ベネッセ教育総合研究所
特集 顧客・応援団としての卒業生
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【レポート6】神戸大学
ネットコミュニティを構築
法人化を機に組織化に取り組む
 神戸大学では、卒業生と在学生、教職員を包括するネットワークサービスを提供、メールマガジンを配信するなど、国立大学の中でいち早く卒業生との協力体制づくりに取り組んでいる。

学友会と教員による学術事業会が運営

 国立大学の同窓会としては、一橋大学の如水会の組織力と母校への貢献度が知られている。それ以外の大学では卒業後のフォローがほとんどなく、母校と関わりながら活動する同窓会は極めて少ないといわれる。これまでは国の責任の下で大学が経営されたため、卒業生を応援団として捉える意識が薄かったことも一因だ。法人化を機に、卒業生との緊密な関係づくりに乗り出す国立大学も出てきた。
 神戸大学では、卒業生13万人を結びつける情報ネットワーク「kobe-u.com」を2002年度に開設した。産学連携やベンチャー支援に関する情報提供をはじめ、会員間のコミュニケーションを促すウェブメール、メーリングリスト、ウェブディスクなどのサービスを提供。在学生や教職員も参加できるこのシステムから、卒業生も大学の構成員に組み込んでコミュニティをつくろうという理念が読み取れる。
 同大学の同窓会は、学部の成立過程の違いなどにより10の団体に分かれ、その連合体として学友会がある。ネットワーク構築は01年8月に学友会が提案、準備委員会を設けてシステム概要やコンテンツ、運用・管理を検討した。運営を担い、ネットワークを通じての卒業生の人脈づくりも支援する目的で、稼働と同時に、学友会有志と大学の教員などが出資して(株)神戸学術事業会を発足させた。
 ただ、kobe-u.comの会員数は800人ほどで思うように伸びておらず、しかもメール転送を利用する人がほとんど。人脈づくりという本来の目的通りに活用されるには、さらなる工夫と時間を必要としそう。副学長の北村新三理事は、「月額500円の会費がネックになっているのでは」と分析。「事業会の財政基盤をしっかりさせて無料でアドレスが配布できるようにしたい」と話す。法人化後も国立大学が民間企業に直接投資することは禁止されているため、「学友会を通して事業会に業務委託する形で、ネットワークづくりを資金面でサポートすることも考えている」という。

卒業生の協力で新入生に奨学金

 神戸大学では、卒業生の組織化を進めるために学内の体制も見直している。同窓会担当理事や専任事務官の配置はその一つ。同窓会を担当する副学長の鈴木正幸理事は「立命館大学や慶應義塾大学など、私大の同窓会関連事業を大いに参考にさせてもらっている」と話す。04年6月には学内に学友会の事務所を開設した。
 4月に東京・丸の内にオープンした東京オフィス準備室は、情報の収集・発信に加え、在京の卒業生との連携拠点としての機能も担う。ビジネスの中心地に拠点を構えることで、後輩に対する就職支援も活発化すればと期待する。そのためには、学友会の会員データベースの整備が急務で、データの一元化を進める。
 在学生の修学支援として、低利の教育ローン「神戸大学学友会奨学金」も開始した。当面は、学友会に所属する三つの同窓会による新入生対象の貸与奨学金として運営、「将来的には他の同窓会にも協力してもらい、対象も在学生全体に広げてほしい」(鈴木理事)と考えている。
 市民グループなど「民」も含めた産学官民の連携推進を担う学内のイノベーション支援本部・連携創造センターでは、「神戸大学クラブ通信(KI-ACT)」と題する月1回の無料メールマガジンの配信を始めた。工学部と農学部の同窓会と連携して、kobe-u.comの会員全員に創刊号を送付。産学官民連携を軸としたネットワークづくりを強化する方向だ。
 同大学には海外からの留学生も多い。昨年のソウルでの同窓会では、大学との交流強化が確認されたという。北村理事は「卒業生の多いタイ、インドネシア、フィリピンなどにも海外拠点をつくることができれば、同窓会組織の力も大きくなる」と話す。距離を超えたネットワークの強化のためにも、kobe-u.comのさらなる有効活用が期待される。



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