ベネッセ教育総合研究所
特集 顧客・応援団としての卒業生
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顧客・応援団としての卒業生
 大学が卒業生へのアプローチに力を入れだした。同窓会活動のバックアップ、専用サイトでの情報発信、教育サービスやビジネス情報の提供による継続的支援――。卒業生は、大学というコミュニティの一員であり、財政面にとどまらない幅広い協力を期待できる応援団であり、重要な顧客でもある――そんなとらえ方が広がっているようだ。卒業生とのネットワークを築き協力関係を強化するためには、どんな発想と手法が求められるのだろうか。
【レポート1】阪南大学・中小企業ベンチャー支援センター
ビジネスを支援する
センターを開設し情報提供
 阪南大学は、大阪を代表するビジネス街である淀屋橋に「中小企業ベンチャー支援センター」を設置し、卒業生からの業務や起業に関する相談に応じるサービスを始めた。一般の中小企業に対するコンサル事業も行い、そこでのネットワークを卒業生の転職支援につなげたい考えだ。
豊富な経験を持つアドバイザーが対応

 阪南大学は04年4月、キャンパスから電車で約40分の距離にある大阪・淀屋橋にサテライトを開設し、同時に中小企業ベンチャー支援センターをオープンした。
 このセンターは、地域の中堅・中小企業やそこで働く卒業生を対象に、ビジネス上の相談や情報提供を無料で行う。相談は予約制で、その内容に応じて事務局が適切なアドバイザーを決める。また、病院のカルテにあたるものを作成し、企業が抱える課題に継続的に対処する。
 センター長の小松弘明氏(同大学経済学部教授・産業組織論)は、「アドバイザーの知識と人脈を生かして、幅広い相談に対応できる点が強み」としており、ビジネスに関する豊富な知識を持つ3人のアドバイザーを揃えた。その中には、同大学の大槻眞一学長も名を連ねる。学長は旧通産省の出身で、産業界にも幅広い人脈を持つ。これまでの経験と人脈を生かして、産官学の連携や公的支援制度の活用、さらに新商品の開発などの分野を担当する。他には、創業支援や経営計画の策定などを専門とする経営コンサルタントの佐藤修氏、NPO法人就業・創業支援協会の代表を務める坂井廣氏の2人が参加した。
 開設から間もないこともあり、卒業生からの相談は数件にとどまっているが、いずれも創業を目指す意欲的な内容で現在事業計画を策定中だ。一方、一般企業からの相談は、「新商品を販売するために新たな提携先を探している」「補助金を受けるにはどうすればいいか」など、販路開拓や資金調達に関するものが多い。
 大学のホームページや同窓会誌を通じてセンターの存在を告知しているものの、相談件数から見てまだ卒業生に十分浸透しているとはいえない状況だ。今後はそれらの媒体を通じたPRに力を入れるとともに、同窓会組織の会合なども活用していく方針だ。

卒業生に対する転職・キャリア支援を

 同大学では、職業観を養い職業選択の一助とするため、入学時からキャリア支援プログラムを実施している。その中で、在学生の就職支援だけでなく、卒業生に対する転職・起業支援の重要性も浮かび上がってきた。
 2003年度卒業生の就職先を業種別に見ると、サービス業21.2%、小売業20.0%が多く、卸売業、製造業などが続く。また、資本金規模で見ると、50億円以上が39.4%と最も多く、比較的規模の大きな企業に就職していることがわかる。
 最近の進路状況について、小松センター長は、「知名度や規模など企業のイメージだけで就職先を選ぶ傾向が強く、入社後何年もたたないうちに転職を考えるケースも目立つ」と指摘。その上で、「転職を目指す卒業生を、どうサポートしていくかも大学としては大きなテーマ」として、支援に取り組む考えを示した。
 サテライト開設の目的は、在学生や卒業生に就職、転職活動の拠点として利用してもらうことにある。在学生、卒業生は、履歴書の添削や企業情報の検索といった目的で利用している。卒業生に対しても門戸を開くことで、「卒業後も頼りになる大学というイメージをつくりたい」(小松センター長)考えだ。
 一方、キャリア支援プログラムを実施する中で、地域の中小企業が抱える様々な経営課題も見えてきた。大学が持つ知識と人脈で、その課題を解決したいとの狙いがセンターの開設にはあった。また、相談を通じて蓄積された各種業界の現状や課題を、大学の教育研究に役立てていくことも考えている。
 中小企業の課題解決に関わることで、大学と企業との間に信頼関係も生まれる。そのことが、「将来、在学生や卒業生の就職・転職にプラスになればいい」(小松センター長)と、長期的な観点からの効果を期待する。


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