ベネッセ教育総合研究所
凡庸な学生を作らないための堅固な土台づくり
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遠近法

凡庸な学生を作らないための堅固な土台づくり
武蔵野大学教授  ガイダンス教育研究会 矢内 秋生
学ぶ意欲が乏しい学生にどう対処するか

 旧帝大を筆頭に、国立大学の大学院重点化、研究拠点化が着々と進んでいる。九州大学も早くから大学院改革に取り組み、2000年度には、研究科を教育組織である「学府」と研究組織である「研究院」に分離した。現在は11の学部と17の学府、16の研究院という組織体制になっている。大学院は従来のように学部の上に置く構造ではなく、研究内容に合わせて編成されるべきだという考え方に基づいた組織変革といえる。
 大学院まで進み6年または9年間という長丁場の学問を続ける学生にとって基礎教育は重要な意味を持つ。また、4年間で卒業する学生であっても、基礎教育の土台が重要である。
 九州大学では、1、2年生を低年次学生、3、4年生を高年次学生と呼び、低年次から専門科目が学べる一方で、高年次でも履修できる基礎教育としての教養科目を幅広く用意している。自分の専門の科目を受講してみて、はじめて基礎的知識が足りないことに気付く学生や、さらに知識を広げたいと考える学生の意欲に応えるには、効果的な仕組みといえる。
 しかし、自ら学びたいことがわかって入学してくる学生であればいいが、やりたいことが見つからない、動機づけができていない学生も多い。この現象は、偏差値の程度や、国立私立の別に関係なく起こっている。そんな学生にどのように対処すべきか、多くの大学で話題になる。九州大学ではこの傾向を予見していたかのように、いち早く、「大学とは何か」という科目を開講した。そこに、低年次教育が担う土台づくりへの大学の意図が読み取れる。

偉大な親の背中を見て育つ学生

 九州大学で行われている全学教育科目の中でも、入学間もない学生が大学らしさを感じるのが、20〜30人単位で行われる少人数ゼミナールだろう。この科目では、調査、発表、討論というプロセスを学ぶ。しかも定年退職したばかりの名誉教授が3年任期で担当している。
 専門の各論科目は若手研究者の教員であっても魅力的な授業ができるが、専門の通論科目は若手では表面的な内容になってつまらなくなる、とよくいわれる。ベテラン教員による専門分野での経験や周辺知識が、その科目に通史的な彩りを与えて魅力的なものになるという意味である。同様の視点から、ベテラン教員によるゼミナールも、その教員の経験談や幅広い知見、さらに研究生活そのものの魅力まで学生に伝えてもらえるということが期待できる。
 しかし、この期待が現実のものになるためには、教員は二つの前提を理解して話す内容や教え方を工夫していくことが必要となる。一つは、どのような分野の専門であっても知的探求を行うプロセスは共通しているという前提である。二つ目は、知的探求のためのスキル(レポートの書き方や調査方法など)も基本的なところでは共通しているという前提である。
 さらに受講する学生の方にも心構えが必要となる。それは、碩学研究者の行うゼミナールは個人の専門テーマの提示だけでないということが理解でき、自分の進みたい分野以外の研究アプローチにも興味関心が持てること。さまざまな知的活動の体験が将来の自分の創造性や教養の深化にも結びつくということが理解できていること、である。  今後、カリキュラムの適切なガイダンスによって、教員側の教育内容や手法に対する学生側の心構えが一致すれば、このゼミナールは、さらに大きな効果を上げることだろう。
 九州大学という歴史と伝統のある大学の名誉教授が行うゼミナールからどのような学生が育つだろうか。親が偉大であれば、その刺激を受けて子供がすばらしい成長を遂げることもあれば、親が偉大過ぎるために子供が凡庸になることもある。堅固な土台づくりのために、全学教育として必修とすべき内容は何か、さらに各学部で強化すべき基礎教育は何かなど、11年後のキャンパスの移転統合までに検討すべき課題は少なくないようだ。


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