ベネッセ教育総合研究所
特集 高等教育分野への新規参入者たち
宇野 重昭
島根県立大学学長
公立大学協会副会長
宇野 重昭


Profile
1930年島根県出身。53年東京大学教養学部卒業。60年同大学大学院社会科学研究科博士課程単位取得退学。専門は国際関係論。外務省外務事務官、成蹊大学法学部長、日本国際政治学会理事長、成蹊大学学長などを経て00年から島根県立大学学長。15、16期日本学術会議会員。
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【寄稿】
公立大学をめぐる課題と改革の方向性
■公立大学は埋没するのか
国立・私立の改革の間で


 『日本経済新聞』にシリーズで掲載された「大学激動」の04年8月7日付紙面は「改革迫られる公立大」と題し、公立大学の問題を取り上げていた。そこでは、「法人化した国立大学と生き残りをかける私大が入り乱れた競争が激化。その中で公立大は、県庁所在地周辺に複数の県立大と市立大が併存するなど、個々の存在が埋没しかねない状況にある」と指摘している。
 77の公立大学の連携機関である公立大学協会は、言うまでもなく早くからこのような危機感を抱き、「国立とも私立とも異なる第三の途を創造的に選択していくこと」の必要性を訴えてきた。また公立大学が、官立専門学校の公立移管の初期形態、あるいは地方の大学として低く見られがちだという「国立大学補完論」的なイメージを払拭し、「公立大学の独自性」論を展開してきた。
 ただ、公立大学の独自性が地方の自治体のそれとともにあり、そして具体的な実践が地域貢献に集中していたことは、否定できない。しかし今や地方の国立大学法人も地域貢献・地域連携に本格的に乗り出し、私立大学もまた、地方自治体を中心に連携の輪を強化し、連合公開講座を深化させようとしている。
 そしていったん動き出すと、旧国立大学は一般的に公立大学よりはるかに規模は大きく、他方、私立大学も公立大学より長期の歴史と伝統、多くの卒業生を擁し、その政策決定も自由であり、スピーディである。そのような現在、公立大学の独自性は、どのようにして発揮することが可能であろうか。
■公立大学の新しい可能性
“弱み”をプラスに転換


 当然のことながら公立大学は、従来マイナス要素と見られがちであったものをプラスに転化するよう、発想を変えていかなければならない。
 マイナス要因とは、従来、大都市の公立大学を除き規模が小さい、特定の専門領域に偏っている、あまりにも多種多様でまとまりがない、といったような点であろう。しかし、発想を変えるならば、規模が小さいからこそ構造的改革に積極的に取り組むことができるし、特定の部門に偏っているからこそ、個性的発展の途を見いだすこともできるはずだ。また、多種多様であるからこそ、大学間の情報交換・ネットワーク形成を一層有意義なものにすることができる。
 見方を変えるならば、たとえば地域貢献とは、上から知識を地域に伝達することにとどまるものではない。地域の経験を積極的に吸い上げ、その知的交流を媒介する拠点となり、地域自身の知的レベルをボトムアップさせることも地域貢献といえる。それにより、大学自身もまたその厚みを増していくという可能性を内含する。
 また、それぞれの大学に特有の部門、たとえば地域学にしても、地域社会福祉論にしても、伝統・歴史の再発掘にしても、具体的、実践的で、キメの細かい学問的発展を図ることが求められる。その場合、特定の部門に集中している大学が多いことは、効果的な成果を挙げることと結びつきうる。また、特定の部門を深めていくことは、積極的にいうなら、国際的にも評価されうる新しい研究方法を開拓していくことにつながる。特に各地方の自治体が、国境を超えて独自の経済提携・自治連合・学術協力を志向している現代、地方の大学にも、各レベルの自治体と提携して、国際的水準に達する新しい研究分野を開拓する可能性が広がる。


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