ベネッセ教育総合研究所
特集 顧客・応援団としての卒業生
斎藤顕一
国際基督教大学(ICU)
同窓会会長
斎藤顕一

さいとう・けんいち
1949年大阪府生まれ。74年ICU教養学部語学科卒業。経営コンサルティング会社のマッキンゼーを経て、96年に独立して(株)フォアサイト・アンド・カンパニーを創立、代表取締役に就任。
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【インタビュー】
「大学の発展」をミッションに掲げ、学生にとっても魅力ある同窓会に
 国際基督教大学(ICU)の同窓会の活動は、ここ2、3年で大きく変化した。大学の発展、社会貢献などのミッションを確認した上で運営体制を強化。教育・課外活動の支援を通して学生との交流に力を入れている点が特徴的だ。大学に対しては、財政支援に加え、学生募集についても卒業生ならではの視点でバックアップする。「魅力ある同窓会」に向けた改革をリードする斎藤顕一会長に、活動の理念や母校への思いを聞いた。
「懇親だけでは意味がない」

 斎藤顕一氏(54)が2002年6月に国際基督教大学の同窓会長に就任したとき、真っ先に考えたのは会のミッションを明確にすることだった。「終身会員の会費は5万円で決して安くはないのだから、ただの懇親サークルでは意味がない。後輩たちや大学からも『同窓会があってよかった』と言われる存在でありたいと考えました」。
 「群れないのがICUの良さ」と、同窓会活動に背を向ける人もいるという。「群れるというのは意思もなく集まること。共通の目的に向かって行動するのは群れることとは違う。同じ教育理念の下に育った人たちが才能と経験と熱意を共有し、お互いを高めながら社会に貢献していくための機会と環境を提供することができるはず」。
 議論を経て、
(1)会員相互の親睦
(2)ICUの発展
(3)国際文化の交流と日本文化の普及
という三つのミッションを打ち出した。
 これらを実行するために手をつけた組織改革では、同氏の本業である経営コンサルタントとしての視点も生かされた。5人だった副会長を7人に増員し、大学、財務、事業、組織、総務、広報、学生という担当部門に振り分けた。ユニークなのは、現役学生とのコンタクトをとる学生部を新設したことと、会計的な概念にとどまっていた部門を「財務」と名称変更し、会費の有効運用に力を入れた点だ。若い力を推進力とするために、副会長には30代の同窓生も数人加えた。
 最近、学生担当副会長に27歳の女性を起用したのは、同窓会活動への女性の参加を促す狙いもある。「学生の側も年齢が近い方が話しやすいし、同窓会を身近な存在に感じてくれるはず」。
 こうした体制の下、次々と新しい取り組みを始めた。その一つが広報活動の強化だ。2年前にリニューアルした年2回発行の同窓会報「ICU Alumni」は、24頁のタブロイド判。キャンパスの自然をテーマにした特集、大学ランキング本の編集者にインタビューした「外部から見たICU」など、企画を充実させた。広報担当副会長は現役の雑誌編集者で、同様にリニューアルしたウェブサイトと合わせ、ビジュアル的にも完成度の高いものになっている。

写真

同窓会報「ICU Alumni」
 「サポート ICUパーティー」は、資金を集めて大学を支援するために始めたプログラムだ。会費は3万円で、卒業生の音楽家やアナウンサーをゲストに迎えてコンサートやトークショーを開くなど、参加者がお互い楽しめるよう工夫している。
 現在1万8000人の同窓会会員がいるが、他の同窓会と同様、地方支部の活動の停滞に悩む。「電話やメールだけで結束を維持するのは無理。会ってお互いの顔を見なければ」と考え、地方支部での会合には費用を自己負担してでも出向くようにしている。一方、東京での総会には、支部役員の交通費を同窓会が一部負担し、可能な限り足を運んでもらう。

学生に魅力的な機会の提供

 特に力を入れているのは、在学生との交流だ。学生向け講演会「アラムナイ・オープン・レクチャー・シリーズ(AOLS)」は、学生との共同企画で年3、4回開催。各界で活躍する卒業生を講師に招き、生き方や経験を語ってもらう。AOLSサークルの学生が「あの人の話を聞いてみたい」と案を出し、同窓会の学生部で検討する。
 これまでの講師には、劇作家の平田オリザ氏、元宇宙飛行士の秋山豊寛氏など多彩な分野から招いた。講演内容は大学が冊子にまとめ、新入生や父母に配布している。「成功した人でも、決して楽をして上りつめたわけじゃない。先輩の苦労話や失敗談、ユニークな生き方を学ぶことで、自分の能力を最大限に高めるための道筋を探ってほしい。そんな手助けをすることが、僕らの務めだと思います」と強調する。
 昨年からは「同窓会課外活動奨励賞」を本格的に実施している。学生たちから演劇、コンサートなどイベントの企画を募り、趣旨や企画内容を審査して100万円を上限として資金を援助する。従来は実質ペーパー審査のみだったが、プレゼンテーションによる審査も加えて教育効果を高めた。15分間のプレゼンでは、企画の中身だけでなく発表の仕方に助言することもあるという。
 こうした支援を通して学生が人間的に成長し社会に出てリーダーシップを発揮すれば、同窓会の三つ目のミッションである社会貢献、国際貢献にもつながると指摘する。



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