“一番乗り”のリスクを覚悟
企業の顧客情報の流出やコンピュータウイルスの発生など、情報化社会の暗部ともいえる問題が多発する中、安全・確実な情報管理の担い手の養成に期待が集まっている。情報セキュリティ大学院大学は、その要請にいち早く応えるべく、04年度横浜市に開学した。
設置者の学校法人岩崎学園は、1927年に洋裁学校を設立。以降、神奈川県内で第一号の情報系専門学校をつくったのをはじめ、リハビリ、美容、ブライダル、デジタルアーツなど時流を先取りする分野の専門学校教育を展開してきた。運営する5校はいずれも「駅から徒歩3分以内」が強みで、JR横浜駅側の大学院大学のビルも、その中の一つを転用したものだ。
事務局の担当者は「新しい人材需要へのどこよりも早い対応を目指し、ファーストムーバーのリスクを積極的に引き受けてきた」と説明する。
大学院での教育内容は、情報セキュリティに関する技術やモラルに加え、組織の管理・運営、法律・条例などの社会制度、さらに経済の仕組みと、幅広い。その理由を辻井重男学長はこう説明する。「情報セキュリティの目的は、IT社会の利便性や自由度を保証しながら、安全性の確保やプライバシーの保護を実現すること。従って、技術や知識の習得にとどまらず、社会基盤の整備も含め担える人材が求められ、文系理系の枠を超えた広範な教育が必要です」。
同学長は東京工業大学、中央大学の教授を歴任、情報セキュリティの基礎となる暗号理論の専門家として知られる。最先端分野の教員の確保は、その産学にわたるネットワークで達成された。
養成する人材は、情報セキュリィを専門的に学んだシステムエンジニア、システムマネージャー、CSO(Chief Security Officer)、さらに研究者の4タイプ。研究者養成も掲げていることからわかるように、専門職大学院ではない。06年度には博士課程も設置する予定だという。
ただし、情報セキュリティの専門家は企業や自治体で特に必要とされているため、専任教員の大部分を企業出身者で占めるなど、専門職大学院に近い教育が行われている。辻井学長も「情報セキュリティは、常に変化していくダイナミックなプロセス。電子投票や電子マネーなど具体的なシステムを通じて総合力を発揮できる人材を育てたい」と話す。
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