呼ばれる若手教員10人が、学長直々に委員に任命された。宗和教授が、どうせやるのならとスローガンに掲げたのが「日本一の地方短大を目指す」。これは、全教員の度肝を抜いた。しかし当初、教員の自主性を尊重して展開したワーキンググループ単位でのFDの取り組みは、活動に統一性がなく目標もあいまいだったため、思ったほどの成果を挙げることができなかった。
 そこで00年度からは、推進委員会の主導での取り組みに切り替えた。同時に、教育サービスで日本一を目指すには顧客満足度の視点が必要と、「学生満足度90%」を数値目標として設定。毎年卒業時に、同短大に入学したことに対する満足度を学生にパーセント表示してもらい、その平均を学生満足度とした。100%ではなく90%としたのは、現実味のある目標とするためだ。さらに、『入学者すべてに深い充実感、達成感を与える教育』の実現に向け、教員の資質向上に全学的に取り組むという「FD宣言」も、学内外に向けて発表した。FD宣言時の学生満足度は79.7%。それが03年度には85.6%と伸びている背景には、推進委員会が企画・運営した様々な取り組みがある。

教員の授業の工夫を集大成

 まず、毎月初めには教員に向け、授業と、学生とのコミュニケーションにおける二つの月間目標を発表。例えば毎年4月には、「教室ルールを確立しよう」「学生の名前を100人憶えよう」といった目標を提示し、全学生の氏名の入ったグループ写真を提供する。加えて年度初めには、教員一人ひとりに教育目標を3項目設定してもらい、それを「私のFD宣言」として学内のFD掲示板に張り出し、学生にも公表している。年度末には、これらの目標の達成度を5段階で自己評価する仕組みだ。
 さらに夏季、冬季休業中も含めて毎月1回、専任教員45人全員を対象に全学FDミーティングを1、2時間程度開催。「各学科卒業生アンケート調査の分析と対策」「他大学のFD事例紹介」など、推進委員会が企画したテーマで意見交換をするほか、「遅刻・私語の学生への効果的なことばかけ」など指導法研修も実施している。やむをえない用事がある場合を除き出席が義務付けられ、毎回、9割以上の教員が顔をそろえる。
 昨年度からは、「宿題」も出るようになった。自分が授業や学生指導で日頃実践している工夫を、ミーティングに一人一項目ずつ持ち寄ってもらったのだ。それらは書面にまとめられて全教員に配られ、互いの参考にする。宿題は同じテーマで2、3回実施される。次第に、各自の手持ちのアイデアは尽きてくるが、その場合は「本やインターネットなどの活用を勧め、徹底して情報を集めてもらいます」(宗和教授)。他の教員とのノウハウの共有だけではなく、広く外に目を向けさせる動機付けにもなっているわけだ。集まったアイデアは、共有財産として「FD TIPS集」(写真)にまとめられている。
■FD TIPS集
写真
 推進委員会では、学科単位でも月1回、授業研究会と教育カンファレンスを設置している。研究会は授業手法などをテーマに意見交換する教育研究の場。カンファレンスは実際の学生の事例を取り上げ、具体的な指導・支援方法を話し合う、いわば「ケース検討会」だ。学生一人ひとりに目を向けて全員で対策を考えるため、教員同士のチームワーク向上に役立っているという。


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