ベネッセ教育総合研究所
特集 顧客・応援団としての卒業生
田中俊郎
慶應義塾常任理事
田中俊郎
PAGE 9/18 前ページ次ページ


【視点】
誇りを持てる母校であることが緊密な関係づくりの基盤
 慶應義塾大学出身者で構成する三田会は、知名度においても、寄付を中心とする母校への貢献度においても、わが国有数の同窓会組織とされる。ネットワークの構築や運営のノウハウが他大学の参考にされることも多い。その一方で慶應義塾自身も近年、同窓会活動に若手の参加を促すことに腐心しながら、組織強化に乗り出している。新たな取り組みとその理念について、塾員担当の田中俊郎常任理事に聞いた。
節目ごとにリマインド

 慶應義塾では、幼稚舎から大学院までの生徒・学生を「塾生」、卒業生を「塾員」と呼ぶ。あえて一般的ではない言葉を使うことに、慶應義塾の一員としての誇りが込められているという。塾生、塾員、教職員の総称である「社中」という言葉は、卒業生も含めて慶應義塾を構成するという考え方を象徴している。
 三田会は、2003年11月末現在で卒業年度別で72、地域別291、勤務先・職種別302、サークル、ゼミその他の単位で198の計863組織がある。法人本部の塾員センターが窓口となって活動を支援している。
 毎年秋、各三田会で構成する慶應連合三田会が日吉キャンパスで開催する大会は、1万数千人の慶應ファミリーでにぎわう一大イベントだ。その実行委員会は、卒業10年目、20年目、30年目、40年目の各年度三田会有志が担当する。卒業年次ごとに役割が回ってくるこのシステムについて、塾員担当の田中俊郎常任理事は「慶應OBとしてのアイデンティティをリマインドする節目として機能しています」と説明する。
 有志による自主運営組織である三田会のほかに、法人では、一定の規約にもとづく塾員として卒業生情報を管理、その名簿をベースにして情報発信や寄付の依頼などをしている。慶應義塾大学と大学院、さらに看護短大などかつて設置されていた高等教育機関を卒業すると自動的に塾員として登録され、現在約30万人いるという。
 毎年、入学式には卒業50年目の塾員、卒業式には25年目の塾員を招待しており、それぞれ700〜800人が出席する。連合三田会の実行委員会と同様、卒業年次ごとに束ねるこの方式は、他の大学でも参考にされている。卒業して51年以上の塾員を招く年1回のパーティーには、約3000人が参加。これら数々のイベントは、寄付を受け付ける場にもなる。

写真

2003年秋の慶應連合三田会の大会

 卒業生が任意で入会して法人を財政的に支援する組織「維持会」もある。普通会員は毎年一口1万円以上、終身会員は一括で30万円以上を拠出金として寄付。会員には月刊の機関誌『三田評論』が送付される。近年の卒業者全体に占める加入率は17%で、会員総数は4万1000人。03年度の拠出金は2億5000万円に上る。
 維持会分を含めた卒業生からの寄付収入は、年間いくらぐらいか。興味深いところだが、多数ある寄付形態の中には末端の協力者が把握できない募金等も含まれるため、卒業生分だけの総計を出すのは不可能だという。
 それでも、ここぞというときのパワーは絶大だ。83年の創立125年記念事業に向けた募金活動のときは、「第1次目標の150億円をあっという間に達成、その後も順調で3年計画だったのを1年半で打ち止めにした」(田中理事)という。企業等からの大口寄付も含め、背後での卒業生や各三田会からの働きかけの力は想像に難くない。



PAGE 9/18 前ページ次ページ
トップへもどる
目次へもどる
 このウェブページに掲載のイラスト・写真・音声・その他のコンテンツは無断転載を禁じます。
 
© Benesse Holdings, Inc. 2014 All rights reserved.

Benesse