ベネッセ教育総合研究所
特集 リーダーシップが生きる職員組織
澤 昭裕
前経済産業研究所コンサルティングフェロー
澤 昭裕

1957年生まれ。大阪府出身。一橋大学経済学部卒業後、プリンストン大学行政学修士(MPA)を取得。81年に通商産業省に入省。現在は、資源エネルギー庁資源燃料部政策課長(兼燃料政策企画室長)。産業技術総合研究所や経済産業研究所の独立行政法人化では中心的な役割を担う。業務のかたわら、大学改革問題にも取り組み、00年度に広島大学高等教育開発センター客員研究員、03年度から東北大学非常勤講師も兼務。
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寄稿
国立大学法人化における事務職員組織とは
外見上の「組織いじり」に終わらない改革を

 国立大学法人が、この4月一斉にスタートした。法人化に伴って、各地の国立大学でさまざまな組織・運営改革が行われようとしている。これまでの教授会を中心とした意思決定システムから、学長に権限を集中して、研究予算や人員の戦略的配分を図るトップダウンの意思決定システムに変革しようと、それぞれの大学が工夫を凝らしているところである。
 しかし、組織改革を競うあまり、外見上の「組織いじり」に終わってしまっては元も子もない。一連の改革によって達成すべき最も重要な目標は、どのようにして教職員の活力・能力を引き出し、それを大学全体の活性化につなげていくかということにある。
 特に、大学は企業や官庁と違って、もともと一般にイメージされるピラミッド型の「組織」ではなく、水平的な「人の集まり」という方が実態に近い。法人化に伴って、トップダウンのピラミッド型組織を構築することになれば、その構成員たる教職員が現場で感じる一種のカルチャーショックは、相当のものがあろう。その点に十分配慮しながら、新しい意思決定システムの中で、それぞれの教職員がやりがいを感じながら、気持ち良く仕事ができる環境を整えていくのが、改革を進める執行部の使命であり、責任でもある。


国立大学は自律的なユニットに

 この稿では、特に事務組織や事務職員が、法人化された新しい国立大学の中でどうあるべきかを考えてみたい。
 これまで、国立大学の事務組織は、水平的な「人の集まり」という性格を持つ大学の中でも、ピラミッド型の組織で運営されてきた。
 法人化前の国立大学は文部科学省の付置機関であり、各大学の事務組織は、人事・会計・庶務・学務等に関して、本省の事務組織が企画立案して決定する事項を、単に執行する役割を持つだけの出先機関として取り扱われてきた。
 すなわち、本省の担当部局を頂点としたピラミッドを形成し、その底辺に大学現場の各担当事務組織を配置するシステムを取ってきたわけである(図表)。

図表 法人化前の国立大学の事務組織の運営システム

図表

注:大学の各事務組織は文科省の担当部局の指示系統下にある

 また、そのシステムを確実に機能させるため、本省が現場の管理職以上の職員についての人事権を掌握し、大学の事務局長にも、本省のいわゆるキャリア官僚を充ててきた。
 したがって形式的には、個々の大学内での事務組織もそれ自身としてピラミッド型を構成しているが、実質的には、大学の運営ルールに関する重要事項について独自の意思決定権限を持たない組織であったといえよう。また、この構造は学長直轄の大学本部と各部局における事務組織の間の関係にも当てはまる。
 法人化に伴って、本省と現場のこの関係は一変する。少なくとも国立大学法人の制度を、その趣旨に沿って運用すれば、一変するべきものである。というのは、法人化によって、給与やその他の処遇、財務・会計運営、組織設計など、経営に関する意思決定権限がほとんどすべて本省から大学側に移行するからである。
 また事務職員の採用や異動、昇進に関わる人事権も学長に移行することになっており、本省からの影響は、時を経るにしたがって薄れていく。こうした変化が実際に起これば、大学現場の事務組織は、実質的にも自律的なユニットになり、自らの権限は大きくなるとともに責任もその分大きくなる。



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