ベネッセ教育総合研究所
特集 高等教育分野への新規参入者たち
 
PAGE 20/22 前ページ次ページ


【レポート5 情報セキュリティ大学院大学】
既存の施設を使い新分野に名乗り
 情報セキュリティ大学院大学は、この分野を単独の専門領域とする日本初の大学院だ。併設の専門学校からの学生受け入れなど、新しい人材養成システムも考えている。

“一番乗り”のリスクを覚悟

 企業の顧客情報の流出やコンピュータウイルスの発生など、情報化社会の暗部ともいえる問題が多発する中、安全・確実な情報管理の担い手の養成に期待が集まっている。情報セキュリティ大学院大学は、その要請にいち早く応えるべく、04年度横浜市に開学した。
 設置者の学校法人岩崎学園は、1927年に洋裁学校を設立。以降、神奈川県内で第一号の情報系専門学校をつくったのをはじめ、リハビリ、美容、ブライダル、デジタルアーツなど時流を先取りする分野の専門学校教育を展開してきた。運営する5校はいずれも「駅から徒歩3分以内」が強みで、JR横浜駅側の大学院大学のビルも、その中の一つを転用したものだ。
 事務局の担当者は「新しい人材需要へのどこよりも早い対応を目指し、ファーストムーバーのリスクを積極的に引き受けてきた」と説明する。
 大学院での教育内容は、情報セキュリティに関する技術やモラルに加え、組織の管理・運営、法律・条例などの社会制度、さらに経済の仕組みと、幅広い。その理由を辻井重男学長はこう説明する。「情報セキュリティの目的は、IT社会の利便性や自由度を保証しながら、安全性の確保やプライバシーの保護を実現すること。従って、技術や知識の習得にとどまらず、社会基盤の整備も含め担える人材が求められ、文系理系の枠を超えた広範な教育が必要です」。
 同学長は東京工業大学、中央大学の教授を歴任、情報セキュリティの基礎となる暗号理論の専門家として知られる。最先端分野の教員の確保は、その産学にわたるネットワークで達成された。
 養成する人材は、情報セキュリィを専門的に学んだシステムエンジニア、システムマネージャー、CSO(Chief Security Officer)、さらに研究者の4タイプ。研究者養成も掲げていることからわかるように、専門職大学院ではない。06年度には博士課程も設置する予定だという。
 ただし、情報セキュリティの専門家は企業や自治体で特に必要とされているため、専任教員の大部分を企業出身者で占めるなど、専門職大学院に近い教育が行われている。辻井学長も「情報セキュリティは、常に変化していくダイナミックなプロセス。電子投票や電子マネーなど具体的なシステムを通じて総合力を発揮できる人材を育てたい」と話す。

規制緩和のタイミングと合致

 岩崎学園では20年以上前から大学の設置を検討しながら、校地面積をはじめとする大学設置基準に阻まれていたという。工場等制限法の撤廃など近年相次いだ規制緩和と、情報管理の安全性確保への関心の高まりで、「タイミングがぴったり重なった」と指摘する。
 学部ではなく大学院にした背景には、情報セキュリティが高度な学際的総合科学であることに加え、「理事長の『従来の高等教育制度に風穴を開けたい』との意気込み」(事務局)もあったという。同じく今年度、併設の情報科学専門学校にも4年制の「情報セキュリティ学科」を新設した。専門学校からダイレクトに大学院に進むルートを設け、従来の人材養成のあり方に一石を投じようというわけだ。現段階では大学院に専門学校からの推薦枠を設定するなどの具体的な構想はないが、「情報セキュリティについて4年間きちんと学んだ優秀な人であれば、ぜひ受け入れたい」(辻井学長)という。
 大学院の初年度の学生は、社会人が大半を占める。認可から募集開始までの期間が短かったこともあり、定員には達しなかった。05年度の学生確保に向けて、シンポジウムや大学生対象の論文募集事業などの活動を展開している。
 高校教員に情報セキュリティ教育のコンテンツを提供することも計画している。高校との接点を作ることで、系列の専門学校の募集にもつなげたい考えだ。



PAGE 20/22 前ページ次ページ
トップへもどる
目次へもどる
 このウェブページに掲載のイラスト・写真・音声・その他のコンテンツは無断転載を禁じます。
 
© Benesse Holdings, Inc. 2014 All rights reserved.

Benesse