ベネッセ教育総合研究所
特集 高等教育分野への新規参入者たち
 
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【レポート3 首都大学東京】
経営的視点の強化で教員人事制度も見直し
 東京都は都立大学など4校を廃止し、2005年度に首都大学東京を新設する。履修の自由度を保証する単位バンクを導入するなど、学生主体の教育サービスへの転換を進める。

教育と経営の二つの視点から改革

 廃止されるのは、東京都立、都立科学技術、都立保健科学の3大学と都立短大。新設の首都大学東京には、都市教養、都市環境、システムデザイン、健康福祉の4学部が置かれる。伝統的な縦割りの学問体系ではなく、学際的に学べる教育プログラムを提供する。
 東京都大学管理本部の紺野秀之参事によると、今回の改革は二つの視点で行われたという。「カリキュラムの固定化など、教える側の論理で組み立てられている教育を学ぶ側の論理で組み立て直すことと、限られた資金や人材を戦略的に配分するなど経営的視点を盛り込むことです」。4校には毎年百数十億円の税金が投入されているが、都では近年、10%程度のマイナスシーリングが続き、教員の研究費も年々減少しているという。
 改革は行政主導で始まった。01年11月に都が策定した改革大綱に沿って教員も加わり検討してきたが、「社会環境の変化に伴い再検討が必要となり」(同参事)、外部有識者の意見を入れた新たな構想を03年8月に発表。そこでは大都市の大学の使命を前面に打ち出し、都市の課題に対応する学問体系への再編を提起。一部の教員がこれに反発し、新大学への就任を拒否するなどの混乱が起きた。
 紺野参事は、「改革には様々な意見があって当然。そのため、新大学の設立にあたってはできるだけ多くの教員に準備作業に参加してもらうようにしています」と、全体としては、大学と行政が連携した改革だとの見方を強調する。統合ではない廃止による新設については、「現状の学内体制や人事体系、管理運営制度は、廃止という前提がないと抜本的に改革できないため」と説明。
 学生主体の教育への転換として、新設大学では「単位バンクシステム」を導入、他大学での修得単位を認定し履修の自由度を高める。あらかじめ国内外の主要大学の開設科目を審査し、首都大学東京の単位として認定できるものをリストアップし、単位バンクに登録する。学生はその中から、首都大学東京の授業と同様に学びたい科目を選択する。またキャリア設計を明確にした上でこのシステムを有効活用できるよう、学生サポートセンターにキャリアカウンセラーを置く。同センターではあらゆる相談を受け付け、ワンストップサービスを提供する。
 設置予定の寮は単なる住居の提供ではなく、学生同士の密接な交流による人格形成を促す「現代的な寮」(同参事)との位置付けだ。

経営側も教員人事権を共有

 運営に経営の視点を入れるため、公立大学法人を選択し、教学に責任を持つ学長と経営に責任を持つ理事長を分離した。学長には、岩手県立大学学長・西澤潤一氏の就任を予定している。教員組織は、教授と准教授の2区分のみのフラットな構造に変更。風通しのいい柔軟な組織を目指す。学科がなくコース制にするのも、社会のニーズに即応して弾力的な教員配置を可能にするためだ。
 教員人事は、経営審議会と教育研究審議会の下に置く人事委員会(仮称)の判断にもとづいて実施。詳細は検討中だが、教授会には人事権がなくなる。任期制と年俸制も導入する。教授、准教授とも任期は5年で、年俸の中に業績評価を反映する部分を設けて教育研究を活性化させる。ただし、業績評価に教員の理解を得るため、細部を十分検討した上で開学1、2年後の導入を目指す。一方、職員は当面都からの派遣で賄い、プロの育成は今後検討するという。
 納税者に対しては、大都市の問題を解決する教育研究をサービスとして還元するという。「都市問題の解決に寄与できる人材が輩出したり、研究における行政との連携で都政のシンクタンク機能ができることで、都民も確実なメリットを享受できる」。03年度からは、都立大学が都内の高校生向けに、都市環境に関するゼミナールや合宿形式の討論発表会を開講する「東京未来塾」がスタート。新大学では、その修了生を対象にした特別推薦入試制度なども導入する。
 「公立大学は地域の課題を解決する存在でなくてはなりません。その成果を納税者に見える形で示す上で、大学の説明責任はより大きくなる」と同参事は話す。



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