ベネッセ教育総合研究所
特集 高等教育分野への新規参入者たち
PAGE 21/22 前ページ次ページ


【レポート4 横浜市立大学】
経営陣、学外者も教員人事に関与
 2005年度に法人化する横浜市立大学では、経営と教学を分離し、教員の任期制・年俸制を導入する。トップのリーダーシップを確立し、柔軟な運営システムの構築を目指す。
市、大学の双方に危機感

 横浜市立大学では、法人化に合わせて、現在の商、国際文化、理の3学部を統合して国際総合科学部を設置する。同時に看護短大部を看護学科として医学部に組み込み、2学部体制になる。
 市立大学を設置する意義、経営のあり方について検討するため、市では、02年9月に中田宏市長の諮問機関「市立大学の今後のあり方懇談会」を設置。03年2月の答申では、01年度時点で1140億円に上る累積負債を指摘した上で、
(1)大胆な改革による存続
(2)私立大学への売却
(3)私立大学への転換
(4)廃校
の四つの選択肢を提示。さらに、存続する場合の条件として、法人化、経営と教学の分離などを挙げた。市長は、主体的な取り組みを促すために、今度は大学側に改革案の提示を求めた。
 大学側ではこれに先立つ98年に、学長の諮問機関「将来構想委員会」が発足、独自に改革を検討していた。しかし、大学事務局の岡村一大学改革推進部長によると、「いいアイデアは出たが、どうしても総花的なものになり具体策に踏み込めなかった」という。売却や廃校まで視野に入れた「あり方懇」の答申に危機感を強めた大学側は、教員と職員からなる新しい委員会で議論、03年10月に市長に改革案を提出した。法人化や経営と教学の分離など、大胆な改革を目指す内容だったため、市長は基本的にこれを支持。現在、学内の大学改革推進部事務局で、組織体制や運営方法、教育プログラムなどが検討されている。
高度な経営判断も必要に

 理事長と学長を別々に置くことについては当初、異論も出たという。だが、附属病院などの難しい経営を抱える大学運営のためには、学長が理事長を兼ねるのは現実的でないと判断された。
 理事長に内定していた慶應義塾・元塾監局長の孫福弘氏の急逝を受けた人選で、企業経営者で市教育委員を務める宝田良一氏を抜擢。副理事長に就任予定の松浦敬紀氏は、多摩大学の経営情報学部教授で、現在は大学改革推進本部の最高経営責任者として最終的な調整にあたっている。一方、学長にはアメリカのベッカー大学前学長代行のブルース・ストロナク氏が就任する予定だ。同氏は国際関係学の専門家で、大学の管理運営にも携わってきた。
 法人化に伴って、全教員を対象に任期制と年俸制を導入。現在、
(1)任期は、博士の学位を持つ教員は5年、それ以外は3年とする
(2)年俸は固定部分と変動部分からなり、変動部分については同時に導入される評価制度によって最大20%の幅で変動する
との方向で検討が進んでいる。教員からは様々な意見があったが、検討プロジェクトに教員が参加し意見を調整することで理解は広まりつつあるという。
 教員の人事権は、教授会ではなく新たに発足する人事委員会が握る。ここには、経営、教学それぞれの代表のほか、学長が学外から任命する委員も加わる。職員は、大学で直接採用するプロパーを増やしていく考えだ。すでに、私立大学で国際交流などの経験を積んだ職員2人を採用。今後もキャリア支援や入試の担当者として、外部の人材を積極的に採用していく方針だ。
 新たに設置される国際総合科学部は、国際総合科学科1学科のみで定員は650人。人間科学、国際文化創造、基盤科学、環境生命、政策経営、国際経営、ヨコハマ起業戦略の七つのコースが置かれる。このうち、ヨコハマ起業戦略コースでは、地元企業へのインターンシップやまちづくりの実践、地域調査・実習などを通して、地域における産業、行政、市民と大学との実践的な連携を重視しつつ、起業マインドのある人材の育成を目指す。
 教員は学科やコースではなく、新しくできる研究院という組織に所属し、コースに派遣される形で教育を担当する。従来のように学部や学科に分属すると、縦割りの弊害が出て柔軟なカリキュラムや教育体制を作れないからだという。
 学生は学科一括で募集。1年次は共通教養を中心に学び、2年次から七つのコースに分かれるため、ミスマッチの問題も減ると期待されている。それぞれのコースには定員の上限が設けられているものの、一定程度自由なコース選択が保証されている。


PAGE 21/22 前ページ次ページ
トップへもどる
目次へもどる
 このウェブページに掲載のイラスト・写真・音声・その他のコンテンツは無断転載を禁じます。
 
© Benesse Holdings, Inc. 2014 All rights reserved.

Benesse