ベネッセ教育総合研究所
「教室の黒板」を出発点にしたeラーニング
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遠近法

徹底した合理的機能と人間味のあるおおらかな運用
先進的なIT活用
e-サービスとe-マネジメント


 國學院大學は国学を中心にした伝統的な文系大学という社会的評価を持つ大学だ。その大学が教育支援のコンピュータ・ネットワークシステムを構築し、効果的に運用している。e-Learning という言葉になぞらえれば、K・SMAPYの機能は e-Service と e-Management といってよいだろう。
 コンピュータが教育や教務管理を革新するともてはやされた80年代のCAI(コンピュータ利用教育)やCMI(コンピュータ利用教育マネジメント)は、「人間のできることがコンピュータでもできます」といった程度のものだった。一人ひとりの学生に合わせて情報を提供できるK・SMAPYは、CAIなどを知る人にとっては、隔世の感がある。一方、小学生の頃から、連絡もしていないのに自分宛てのダイレクトメールが塾などから届くのが当たり前だった学生にとって、自分用にカスタマイズされた情報が届くことは、当然のサービスとして感じられるに違いない。
 ところが大学では情報が氾濫し、時に混乱している。一部の学生にしか必要のない情報が、全学生向けの掲示板に張り出されるということが日常的に行われている。そのために伝達もれが起きたり、確認のためのさらなる情報発信が必要になり混乱に拍車がかかる。
 一般社会では、個人の嗜好などの基礎データをもとに、コンピュータで情報をカスタマイズし提供するシステムはすでに実用化されている。その当たり前の顧客サービスをしていなかった大学という事業体は、企業からは不思議に見えるに違いない。しかも大学は、掲示の見落としがあったら、学生に注意不足を指摘し、「注意することが大切」と精神主義を振りかざすのである。このような姿勢は、大学が取り組むべきマネジメントとは峻別されなければならない。
 また、同大学では学生の出欠状況も、K・SMAPYに連動している出席登録機能で知ることができる。一見管理主義的に見えるが、全学規模の出席集計を手作業で行うと、ややもすると1カ月程度はかかってしまう。K・SMAPYで必要時に即データを把握し、その分早期から学生の支援に着手する方が、学生サービスの観点からすると効率的ともいえる。
 ただし、この情報からは、学生の欠席が主体的意思によるものなのか、いわゆる五月病であるのかはわからない。出欠情報をもとに早めにアドバイザーの教員と学生、あるいは父母とコミュニケーションを取ることこそが重要だ。

教員の必要性に応じて運用させるスタンス

 同大学の特徴は、K・SMAPYの運用面で、柔軟性や文系大学らしいおおらかさが感じられることだろう。非常に合理的なシステムだが、大学側はすべての教員にそれらを全部使用させようとするのではなく、必要と思われる人に必要と思われる機能だけを使ってもらえばいい、というスタンスだ。
 にもかかわらず、機能を使いこなしている教員は一定数に上る。非常勤教員のなかには教材、フォーラムなど様々な機能を徹底して使っているケースも見られる。非常勤教員は、契約時間内だけでは学生へのきめ細かい指導が十分にできないという不満足感を持っている。一方、学生にとっては、一週間に1回の講義の時しか大学に来ない教員であっても、受講している科目の「先生」である。専任教員がいくら学生指導に時間を割いたとしても、その代わりはできない。そこで、大学でのコミュニケーションの限界を補う一つの手段として、非常勤教員はK・SMAPYを自発的に活用している。
 授業面では、教材、フォーラム機能などを、教員の個性や必要性に応じて使用することで、新たな展開も見いだされつつある。教材の形式を、授業の完全なレジュメからキーワードなどを空欄としたものに変えたり、発展的な自習ができるように表計算用のデータを提供するといった、今までの講義とは一味違った工夫を登場させている。また、フォーラム機能は少人数のゼミでの活用という先入観があるが、実際には「大人数授業のほうが機能を発揮する」という示唆から、授業手法の転換にもつながる可能性があることがわかる。
 これらの知見は、K・SMAPYが教学場面で十分に働きだしているという証左にほかならない。そしてそれを可能にしているのは、活用を教員の自主性にある程度任せている運用面の緩やかさにあるのではないだろうか。
(矢内秋生)


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