ベネッセ教育総合研究所
特集 高等教育分野への新規参入者たち
 
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【レポート5 札幌市立大学(仮称)】
市民参加で“自分たちの大学”を構想
 札幌市は、市立の高専などを母体にした市立大学を2006年度に開設する予定だ。スポンサーである市民を加えたオープンな議論は、公立大学改革の一つのモデルを提示している。
検討懇に3人の市民委員

 札幌市立大学(仮称)は、デザイン系の市立高等専門学校と市立高等看護学院(高看)の統合による設置が検討されている。この時代になぜ大学をつくるのか。市によると、理由は二つ。一つは、デザイン、看護の両分野で、大学レベルの専門知識とスキル、それを支える基礎教養が求められていることだ。大学設置準備室の本間伸治連携促進担当課長は、市の調査でも、デザイン分野では大卒者への求人が多く、看護分野でも高度医療への対応や再教育への需要の高さが裏付けられたと説明する。
 もう一つは、受験生の動向だ。高専の志願者は減少傾向にあり、5年制の本科を卒業した後、4年制大学に編入する人が増加。高看の志願者は高倍率を維持しているが、看護系4年制大学との併願が増え、両方合格した場合は大学を選ぶケースが多いという。
 そこで札幌市では、両校を統合して大学を設置するという方向性を提起。01年11月に設置した大学化検討懇話会の21人の委員には、デザイン、看護関連の団体や学校法人関係者のほか、公募で選ばれた3人の市民も加えた。客観的な視点から徹底的に議論するため、母体となる2校の関係者と市の関係者は入らなかった。
 約1年間、20回に及ぶ会議では、市立の大学が必要なのかという問題から始まり、学部学科の教育内容まで議論された。会議はすべて一般市民に公開したほか、内容をホームページに掲載。要点を報告するため専用のニュースレターも7回発行した。懇話会の代表と一般市民が直接意見を交わす市民フォーラムも2回開催するなど、徹底した情報公開で議論の透明性を高めた。
 その結果、市民からは「北海道には独自性を持って地域を考える場、人材を育てる機会が乏しかった。市民の意識改革のためにも独自性ある大学を」「社会人にも門戸を開いてほしい」など、のべ175件の意見が集まった。これらはすべて懇話会に報告され、議論の参考にすると同時に、ホームページやニュースレターでも紹介された。
 このような市民論議の集大成として、02年12月には懇話会から最終提言が出された。市はこれを受けて03年9月に基本構想をまとめ、市民参加による大学づくりの骨格を示した。
地域の団体が支援を申し出

 議論は、基本構想を受けて設置された設置準備委員会に引き継がれ、04年7月末には基本計画を発表。公立大学法人として開学し、デザイン系と看護系の2学部を置くことが明記された。準備委員会でも教育・研究の方向性について議論されたが、「少子高齢化を支えるまちづくりを進める上で両分野の連携は有意義で、他に例のない斬新な教育になる」との結論に達し、資源を有効活用することになった。
 既存2校の施設を生かし、南区と中央区の2キャンパス制をとる。定員は各学部80人で、高専・高看の定員計130人より増える。
 公立大学としての最大のテーマは地域貢献だという。特に看護では地域医療の必要性が高まっており、地域が抱える課題に対応できる教育を目指す。デザインと看護の融合分野にも力を入れ、ユニバーサルデザイン、医療福祉機器のデザイン、医療・福祉に配慮した都市デザインなどのテーマが検討されている。準備委員会では現在、教育内容やカリキュラムを検討している。
 懇話会からの提言が出されて以降、道看護協会や道印刷関連業協議会など、20以上の団体から、奨学金制度の創設、インターンシップや実習の受け入れ、就職支援などの支援表明があった。市では「市民と共に議論してきたことで、地域の関心が高まり『自分たちの大学』という意識が生まれたのだろう」とみる。
 教員は、高専と高看からの移行者を対象にした先行公募を終え、一般応募に入る。大学設置基準上の教員審査という新たなハードルになるため、教員の確保は大きな課題だ。職員については、できるだけプロパー職員を増やし大学行政の専門家を育てる方向で、今後選考や育成の方法をつめる。地域貢献の具体的なプログラム開発や産学連携の窓口づくりなど、開学までの検討課題は少なくない。


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